【試乗記】トヨタ・ハリアー ハイブリッドZ“レザーパッケージ”(FF/CVT)
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トヨタ・ハリアー ハイブリッドZ“レザーパッケージ”(FF/CVT)
刺激よりも安心感
クリーンで洗練されている
もっとも、近づいてよく見ると、ウィンドウフレームはレクサスほどにはフラッシュサーフェス化されてはいない。その代わりというわけではないだろうが、リアフェンダーとコンビネーションライトまわりは大胆に抑揚がついた立体的な造形だ。これはずいぶんと手間暇が、ということはコストがかかっているようだ。
インテリアも同様、クリーンですっきり洗練された仕立てである。メーターパネル中央の情報表示を除けば、ちまちまとした煩雑さは感じない。トヨタ車にしては珍しく、できるだけスイッチ類の数を抑えて整理整頓が行き届いた雰囲気だ。
ただしその分、せっかくのブラウンのレザートリムなのに、華やかというほどではなく、ちょっと地味というかビジネスライクな雰囲気もある。よくよく見れば意外に安っぽい素材を使っているなという部分もあるのだが、全体としては“いいもの感”を漂わせながら、レクサスよりは一歩引いて順列を守るというか、コスト管理が徹底しているというか、こういうところはさすがの手腕を見せる。
と眺めまわしていたら、ドアの内張りに歴代ハリアーのトレードマークだったタカの仲間になる“チュウヒ”のエンブレムが型押しされているのを見つけた。いささか取って付けた感があるが、ハリアーを乗り継ぐお客さまを忘れてはいないとの主張だろうか。
今やトヨタのメインストリーマー
低く抑えた計画台数の何倍というような大きく“盛った”数字をアピールしているのではないようで、実際、路上でも見かける機会が増えた(ハリアーの月販目標は3100台という)。
ハリアーの場合は既存オーナーも多く、また同年5月から本格的にディーラーごとの専売制が撤廃されたから(トヨタ系全ネットワークで取り扱う)、トヨタにしてみれば、これぐらいは内心期待通りというところではないだろうか。ちなみにグリルから例のチュウヒのエンブレムが消えたのもこれが理由である。
ラインナップの整理が進んだ結果、「マークX」のようなアッパーミドルクラスのモデルが姿を消し、今では「カムリ」の次は「クラウン」ぐらい。その穴を埋めるのがハリアーと考えれば人気も納得である。国内市場向けと海外向けの車種開発の折り合いをつけるのに苦労している他のメーカーとは対照的に、市場別につくり分けられるところにトヨタの地力をうかがわせる。
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「ハリアー」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4740×1855×1660mm、ホイールベースは2690mm。
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水平基調の立体的な造形が目を引くダッシュボード。センターに12.3インチの大型ディスプレイを配置している。「曲木(まげき)」に着想を得たというウッド調装飾やパイピングの加飾など、インテリアにはさまざまな工夫が盛り込まれている。
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「ハリアー ハイブリッドZ“レザーパッケージ”」のホイールは19インチの高輝度シルバー塗装タイプで、今回の試乗車は225/55R19サイズの「トーヨー・プロクセスR46A」タイヤを組み合わせていた。
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「ハイブリッドZ“レザーパッケージ”」には、9スピーカー12チャンネルアンプ採用の「JBLプレミアムサウンドシステム」を標準装備している。
「RAV4」以上「RX」未満
ご存じのように、新型ハリアーは現行型カムリから導入されたGA-Kプラットフォームを採用。昨年国内発売された「RAV4」とは兄弟車の関係にあり、ホイールベースもパワートレインも同一である。RAV4よりも140mm長い全長は前後オーバーハングのせいで、その分は突き出したノーズ部分と立体的なリアデザインに充てられている。
「レクサスRX」までは手が出せないけれど、それに近いほどほどのプレミアム感があり、いっぽうで林道の奥のキャンプ場には行かないからRAV4ほどのタフな道具感は必要ではないというユーザー向けには、なるほどうってつけの都市型SUVである。SUVのラインナップではいささか出遅れた感もあったが、さすがトヨタ、気がつけば小から大まで水も漏らさぬ布陣である。
ハリアーはスタイル優先で荷室容量などはある程度割り切ったと明言されているものの、実際にはそれほど心配はいらない。後席は開放感にはやや欠けるものの、レッグルームもヘッドルームにも十分余裕がある。ラゲッジスペース容量も408リッターと国内のユーザーには満足できるものだし、ゴルフバッグも3個積めるという。他のメーカーにはもっと大胆に室内スペースを犠牲にしたおしゃれSUVもあるし、身内に限っても、新型「ヤリス」や「C-HR」のほうがよっぽど割り切ったパッケージングである。
実家にあったら安心
2.5リッターエンジンは最高出力178PS(131kW)/5700rpm、最大トルク221N・m(22.5kgf・m)/3600-5200rpmを発生、それに加えて120PSと202N・mを生み出す電動モーターを合計したシステム最高出力は218PSという。街なかや郊外路を普通に走る分には2リッター4気筒ガソリンエンジン(同171PS/同207N・m)モデルでもまあ不満はないが、さすがにこれだけのサイズのSUVとなると高速道路や山道では物足りなさを感じることも多い。常に余裕が欲しいという向きは、ハイブリッド一択だろう。エンジンそのもののパワーには大きな違いはないが、モーターアシストのおかげでなかなかパワフルに走る。
ハンドリングや乗り心地についても不満はない。取り立ててシャープというわけではないが、頼りない感じは皆無で、アクティブコーナリングアシストと称するブレーキによるベクタリングコントロールも装備されているせいか、安定して嫌みなくクリアに走る。むしろレクサスRXや「NX」よりもすっきりと洗練されているように思う。そつなく手堅く、でもSUVだからちょっぴり冒険している雰囲気も持つハリアーは絶妙のポジションを占めている。よほどのこだわりがなければ、あるいはSUVでは不都合だという人でなければ、ハリアーにしておけば間違いない、と思わせる。その分レクサス各車はもっと頑張らなければならないはずだ。
ひさしぶりに実家に帰ったら、マークXがハリアーに変わっていた。しかもおやじよりもおふくろのほうが気に入っている、などという光景が想像できる。刺激的ではないが安心できるトヨタ車である。
(文=高平高輝/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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FWDモデルの「ハイブリッドZ“レザーパッケージ”」に搭載される2.5リッター直4ハイブリッドユニットは、システム最高出力218PSを発生。「E-Four」と呼ばれる4WDモデルの場合は、同ユニットのシステム最高出力が222PSとなる。
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馬の鞍(くら)をイメージしたという幅広のセンターコンソール。「Z“レザーパッケージ”」グレードでは、ブラウン(写真)またはブラックの内装色が選択できる。ライト点灯に連動し、クリアブルーにともるイルミネーションも標準装備されている。
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荷室の床下収納は「ハリアー」全車に備わるが(オプションのスペアタイヤ選択時は非装備)、スライド式のデッキボックスは「G」グレード以上に用意されるアイテム。
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FWD仕様の「ハリアー ハイブリッドZ“レザーパッケージ”」の燃費値は、JC08モードが26.4km/リッター、WLTCモードが22.3km/リッター。今回の試乗では275.3km走行し、満タン法で18.3km/リッターを記録した。