【試乗記】2020ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/TRD編)

  • スバル・インプレッサスポーツSTI Sport STIパフォーマンスパーツ装着車(FF/CVT)/スバルS209(4WD/6MT)/トヨタ・コペンGRスポーツ GRパーツ装着車(FF/5MT)

    スバル・インプレッサスポーツSTI Sport STIパフォーマンスパーツ装着車(FF/CVT)/スバルS209(4WD/6MT)/トヨタ・コペンGRスポーツ GRパーツ装着車(FF/5MT)

それぞれの理想を求めて

TRD、STI、NISMO、無限と、メーカー直系のワークスチューナーが一堂に会して合同試乗会を開催。まずはSTIが手がけた「スバル・インプレッサスポーツSTI Sport」とコンプリートカー「S209」、GRパーツを装着した「コペンGRスポーツ」の走りを試す。

新しい「STI Sport」の走りに脱帽

STIが持ち込んだのは、2020年10月に発売された「インプレッサ」のマイナーチェンジモデル、しかもインプレッサとしては初となる「STI Sport」である。もちろん、こうした試乗会に供されるクルマゆえノーマルではなく、従来モデルから一新された顔つきやシルエット全体を引き締めるように、STIの空力パーツがフロント、サイド、リアサイドとボディーをひと巻きしている。

とはいえ、このインプレッサSTI Sportは、STIパーツをフル装備した状態のクルマではない。であれば一体何がそのトピックなのかといえば、このモデルで初採用されたフロントサスペンションに搭載される「周波数応答型ダンパー」だ。

正式名称は「SFRD」(Sensitive Frequency Response Damper)で、サプライヤーはショーワ。機能的にはその名の通り、周波数に応じて減衰力を自動調整する点が特徴で、ダンピングおよびストローク性能を高めているという。またこのフロントダンパーに合わせてリアダンパーにも、STIが専用のチューニングを施しているらしい。

果たしてその走りはというと、これがすこぶるいい。いわゆる一般的な速度レンジで走っているときのイメージそのままに、サーキットでも走ることができてしまうのである。

その秘訣(ひけつ)は、内輪接地性の高さではないかと思う。ターンインでは外輪に荷重がかかりすぎず、ほどよく沈み込んだまま少し前のめりな姿勢をつくり出す。そしてここからハンドルを切り込んでいくと、スルスルスルッと素早く小回りするように、クルマが回り込んでいくのである。

北米ファンのスバル愛が生んだ「S209」

もちろん、そこには前後長が短く、重心が低い水平対向4気筒のメリットも寄与しているのだろう。アンダーステアが少なく、極めて気持ちよく旋回し、荷重移動のリズムをつかめば切り返しも身軽にこなす。走り込むほどにリアの追従性も高まり、最後は慣性を使いながら向きを変えることすらできてしまった。

STIは、ラインナップ唯一のFFとなるこのインプレッサを、STI Sportシリーズのエントリーモデルとみなしているようだが、どうしてどうして。その軽やかで確かな旋回性能は、4WDモデルにはない大きな魅力であると思えた。このモデルにさらにSTIのパーツが装備されたらと思うと、今からとても楽しみである。

さて、今回の試乗会ではこのインプレッサに加え、ボーナストラックとして「S209」にも乗ることができた。これは北米市場向けに設定された「WRX STI」ベースのコンプリートカーで、2019年に209台限定で販売された。当時は多くのスポーツカー好きが「なんだ、日本で売らないのか!」と残念に思った一台である。

しかしSTI開発陣の話を聞いて、筆者はそのコンセプトを捉え違えていたのだとわかった。そもそもこのS209は、北米のスバリストたちからの熱烈なラブコールに応えて用意された一台だったのだ。そのためにSTIは米国でのマニュファクチャラー登録まで行い、メーカーとしてSTIの認証を取得したのだという。

まさにファンとメーカーの情熱が生んだS209は、今回用意されたショートコースではとうてい収まりきらないほどに強烈なパワーで筆者を迎えてくれた。

エンジンは2.5リッターの排気量を持つ「EJ25」水平対向4気筒ターボ。ボア×ストロークは3.92×3.11inと北米仕様らしくインチ表記だが、これをmmに直せば約99.6×79mmと、完全にオーバースクエアな高回転志向のユニットだ。さらに吸気系は専用の円筒型エアクリーナーを装着し、過給機には大径ターボチャージャーを装着。燃料供給はインジェクターの容量を増やし、排気系にも専用設計の低排圧マフラーが採用された。

そのパワーは341HP/6400rpm(ベース車比で10%の出力向上)、最大トルクは330lb-ft(447N・m)/3600rpmと、WRX STIでは歴代最強。さらにインタークーラーにはウオータースプレーを装備することで性能低下を防ぐという徹底ぶりである。

この味を受け継いでほしい

その走りは、ちょっと引いてしまうほどに過激だった。全開加速でこれほどのけぞったのも久しぶり。剛性感たっぷりのシフトを素早くたたき込み、強化されたクラッチペダルをドン! とつなぐと、トラクションをビタ一文もらすことなく問答無用のロケットダッシュが始まり、ひきつった笑いがこみ上げてくる。

「乗り味としては、ニュルを走ったWRXと同じ方向性。誰が乗っても安心して、疲れずに、運転しやすいクルマに仕上げています」という事前の説明が脳裏をよぎったが、正直それには「どこがじゃい!」と反論したくなった。

どこまでも剛直。ちょっとやそっとじゃビクともしないアメフト選手のようなボディーとダッシュ力を持つS209を、しなやかに曲げてコントロールするなんて、素人ができるわけがない!

しかしその速度に少しずつ体と目を慣らし、パワーのアウトプットを滑らかにしていくと、その言葉の真意も少しだけつかめてきた。特に今回のようなショートコースでは、調整式のセンターデフで前後のトルク配分をリア寄りに仕向けてやると、クルマ全体の動きが滑らかになる。そして広い高速コーナーでは、ターンインがよりしやすくなったことによってインプレッサSTI Sportのようにリアを追従させることができた。

はっきり言えば、今回のコースではとてもS209の神髄はつかめない。とはいえそのシンプルな強烈さは、北米でも絶対ウケるだろうということはわかった。そして同時に、こうしたワクワクできるクルマが減っている日本で、WRXまでが生産終了を迎えたことに一抹の寂しさを覚えた。もちろん、筆者と同じ思いを抱くファンが多いことは、スバルとSTIもわかっているはず。EJエンジンがかなえた興奮を、新世代のパワーユニットで必ず復活させてほしい。

3台の「コペンGRスポーツ」を乗り比べ

TRDブランドでトヨタのモータースポーツ活動とカスタマイズ事業に携わるトヨタカスタマイジング&ディベロップメントは、今回“利き酒”ならぬ“利きコペン”でわれわれを楽しませてくれた。題材となるのは「コペンGRスポーツ」。これを(A)ノーマル、(B)ヤマハ製パフォーマンスダンパー装着車、(C)GRパーツ装着車で乗り比べ、その違いをテイスティングさせてくれたのである。

舞台となったのはツインリンクもてぎの外周路。ホテルツインリンクの駐車場から出発してレーシングコースへと向かい、第3パドックから左に上がってS字コーナーを抜け、さらに右コーナーを登って行く。コースを見下ろせる砂利敷きの駐車場をUターンして、再びホテル駐車場へ。もてぎに通い慣れた人なら、そのコースが頭の中で描けるのではないだろうか。きれいな路面に荒れた路面、緩いカーブにタイトなコーナー、そしてアップダウンと、なかなかバラエティーに富んだレイアウトだ。

そんなコースを、A→Cの順番で走り比べる。結論はわかりきったものだから先に言ってしまおう。それはもちろん、Cの“GRパーツてんこ盛り”車が一番いい。とはいえどういいのかを説明しなくては意味がないので、順番に語らせていただく。

標準車でも十分に上質で楽しい

基準車となるコペンGRスポーツは、「ダイハツ・コペン」をベースにTOYOTA GAZOO Racingが手を加えたもので、そもそもコペンのラインナップでベストといえる出来栄えだ。そのフロア下には従来からあったブレースバーにフロントブレースを追加してボディー剛性を強化。これに合わせて足まわりもスプリング&ダンパー、そしてスタビライザーを専用設計としている。

ただし、その足まわりは速さや俊敏性を追いかけたものではなく、上質さと操舵応答性の両立を目指している。コペンにはビルシュタインダンパーとスポーツスプリングを組み込んだ「S」というグレードが存在するのだが、これに対してGRスポーツは、もう少し大人びた乗り味を示すのである。さらに言うと、専用デザインのフロントバンパーもノーマル比で揚力(車体が浮き上がる力)を10%ほど抑えており、直進安定性を高めている。

そんなコペンGRスポーツだけに、現状でも十分楽しいハンドリングと、このディメンションにしてまともな乗り心地が得られている。もちろん厳しい路面ではハーシュネスを抑えきれない場面もあるが、ドライバーに不快な突き上げや反発を伝えたり、ステアリングがキックバックして操縦性を損ねたりするようなことはなく、カーブでも上手にロールしてボディーの向きを変えようとしてくれる。オープン状態ならロードノイズも気にならないし、むしろその気持ちいいハンドリングに対して、アクセルをガマンするほうが面倒だった。

……というのも、先述の通り今回の試乗コースはツインリンクもてぎの構内路であり、またTRDの開発者が隣に乗り込み、筆者のインプレッションをヒアリングしたのである。速度もきちんと管理され、一定条件での比較が求められていたのだ。

こうした基準車に対して、パフォーマンスダンパーを装着したB仕様は、さらに一段マイルドな乗り味を得ていた。車体の前後に一本ずつ、サイドメンバーの両端を結ぶように取り付けられるこのダンパーは、車体のねじれやそれによって生じる反発・反復を減衰してくれる。

速さではなくドライバビリティーを追求する

コペンはオープンボディーのうえに、フロントはストラット、リアはトーションビームというシンプルなシャシーとなっているため、決して剛性感が高いクルマだとはいえない。パフォーマンスダンパー装着車は、そのボディーが発するすべてのNVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)をきれいに取り去っているとまでは言わないが、荒れた路面ではその突き上げの角を丸め、整った路面ではタイヤの接地感をさらに引き出す効果が見られた。オーナーならその違いに、きっと価値を見いだすことができると思う。

最後に試したC仕様。これはパフォーマンスダンパーが付いたB仕様に、エアロパーツをひと巻きしたモデルである。そしてTRDいわく、そのエアロパーツこそが、さらにコペンGRスポーツの乗り味をプレミアムにしているのだという。「30km/h程度で、その効果は感じ取れます」と、にこやかだが少しドヤ顔のエンジニア氏。いきなりソフトマウントを取られた感じだ。「それって、違いがわからなかったらヤバいってこと?」と切り返すと、何も言わずに笑顔を返してくれた。

幸いかな、その効果は確かに微低速域から体感することができた。具体的には、フロントのピッチングが減ったことで目線が定まり、乗り心地が安定し、カーブでの操作性が向上していた。

普通、ダウンフォースとはタイヤのグリップを引き出すために使われるものだ。しかしTRDはこれをコーナリングスピードではなく、日常領域でのドライバビリティーを上げるために使った(結果的に旋回性能は上がるとしても)。空気を、車体を押さえつけるのではなく、姿勢を整えることに使ったのだ。こうした応用も、SUPER GTをはじめとしたモータースポーツでの経験、そしてトヨタとの連携があるからこそ可能となるのだろう。

すべての乗り比べが終わった帰り道、気分よくコペンを走らせていると、その速度が上がっていることに気がついてアクセルを緩めた。「みなさん段々と、スピードが上がってしまうんですよね」と言ったエンジニア氏の表情も笑顔であった。

(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

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