【BMW 7シリーズ 海外試乗】ついに『Sクラス』を脅かすレベルに仕上がった…渡辺慎太郎
2022年の今年もさまざまなクルマに触れる機会を頂戴したけれど、もっとも想定外で期待以上で衝撃的だったのはBMWの新型『7シリーズ』かもしれない。
そう思ったのは、自他共に認めるライバルのメルセデス『Sクラス』の出来がすこぶるよくて、それに太刀打ちするのはなかなかやっかいだろうと考えていたからだ。しかし結論から言えば、新型7シリーズはSクラスを脅かすレベルに仕上がっていた。
EVも専用プラットフォームではなく、“7”であることにこだわった
プラットフォームは現行『3シリーズ』と共に登場したエンジン縦置き/後輪駆動のそれを流用しているとされるが、サイズも重量もあまりにも異なるので、あくまでも概念的なものと捉えたほうがいい。もっとも興味深いのは、新型7シリーズはひとつのボディを内燃機のICEと電気自動車のBEVで共有している点にある。メルセデスのBEVのSクラス的存在である『EQS』はBEV専用のプラットフォームを使い、スタイリングもSクラスとはまったく異なる商品戦略を選んでいるからだ。
コストや生産設備などを考慮すれば、ICEもBEVのひとつのボディにしてしまったほうがいい。しかし、エンジンと比べると排気系やギヤボックスなどを持たないBEVのほうがパワートレインは圧倒的にコンパクトであり、エンジンのサイズに合わせたエンジンコンパートメントはBEVには若干大きすぎるし、EQSのキャブフォワードのようなBEVならではのパッケージやデザインが採用しにくくなる。BMWとしては、やはりフラッグシップの“7”にこだわったようで、あえてICEもBEVも同じプラットフォームとボディデザインを選択したそうだ。
ラインアップは現時点で、
「i7 xDrive60」(BEV)
「735i」(3リットル、直列6気筒マイルドハイブリッド)
「740i」(3リットル、直列6気筒マイルドハイブリッド)
「760i xDrive」(4.4リットル、V型8気筒マイルドハイブリッド)
「740d xDrive」(3リットル、直列6気筒ディーゼルマイルドハイブリッド)
「750e xDrive」(3リットル、直列6気筒プラグインハイブリッド)
「M760e xDrive」(3リットル、直列6気筒プラグインハイブリッド)
が公表されているが、日本仕様はi7 xDrive60(1670万円)と740i(1460万円)の導入が決まっている。アメリカ・パームスプリングスで開催された国際試乗会には、この中からi7 xDrive60と760i xDriveが用意されていた。
サイズ的にも見た目にも、かなりの存在感
新型7シリーズのスタイリングについてはさまざまな意見があるようだが、これまでもBMWはときどきデザイン革新をやってきた。7シリーズなら、クリス・バングルが手掛けた4代目のE65でもちょうどいまのような世論が巻き起こっていたように記憶している。
i7のボディサイズは全長5319mm、全幅1950mm、全高1544mm、ホイールベース3215mm。これをメルセデスのSクラス(ロング)と比べて見ると、i7のほうが29mm長く30mm幅広く39mm背が高く、でもホイールベースは同値となる。つまり相当大きなボディである。ちなみに、キドニーグリルにLEDが仕込まれて、輪郭が光る仕様もあった。サイズ的にも見た目にも、かなりの存在感があることだけは確かである。
車内に乗り込むと、わずかに湾曲する14.9インチのディスプレイが配置されたダッシュボードに迎えられる。個人的に印象的だったのはエアコンの吹き出し口が上手に隠されている点。トリムとトリムの隙間から空気を車内へ送り込んでいる。ルーバーとともに大きく口を開けた吹き出し口がないと、ダッシュボードはこんなにもスッキリするのだと感心した。
それよりも一般的に注目されるのは、後席用の31.3インチのシアタースクリーンだろう。スイッチを入れると天井に張り付いていたモニターが立ち上がり、後席の前方をほぼ塞ぐ。当然のことながら、このときリヤビューミラーはもはや使い物にならないから、ドライバーはサイドミラーかカメラを使って後方確認するしか方法がなくなる。
歴史上もっとも熾烈な戦いとなる
メルセデスのEQSでは風切り音の少なさに驚いたが、i7ではロードノイズの少なさに舌を巻いた。遮音や吸音を徹底的にやったようで、静粛性は自分が知るBMWの中では断トツに優れている。この静かさはエンジンを積む760iでも実感できるレベルである。エアサスペンションによってばね上の動きがコントロールされる乗り心地もまた優れており、快適性の観点ではメルセデスSクラスと双璧を成している。
i7が搭載するバッテリー容量は101.7kWhで、EQSの107.8kWhよりやや小さいものの、航続距離は625km(EQSは700km)と公表されている。システム最高出力544ps、システム最大トルク745Nmで前後のモーターが4輪を駆動するものの、急にトルクが立ち上がることもなく、フラッグシップセダンにふさわしいジェントルなスタートだ。
さらにアクセルペダルを踏み込むと、今度は2640kgの重量をものともしない力強い加速感が体感できる。むしろ760iのほうがややアグレッシブな加速感だと感じたのは、エンジン音やわずかな振動のせいかもしれない。
両方の試乗車にはオプションの後輪操舵といわゆるアクティブスタビライザーが装着されていて、ゆえに実際のホイールベースよりも短い感覚でよく曲がり、その時のばね上の動きはロール方向の動きがそっと抑えられている。つまりこれほどの巨体であってもBMWらしいアジリティをきちんと備えていた。
もし永遠のライバルであるSクラスと同条件で比較対決したら、すべての性能面で両者の歴史上もっとも熾烈な戦いとなるに違いない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
そう思ったのは、自他共に認めるライバルのメルセデス『Sクラス』の出来がすこぶるよくて、それに太刀打ちするのはなかなかやっかいだろうと考えていたからだ。しかし結論から言えば、新型7シリーズはSクラスを脅かすレベルに仕上がっていた。
EVも専用プラットフォームではなく、“7”であることにこだわった
プラットフォームは現行『3シリーズ』と共に登場したエンジン縦置き/後輪駆動のそれを流用しているとされるが、サイズも重量もあまりにも異なるので、あくまでも概念的なものと捉えたほうがいい。もっとも興味深いのは、新型7シリーズはひとつのボディを内燃機のICEと電気自動車のBEVで共有している点にある。メルセデスのBEVのSクラス的存在である『EQS』はBEV専用のプラットフォームを使い、スタイリングもSクラスとはまったく異なる商品戦略を選んでいるからだ。
コストや生産設備などを考慮すれば、ICEもBEVのひとつのボディにしてしまったほうがいい。しかし、エンジンと比べると排気系やギヤボックスなどを持たないBEVのほうがパワートレインは圧倒的にコンパクトであり、エンジンのサイズに合わせたエンジンコンパートメントはBEVには若干大きすぎるし、EQSのキャブフォワードのようなBEVならではのパッケージやデザインが採用しにくくなる。BMWとしては、やはりフラッグシップの“7”にこだわったようで、あえてICEもBEVも同じプラットフォームとボディデザインを選択したそうだ。
ラインアップは現時点で、
「i7 xDrive60」(BEV)
「735i」(3リットル、直列6気筒マイルドハイブリッド)
「740i」(3リットル、直列6気筒マイルドハイブリッド)
「760i xDrive」(4.4リットル、V型8気筒マイルドハイブリッド)
「740d xDrive」(3リットル、直列6気筒ディーゼルマイルドハイブリッド)
「750e xDrive」(3リットル、直列6気筒プラグインハイブリッド)
「M760e xDrive」(3リットル、直列6気筒プラグインハイブリッド)
が公表されているが、日本仕様はi7 xDrive60(1670万円)と740i(1460万円)の導入が決まっている。アメリカ・パームスプリングスで開催された国際試乗会には、この中からi7 xDrive60と760i xDriveが用意されていた。
サイズ的にも見た目にも、かなりの存在感
新型7シリーズのスタイリングについてはさまざまな意見があるようだが、これまでもBMWはときどきデザイン革新をやってきた。7シリーズなら、クリス・バングルが手掛けた4代目のE65でもちょうどいまのような世論が巻き起こっていたように記憶している。
i7のボディサイズは全長5319mm、全幅1950mm、全高1544mm、ホイールベース3215mm。これをメルセデスのSクラス(ロング)と比べて見ると、i7のほうが29mm長く30mm幅広く39mm背が高く、でもホイールベースは同値となる。つまり相当大きなボディである。ちなみに、キドニーグリルにLEDが仕込まれて、輪郭が光る仕様もあった。サイズ的にも見た目にも、かなりの存在感があることだけは確かである。
車内に乗り込むと、わずかに湾曲する14.9インチのディスプレイが配置されたダッシュボードに迎えられる。個人的に印象的だったのはエアコンの吹き出し口が上手に隠されている点。トリムとトリムの隙間から空気を車内へ送り込んでいる。ルーバーとともに大きく口を開けた吹き出し口がないと、ダッシュボードはこんなにもスッキリするのだと感心した。
それよりも一般的に注目されるのは、後席用の31.3インチのシアタースクリーンだろう。スイッチを入れると天井に張り付いていたモニターが立ち上がり、後席の前方をほぼ塞ぐ。当然のことながら、このときリヤビューミラーはもはや使い物にならないから、ドライバーはサイドミラーかカメラを使って後方確認するしか方法がなくなる。
歴史上もっとも熾烈な戦いとなる
メルセデスのEQSでは風切り音の少なさに驚いたが、i7ではロードノイズの少なさに舌を巻いた。遮音や吸音を徹底的にやったようで、静粛性は自分が知るBMWの中では断トツに優れている。この静かさはエンジンを積む760iでも実感できるレベルである。エアサスペンションによってばね上の動きがコントロールされる乗り心地もまた優れており、快適性の観点ではメルセデスSクラスと双璧を成している。
i7が搭載するバッテリー容量は101.7kWhで、EQSの107.8kWhよりやや小さいものの、航続距離は625km(EQSは700km)と公表されている。システム最高出力544ps、システム最大トルク745Nmで前後のモーターが4輪を駆動するものの、急にトルクが立ち上がることもなく、フラッグシップセダンにふさわしいジェントルなスタートだ。
さらにアクセルペダルを踏み込むと、今度は2640kgの重量をものともしない力強い加速感が体感できる。むしろ760iのほうがややアグレッシブな加速感だと感じたのは、エンジン音やわずかな振動のせいかもしれない。
両方の試乗車にはオプションの後輪操舵といわゆるアクティブスタビライザーが装着されていて、ゆえに実際のホイールベースよりも短い感覚でよく曲がり、その時のばね上の動きはロール方向の動きがそっと抑えられている。つまりこれほどの巨体であってもBMWらしいアジリティをきちんと備えていた。
もし永遠のライバルであるSクラスと同条件で比較対決したら、すべての性能面で両者の歴史上もっとも熾烈な戦いとなるに違いない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
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