【試乗記】スズキ・ジムニー/メルセデス・ベンツGクラス(前編)
- スズキ・ジムニーXC(4WD/4AT)/メルセデス・ベンツG550(4WD/9AT)
その男気を讃えたい
本格的なオフロード性能を有するクロスカントリー車として、今や貴重な存在となった「スズキ・ジムニー」と「メルセデス・ベンツGクラス」。価格もボディーサイズも異なる2台の間に、共通する価値観はあるのか? 東京-富士ヶ嶺のドライブを通して確かめた。
わが道を行く2台のクロスカントリー
スズキ・ジムニーとメルセデス・ベンツGクラス。大小のカクカクしたクルマが並んでいるのを見て、「すわ比較テストでも行うのか」と思われた方がいるかもしれない。けれども、値段が10倍近くも違うクルマを比べて意味があるとは思えない。ジムニーとGクラスの2台を並べた理由をわかりやすく説明すると、この2台は『万引き家族』なのである。……余計にわかりにくくなってしまったようなので、もう少し説明させてください。
2018年の初夏、ジムニーは20年ぶりのフルモデルチェンジを受けた。ほぼ同じタイミングで、デビューから約40年で初めての全面刷新を受けたGクラスが日本に上陸した。
この10年、20年の間にクルマ界にはいくつかの大きな変化があったけれど、そのうちのひとつがSUVの隆盛だ。エンジン横置きのFFをベースにしたモノコックボディーのヤワでナンパなやつらが幅を利かせ、各社のドル箱となっていった。
実のところ、ヤワでナンパなSUVは軽~い感じがして、決して嫌いではない。軽薄短小な1980年代に青春を過ごした影響かもしれない。とはいえ、もしジムニーとGクラスに人格があったなら、「ちっ」と舌打ちをして、「エンジンぐらい縦に置いたらどうや……」と、ノムさん(野村克也さん)のようにボヤいたに違いない。同時に、「ホンモノを見せたるわ」とも思ったのではないだろうか。
果たして新しいジムニーとGクラスは、屈強なはしご型フレームからサスペンションを生やしたラダーフレーム構造を堅守し、もちろんエンジンを縦に置き、従来型をはるかに上回る高度な悪路走破性能を備えて登場した。Gクラスは、オフロードで新型と従来型を比較試乗したけれど、悪路を走破する能力はもちろん、ドライバーに与える安心感や信頼感は新型がケタ違いに上だった。
つまりジムニーとGクラスは、SUVの流行とは一線を画してわが道を貫いたのだ。そういう意味で、血縁関係はないけれど思いを同じにする仲間、つまり『万引き家族』なのだ。この2台は、ラダーフレームというひとつ屋根の下に、もとい、ひとつ床の上に暮らしている。もちろん、ジムニーとGクラスは万引きをしない。ということで、この2台を集めて、自分を貫き通した男気(おとこぎ)を讃(たた)えようというのが、この企画の意図である。
2018年の初夏、ジムニーは20年ぶりのフルモデルチェンジを受けた。ほぼ同じタイミングで、デビューから約40年で初めての全面刷新を受けたGクラスが日本に上陸した。
この10年、20年の間にクルマ界にはいくつかの大きな変化があったけれど、そのうちのひとつがSUVの隆盛だ。エンジン横置きのFFをベースにしたモノコックボディーのヤワでナンパなやつらが幅を利かせ、各社のドル箱となっていった。
実のところ、ヤワでナンパなSUVは軽~い感じがして、決して嫌いではない。軽薄短小な1980年代に青春を過ごした影響かもしれない。とはいえ、もしジムニーとGクラスに人格があったなら、「ちっ」と舌打ちをして、「エンジンぐらい縦に置いたらどうや……」と、ノムさん(野村克也さん)のようにボヤいたに違いない。同時に、「ホンモノを見せたるわ」とも思ったのではないだろうか。
果たして新しいジムニーとGクラスは、屈強なはしご型フレームからサスペンションを生やしたラダーフレーム構造を堅守し、もちろんエンジンを縦に置き、従来型をはるかに上回る高度な悪路走破性能を備えて登場した。Gクラスは、オフロードで新型と従来型を比較試乗したけれど、悪路を走破する能力はもちろん、ドライバーに与える安心感や信頼感は新型がケタ違いに上だった。
つまりジムニーとGクラスは、SUVの流行とは一線を画してわが道を貫いたのだ。そういう意味で、血縁関係はないけれど思いを同じにする仲間、つまり『万引き家族』なのだ。この2台は、ラダーフレームというひとつ屋根の下に、もとい、ひとつ床の上に暮らしている。もちろん、ジムニーとGクラスは万引きをしない。ということで、この2台を集めて、自分を貫き通した男気(おとこぎ)を讃(たた)えようというのが、この企画の意図である。
厳しい制約もなんのその
まずはジムニーの外観を讃えよう。
ジムニーのボディーがカクカクしているのは、決してレトロを狙ったからではない。ヤブに囲まれた道や凸凹道を走る時に余分なでっぱりがあると引っかけてしまうし、何より狭い場所でボディーの四隅を把握しやすいことが大事だという機能上の理由がある。参考までに、ジムニーのインテリアが水平基調であるのも、悪路でどれくらい傾いているのかを瞬時に判断するためだという。
より細かく見ると、エンジンを縦置きするFRレイアウトであるだけでなく、前輪の先端より後ろにエンジンを積んでいることがわかる。これによって、前輪が大きな段差を越えられるかどうかの指標となるアプローチアングルを41°と、十分に確保することができた。
突起を乗り越えた時におなかを擦らないことの指標となるランプブレークオーバーアングルも28°、ボディー後端が障害物に触れずに脱出できるかどうかの指標となるデパーチャーアングルも51°と、ともにオフロード走行をするにあたって十分以上の余裕がある。
なぜ数字を羅列したかというと、ジムニーのデザイナーは大変だったということが言いたいから。ほかに最低地上高も確保しなければいけないし、機能優先のデザインというと聞こえはいいけれど、言い換えれば制約でがんじがらめだったはずだ。そこでデザイナーは、丸目のヘッドランプや5本のスロットが開いたフロントグリルなど、かつてのジムニーのアイコンを上手に使った。そして機能優先のカクカクしたボディーと、ペットのような愛らしさが見事に両立することとなった。お名前は存じ上げませんが、デザイナーの方は難易度の高い仕事を見事に成し遂げたのだ。
ジムニーのボディーがカクカクしているのは、決してレトロを狙ったからではない。ヤブに囲まれた道や凸凹道を走る時に余分なでっぱりがあると引っかけてしまうし、何より狭い場所でボディーの四隅を把握しやすいことが大事だという機能上の理由がある。参考までに、ジムニーのインテリアが水平基調であるのも、悪路でどれくらい傾いているのかを瞬時に判断するためだという。
より細かく見ると、エンジンを縦置きするFRレイアウトであるだけでなく、前輪の先端より後ろにエンジンを積んでいることがわかる。これによって、前輪が大きな段差を越えられるかどうかの指標となるアプローチアングルを41°と、十分に確保することができた。
突起を乗り越えた時におなかを擦らないことの指標となるランプブレークオーバーアングルも28°、ボディー後端が障害物に触れずに脱出できるかどうかの指標となるデパーチャーアングルも51°と、ともにオフロード走行をするにあたって十分以上の余裕がある。
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完成されたデザインを変える必要はない
続いて、Gクラスの外観を讃えたい。
けれども、もしジムニーに人格があったなら、こんなことを言うかもしれない。
「もしもし? 僕のサイドウィンドウは雪が付着しにくいように真っ平らな板ガラスですが、Gクラスさんは湾曲したガラスに変えたんですね?」
ここでGクラスは、「バレたか」という表情を見せるだろう。新しいGクラスは、リアのガラスだけが板ガラスで、あとは湾曲したガラスを用いているのだ。
ちなみに従来型Gクラスが板ガラスを用いていたのは、戦場で破損した時にすぐに交換するためだったという(諸説あり)。さすがNATO軍に制式採用された軍用車両の民生版だけのことはある。正式採用ではなく制式採用というところがポイントだ。
閑話休題。Gクラスのフロントとサイドのウィンドウは、パッと見は板ガラスに見えるけれど、よ~く見ると湾曲している。なるべく従来型の雰囲気を再現しようとした、このあたりの芸が細かい。ここでGクラスの肩を持つつもりはないけれど、これには理由がある。湾曲したガラスによって空気抵抗が減ったのだ。同時に、風切り音の低減にも効果を発揮するという。つまり、湾曲ガラスを採用したのはカッコのためではなく、機能を考えてのことなのだ。
面白いのは、従来型のデザインを踏襲しているように見えるのに、引き続き使われた部品はヘッドランプウオッシャーのノズルとドアハンドル、そしてサンバイザーとスペアタイヤを覆うカバーの4つだけという事実だ。Gクラスのアイコンであるフロントフェンダー上のウインカーランプは、歩行者保護の目的で、接触するとプラスチック製のツメが外れて下に落ちるように新たに設計し直された。
これまでクルマのデザインは、新型に切り替わると同時に前進することを求められてきた。従来型から変化すればするほどエラいとされ、代わり映えがしないと「キープコンセプト」などと後ろ指を指された。けれども、Gクラスは「もう変えません!」と宣言した。前進だけがエラいのではなく、立ち止まることもアリだと主張した、クルマ史で初の快挙だ。デザインを変えないために新しい技術を使うなんて、そんな例は寡聞にして存じ上げない。
ル・コルビュジエの「LC1スリングチェア」のように、ギブソンの「レスポール」のように、このデザインが完成型なのだ。
けれども、もしジムニーに人格があったなら、こんなことを言うかもしれない。
「もしもし? 僕のサイドウィンドウは雪が付着しにくいように真っ平らな板ガラスですが、Gクラスさんは湾曲したガラスに変えたんですね?」
ここでGクラスは、「バレたか」という表情を見せるだろう。新しいGクラスは、リアのガラスだけが板ガラスで、あとは湾曲したガラスを用いているのだ。
ちなみに従来型Gクラスが板ガラスを用いていたのは、戦場で破損した時にすぐに交換するためだったという(諸説あり)。さすがNATO軍に制式採用された軍用車両の民生版だけのことはある。正式採用ではなく制式採用というところがポイントだ。
閑話休題。Gクラスのフロントとサイドのウィンドウは、パッと見は板ガラスに見えるけれど、よ~く見ると湾曲している。なるべく従来型の雰囲気を再現しようとした、このあたりの芸が細かい。ここでGクラスの肩を持つつもりはないけれど、これには理由がある。湾曲したガラスによって空気抵抗が減ったのだ。同時に、風切り音の低減にも効果を発揮するという。つまり、湾曲ガラスを採用したのはカッコのためではなく、機能を考えてのことなのだ。
面白いのは、従来型のデザインを踏襲しているように見えるのに、引き続き使われた部品はヘッドランプウオッシャーのノズルとドアハンドル、そしてサンバイザーとスペアタイヤを覆うカバーの4つだけという事実だ。Gクラスのアイコンであるフロントフェンダー上のウインカーランプは、歩行者保護の目的で、接触するとプラスチック製のツメが外れて下に落ちるように新たに設計し直された。
これまでクルマのデザインは、新型に切り替わると同時に前進することを求められてきた。従来型から変化すればするほどエラいとされ、代わり映えがしないと「キープコンセプト」などと後ろ指を指された。けれども、Gクラスは「もう変えません!」と宣言した。前進だけがエラいのではなく、立ち止まることもアリだと主張した、クルマ史で初の快挙だ。デザインを変えないために新しい技術を使うなんて、そんな例は寡聞にして存じ上げない。
ル・コルビュジエの「LC1スリングチェア」のように、ギブソンの「レスポール」のように、このデザインが完成型なのだ。
それぞれに独自の“雰囲気”がある
前置きが長くなってしまったが、いよいよジムニーとGクラスに乗り込んでみよう。
まずジムニーの運転席に座る。前述したように水平基調のインテリアは悪路での傾きを把握する目的がある。そして実際に座ってみると、横方向に伸びる造形のおかげで、広々とした印象も受ける。
Gクラスと並べると、デカさは別として、約10倍の価格差を感じさせるのは外観デザインよりインテリアだ。やっぱGクラスはゴージャスで、お金の匂いがぷんぷんする。けれどもジムニーの運転席に座っても、決してサビしい気持ちにはならない。その理由を自問自答しながらインテリアを眺めていると、ジムニーのインテリアをどこかで見たような、何かに似ているような、そんな既視感が湧いてきた。そうだ、黒い樹脂の質感、機能的に整然と並んだスイッチ類、タフな雰囲気……、このインテリアはカシオの「G-SHOCK」に似ている。
「なるほど!」と思って運転席から飛び降り、リアハッチを開けて、後席を倒してみる。ジムニーはモデルチェンジに伴い、後席シートバックと荷室の床がカーペットではなく樹脂になっている。つまり荷室を倒して荷物を積む際に、ぬれたモノでも気にならない。G-SHOCKを腕にはめたダイバーや釣り師が、ぬれたギアをジムニーの荷室に放り込む様子が、脳内でくっきりとした絵となった。
翻ってGクラスの運転席に乗り込む。最近のメルセデス・ベンツらしい、機能とぜいたくさが両立した世界が広がっている。2つの12.3インチの液晶画面を1枚のパネルで覆うメーターパネルは視認性がよく、ステアリングホイールのスポーク部分で各種の操作ができるインターフェイスは、大きく視線を動かす必要がないから安全にもつながる。樹脂類の色ツヤやレザーの手触りなど、上質感も申し分ない。
一方で、センターコンソールの一番いい場所、不動産に例えれば、恵比寿駅徒歩2分ぐらいの一等地に3つのデフロックスイッチが配置されている。助手席にグラブバーが設置されているのもタフなクルマであることを主張していて、ケンカも強いお金持ちといった趣だ。ジムニーのインテリアがG-SHOCKだとしたら、こちらは300m防水の機能と華やかさを両立する、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク オフショア・ダイバー」といったところだろう。
ではいよいよエンジンを始動して……、というところですみません、紙幅が尽きました。以下、後編に続きます。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
まずジムニーの運転席に座る。前述したように水平基調のインテリアは悪路での傾きを把握する目的がある。そして実際に座ってみると、横方向に伸びる造形のおかげで、広々とした印象も受ける。
Gクラスと並べると、デカさは別として、約10倍の価格差を感じさせるのは外観デザインよりインテリアだ。やっぱGクラスはゴージャスで、お金の匂いがぷんぷんする。けれどもジムニーの運転席に座っても、決してサビしい気持ちにはならない。その理由を自問自答しながらインテリアを眺めていると、ジムニーのインテリアをどこかで見たような、何かに似ているような、そんな既視感が湧いてきた。そうだ、黒い樹脂の質感、機能的に整然と並んだスイッチ類、タフな雰囲気……、このインテリアはカシオの「G-SHOCK」に似ている。
「なるほど!」と思って運転席から飛び降り、リアハッチを開けて、後席を倒してみる。ジムニーはモデルチェンジに伴い、後席シートバックと荷室の床がカーペットではなく樹脂になっている。つまり荷室を倒して荷物を積む際に、ぬれたモノでも気にならない。G-SHOCKを腕にはめたダイバーや釣り師が、ぬれたギアをジムニーの荷室に放り込む様子が、脳内でくっきりとした絵となった。
翻ってGクラスの運転席に乗り込む。最近のメルセデス・ベンツらしい、機能とぜいたくさが両立した世界が広がっている。2つの12.3インチの液晶画面を1枚のパネルで覆うメーターパネルは視認性がよく、ステアリングホイールのスポーク部分で各種の操作ができるインターフェイスは、大きく視線を動かす必要がないから安全にもつながる。樹脂類の色ツヤやレザーの手触りなど、上質感も申し分ない。
一方で、センターコンソールの一番いい場所、不動産に例えれば、恵比寿駅徒歩2分ぐらいの一等地に3つのデフロックスイッチが配置されている。助手席にグラブバーが設置されているのもタフなクルマであることを主張していて、ケンカも強いお金持ちといった趣だ。ジムニーのインテリアがG-SHOCKだとしたら、こちらは300m防水の機能と華やかさを両立する、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク オフショア・ダイバー」といったところだろう。
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