【試乗記】トヨタ・ミライ プロトタイプ(RWD)

  • トヨタ・ミライZプロトタイプ(RWD)/ミライG“エグゼクティブパッケージ”プロトタイプ(RWD)

    トヨタ・ミライZプロトタイプ(RWD)/ミライG“エグゼクティブパッケージ”プロトタイプ(RWD)

未来を担うスポーツセダン

世代交代で見た目もメカニズムも大きく変わる、トヨタの燃料電池車「MIRAI(ミライ)」。同社が“クルマ本来の魅力”にこだわり、従来の環境車のイメージを変えると意気込む、新型の仕上がりは……?

“つくり方”からやり直し

2014年の初代発売からまる6年。2代目となるミライが間もなく上市となる。その最大のミッションは「数」だという。

とはいえ、だ。国内水素ステーションの「数」は当初予定通りに進んでいる。その稼働時間が短いのはわれわれが「数」が出せていないことが大きい。初代に続き新型ミライの開発をまとめた田中義和主査はちゅうちょすることなくそう言い切る。生みの親の真正面からの自省にちょっと驚きつつも、その発言を周囲が止めないことに、かえって今のトヨタの強さが透けて見える。

台数が出回れば水素ステーションの営業時間等にまつわる不便も徐々に改善される。その前提のもとに新型ミライは初代が抱えていた最大の課題である生産性について、大胆に舵を切った。当初の年間生産能力は700台。それをコツコツと伸ばして約3000台までもっていったわけだが、いかんせん半ば手づくりのような生産工程では数的限界がある。

並行して、台数を増やすために必須の課題となったのが、個人ユーザーの支持をどうやって集めるかということだ。現在、世界で約1万1000台、うち日本ではその約3分の1強が走っているという初代ミライは、その多くの需要が社会親和性を重視し、計画的運行が可能な法人や団体、官庁などに限られてきた。これを個人ユーザーへと広めるために、直感的に欲しくなるクルマへと転換を図りたい。

これらを解決するために、新型ミライはトヨタの乗用車としては最大となるGA-Lプラットフォームを採用した後輪駆動のモデルとして開発された。生産拠点は変わらず元町工場だが、これによって「クラウン」のラインでの混流生産が可能となったわけだ。生産能力は一気に約10倍、月に3000台へと引き上げられた。この拡張は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が目標とする燃料電池の進化ロードマップともほぼ合致する。こういうところに律義なのもまたトヨタらしい。ちなみにこのアウトラインが決定したのは2016年の春ごろだというから、ネジ一本からまるで異なる開発の苦労は、推し量るに相当なものだっただろう。

パッケージングに工夫の跡

新型ミライのサイズは全長4975mm×全幅1885mm×全高1470mm。初代に対して85mm長く、70mm幅広く、65mm低い。車格感としては「レクサスGS」より大きく、先代「LS」にほど近い。

全幅がぐんと広くなった理由は、水素タンクを縦置きすべく、他車種ではドライブシャフトが通るセンタートンネル部を広げたためだ。新型ミライはこのほかにリアシート下部とトランクルーム下部に、計3つの水素タンクが配されている。そしてFCスタックの搭載位置をボンネット内に移動し、リアシート下の水素タンクを小径化することで全高を落とすことに成功した。前後重量配分は50:50。車重は先代よりやや重いが1930kgからと、2tは切っている。ちなみに水素タンク容量は初代の4.6kgから5.6kgに増量している。

パッケージ面での印象は、前席は癖のないポジションが取れるが乗降時に幅広なサイドシルに気遣うこと、後席は座った際の前席下部への足入れが窮屈なことが気になった。が、トランクの容量や形状も含め、この複雑なメカニズムを搭載する割には総じてクリーンな空間が形成できていると思う。ちなみにショーファードリブンユースには、助手席可倒式ヘッドレストや往年のクラウンをほうふつとさせる大型アシストグリップ、リアドアのイージークローザーなどを包括した“エグゼクティブパッケージ”が用意される。乗車定員は5人に改められた。

コツコツと全方位進化

もちろん、生産能力の向上はプラットフォームのみでは成立しない。メカニズムの側も量産性やコストダウンを重視した刷新が隅々まで施されている。

下山工場で生産される水素タンクはフィラメントワインディングと呼ばれる成形工程で設備の高速化と品質測定の自動化などを重ね合わせ、66%の高速化を達成。また、FCスタックではセルの加工工程を従来の10分の1以下となる秒速化、単位面積あたり出力の15%向上に伴う使用枚数の削減(370枚→330枚)、そして加工時のプラチナ使用量大幅削減などを実現している。スタック自体の容積は約8割に、重量は約6割に小型軽量化され、昇圧コンバーターや補機類とともにフロントボンネット部への格納を可能とする一方で、ユニット体積に対する出力密度は初代から約1.4倍の4.4kW/リッターに向上した。

これらの刷新に電費低減努力が加わり、新型ミライの航続距離はWLTCモードで850kmに向上。初代の650km(JC08モード)に対するアドバンテージは明らかだ。東京〜大阪間は東名高速で約500km。空調等を使用していたとしても、その片道巡航くらいは難なくこなせるだろう。ちなみに最高速は175km/hと初代に同じ。0-100km/h加速のデータはないが、初代の9.6秒と同等以上ではと思われる。

新型ミライの静的な質感は、内外装ともにクラウンに準拠、あるいは樹脂素材や加飾部品の一部がやや劣るだろうかというレベルにおさめられていた。装備面ではADAS(先進運転支援システム)を含めてフルスペックと言っても過言ではない。「ヤリス」で採用された「アドバンストパーク」システムはバイワイヤーシフトに対応、文字通りボタンひとつで駐車の全行程を完了させる。さらにJBLのプレミアムオーディオも採用されるなど、エンターテインメントの要求に応える余裕もみてとれる。

走れて使える一台

試乗場所は富士スピードウェイのショートサーキット。プロトタイプということでクローズドの環境が選ばれたわけだが、その車格にはさすがに狭そうにうかがえたところを、新型ミライはすらすらと駆け抜けた。それが真の狙いか、個人ユーザーへの訴求力をこのようなかたちで証明したわけだ。

使用するGA-Lプラットフォームは厳密にはクラウン用ではなくLS用をベースとしているということで、2t切りの車重に対する余力は十分。重心高も適切なら、ホイールベース内に満遍なく臓物が配分されているという有利もあってか、FCV(燃料電池車)という特別案件でありながらハンドリングは驚くほど素直に仕上がっている。加減速時やダイアゴナルロールの姿勢の安定感はクラウンの「RS」あたりに比肩するところにあるだろう。モーターならではのトルクの立ち上がりは後輪駆動との相性もよく、操舵フィールがクリアで滑らかなところも新型ミライの美点のひとつだ。さすがに高速域では加速感も鈍るが、低速域での回頭性にもモーターのピックアップのよさが生きている。

なんとあらばスポーツセダンと受け止められるほどのダイナミクスを備える一方で、新型ミライは初代に引き続き、高い給電能力を備えてもいる。トヨタのハイブリッドカーが持つ1500WのACアウトレットはもちろん、DCアウトレットからは外部給電器を介して最大9kWの給電が可能だ。その際の給電時間は初代より25%向上しており、災害時の地域停電などでは臨時電力供給にも効果を発揮する。こういった社会の公器としての役割を担うにもFCは適しているとトヨタはにらんでいるようだ。

かような進化を遂げながらも、新型ミライの価格は実質的には初代と同等以下におさめられる予定だという。また、このFCユニットは商用車などへの展開も検討されており、それらの量産効果によっては、さらなる普及への後押しにつながるはずだ。新型ミライは文字通り、資源なき日本のエネルギーマネジメントの未来を背負う大切な一台となるだろう。

(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車、宮門秀行、webCG/編集=関 顕也)

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