【ルノー アルカナ 新型試乗】ルノーを「燃費」で選ぶ時代がくるとは…中村孝仁
ルノー『アルカナ』がマイナーチェンジを受けた。と言ってもメカニカル系の変更はなく、もっぱらフェイスリフトとモデルミックスの変更である。
今回の変更で従来ルノーにあった「R.S.」と名付けられたラインが姿を消し、代わって「エスプリ アルピーヌ」というグレードが新登場した。もちろんR.S.ラインに変わって登場したわけだから、いわゆるスポーティー系のモデルなわけだけれど、よりプレミアム化したグレードとして設定されている。
広報のS氏曰く、「ルノーのような中級ブランドのメーカーはその立ち位置が微妙で難しい」というような趣旨のことを話されていたけれど、個人的にはプレミアム化したエスプリ アルピーヌなどは、これから少しプレミアムブランドの入り口に足を踏み入れたモデルとして、育っていくのではないかという期待を持たせるモデルのように感じられた。
◆差別化が難しい時代に活きる、ルノーのオシャレ演出
その理由は、近年の自動車はメカニズムでの差別化が非常に難しいこと。内燃機関は性能的にはほぼやり尽くした感があるし、今後は電気系のクルマが横行する時代だろうから、そこでの差別化は厳しい。となるといきおい、装備や仕様素材などでの差別化が中心となる。
新しいエスプリ アルピーヌには、TEPレザーといういわゆるフェイクのレザーが使われているが、世の中SDGsの進行で、本革や本木目は使えなくなる傾向にある。レザーの場合、何もつかないレザーからナッパレザー、セミアニリンレザー等々、同じ革でもその手のかけ方によって価格も上がり、プレミアム化が可能であったが、これがフェイクの世界になると、そう大きな差別化は難しい(今のところ)。
そして本木目に代わって色々な加飾が考案されているが、それによる差別化も見栄えという観点から行くとなかなか難しくなっている。昔はロールスロイスを始め、瘤目を使ったウォールナットが高級車の代名詞のようであったが、そのロールスロイスも最早そうした素材は使われていないし、そもそもそこを売りにはしていない。
エスプリ アルピーヌは、フレンチトリコロールのステッチとフランス国旗のタグ、それにアルピーヌのAをあしらったシートなど、同社のブランド、アルピーヌを最大限使った内装とし、外装にもボディサイドのエンブレムや、ホイールにアルピーヌを強調している。ちょっとしたオシャレ感や高級感を醸し出す技は、ルノーの場合昔から得意で、コンパクトながら実に高級だったルノー『サンク・バカラ』を例にとるまでもなく、その表現が上手い。
外観上はフロントに付くルノーエンブレムがフラットなデザインに変わった一方で、グリルはそのエンブレムを立体的に反復する手法で凹凸感を出しているほか、リアエンドにも変更があるのだが、それらの細かい話はカタログを見て頂ければわかる。
◆ルノーが低燃費という新たな武器を手に入れた
メカニズムで唯一変わった点と言えば、E-saveという、いわゆるバッテリー残量を保つ機能が標準装備化されたことだ。これをonにしておけば、だらだらとした上り坂が続く状況で、常に力強い加速感が得られるというが、デフォルトはoffだから、必要に応じて入れる必要がある。
ではこのE-saveがon状態とoff状態で走りに変化があるかというと、実はある。街中を走行するレベルのスピード域でアクセルのon/offが繰り返されると、その都度エンジンが顔をのぞかせるのがon状態。一方でoffの場合はそうした状況はほとんどモーターで走っているから、スムーズだしギクシャク感がない。なので日常的に走るケースはデフォルトが正解である。
相変わらず走りは素晴らしい。ハンドリングにしても乗り心地にしても、運動性能的にもレベルはとても高い。そしてアルカナ登場から2年を経て、ルノーが行ったユーザーサーヴェイでは、5つあるアルカナ購入理由の2番目に低燃費が入っているという。これまでその運転の楽しさやスポーティーさなどが、ルノーの購入理由(カングーは違うが)の上位に来るのが当たり前だったが、低燃費という新たな武器を手に入れた。
しかも E-TECHの良いところは実燃費での実力があることで、その気になって走るとWLTC測定の22.8km/リットルを超えることもある。普通に走っても軽々と17km/リットルは叩き出すのだから、まさに低燃費がアルカナの武器の一つであることは間違いない。デビューした時、日本での価格は429万円。2年経って少し高級感を身に着けたエスプリアルピーヌのアルカナは、499万円である。高いと感じるのだから、日本が貧乏な国になったことを痛感せざるを得ない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
今回の変更で従来ルノーにあった「R.S.」と名付けられたラインが姿を消し、代わって「エスプリ アルピーヌ」というグレードが新登場した。もちろんR.S.ラインに変わって登場したわけだから、いわゆるスポーティー系のモデルなわけだけれど、よりプレミアム化したグレードとして設定されている。
広報のS氏曰く、「ルノーのような中級ブランドのメーカーはその立ち位置が微妙で難しい」というような趣旨のことを話されていたけれど、個人的にはプレミアム化したエスプリ アルピーヌなどは、これから少しプレミアムブランドの入り口に足を踏み入れたモデルとして、育っていくのではないかという期待を持たせるモデルのように感じられた。
◆差別化が難しい時代に活きる、ルノーのオシャレ演出
その理由は、近年の自動車はメカニズムでの差別化が非常に難しいこと。内燃機関は性能的にはほぼやり尽くした感があるし、今後は電気系のクルマが横行する時代だろうから、そこでの差別化は厳しい。となるといきおい、装備や仕様素材などでの差別化が中心となる。
新しいエスプリ アルピーヌには、TEPレザーといういわゆるフェイクのレザーが使われているが、世の中SDGsの進行で、本革や本木目は使えなくなる傾向にある。レザーの場合、何もつかないレザーからナッパレザー、セミアニリンレザー等々、同じ革でもその手のかけ方によって価格も上がり、プレミアム化が可能であったが、これがフェイクの世界になると、そう大きな差別化は難しい(今のところ)。
そして本木目に代わって色々な加飾が考案されているが、それによる差別化も見栄えという観点から行くとなかなか難しくなっている。昔はロールスロイスを始め、瘤目を使ったウォールナットが高級車の代名詞のようであったが、そのロールスロイスも最早そうした素材は使われていないし、そもそもそこを売りにはしていない。
エスプリ アルピーヌは、フレンチトリコロールのステッチとフランス国旗のタグ、それにアルピーヌのAをあしらったシートなど、同社のブランド、アルピーヌを最大限使った内装とし、外装にもボディサイドのエンブレムや、ホイールにアルピーヌを強調している。ちょっとしたオシャレ感や高級感を醸し出す技は、ルノーの場合昔から得意で、コンパクトながら実に高級だったルノー『サンク・バカラ』を例にとるまでもなく、その表現が上手い。
外観上はフロントに付くルノーエンブレムがフラットなデザインに変わった一方で、グリルはそのエンブレムを立体的に反復する手法で凹凸感を出しているほか、リアエンドにも変更があるのだが、それらの細かい話はカタログを見て頂ければわかる。
◆ルノーが低燃費という新たな武器を手に入れた
メカニズムで唯一変わった点と言えば、E-saveという、いわゆるバッテリー残量を保つ機能が標準装備化されたことだ。これをonにしておけば、だらだらとした上り坂が続く状況で、常に力強い加速感が得られるというが、デフォルトはoffだから、必要に応じて入れる必要がある。
ではこのE-saveがon状態とoff状態で走りに変化があるかというと、実はある。街中を走行するレベルのスピード域でアクセルのon/offが繰り返されると、その都度エンジンが顔をのぞかせるのがon状態。一方でoffの場合はそうした状況はほとんどモーターで走っているから、スムーズだしギクシャク感がない。なので日常的に走るケースはデフォルトが正解である。
相変わらず走りは素晴らしい。ハンドリングにしても乗り心地にしても、運動性能的にもレベルはとても高い。そしてアルカナ登場から2年を経て、ルノーが行ったユーザーサーヴェイでは、5つあるアルカナ購入理由の2番目に低燃費が入っているという。これまでその運転の楽しさやスポーティーさなどが、ルノーの購入理由(カングーは違うが)の上位に来るのが当たり前だったが、低燃費という新たな武器を手に入れた。
しかも E-TECHの良いところは実燃費での実力があることで、その気になって走るとWLTC測定の22.8km/リットルを超えることもある。普通に走っても軽々と17km/リットルは叩き出すのだから、まさに低燃費がアルカナの武器の一つであることは間違いない。デビューした時、日本での価格は429万円。2年経って少し高級感を身に着けたエスプリアルピーヌのアルカナは、499万円である。高いと感じるのだから、日本が貧乏な国になったことを痛感せざるを得ない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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