【試乗記】ホンダN-ONEプレミアム(CVT)/N-ONE RS(CVT)/N-ONE RS(6MT)

  • ホンダN-ONEプレミアム(FF/CVT)/N-ONE RS(FF/CVT)/N-ONE RS(FF/6MT)

    ホンダN-ONEプレミアム(FF/CVT)/N-ONE RS(FF/CVT)/N-ONE RS(FF/6MT)

先進のタイムレス

クラシックなスタイリングと上質な走りが自慢の軽乗用車「ホンダN-ONE」が、デビューから8年を経てフルモデルチェンジ。初代から受け継がれた“タイムレス”なデザインと、隔世の進化を遂げた走りを併せ持つ一台の、希有(けう)な魅力をリポートする。

あえて変えないという決断

8年前(2012年)に初代N-ONEに試乗した時のワクワク感は今も鮮明に覚えている。「1.3リッター並みの走りを実現した」といううたい文句を眉に唾をつけながら聞いていたのだが、実際に乗ってみてターボエンジンの仕上がりのよさに目を見張った。軽のターボはうるさいだけで運転感覚は今ひとつという常識をくつがえし、コンパクトカーと真っ向から勝負できるクルマだったのだ。軽自動車に画期をもたらしたモデルが8年ぶりにモデルチェンジされるのだから、期待は高まる。

ホンダのNシリーズは2017年の2代目「N-BOX」から新世代モデルになった。2018年に「N-VAN」が追加され、2019年には「N-WGN」が新型に。今回のN-ONEで、シリーズすべてが刷新された。キャッチフレーズは初代の「NEW NEXT NIPPON NORIMONO」から「N for Life」になり、「クルマから生活へ」というキーワードが示されている。N-BOXは「N for family」、N-WGNは「N for you」、N-VANは「N for work」という位置づけだ。そして、N-ONEは「N for Love」。パーソナルなスペシャリティーカーということなのだろう。

N-BOXは軽自動車の主流となったスーパーハイトワゴンを代表する存在だ。2014年から2019年まで軽自動車販売台数1位の座を守り続け、2020年上半期もトップに立つ。N-BOXのデザインは、初代からほとんど変わらなかった。売れているのだから、好評なデザインを継承したのは理解できる。N-ONEはN-BOX以上に変化が少ない。ドアやルーフなどのパネルは同じものを使っていて、丸・四角・台形を組み合わせた形はそのまま踏襲された。バンパーやグリル、ランプ類などをアップデートすることで時代に合わせている。

N-ONEのモチーフとなったのは1967年発売の「N360」で、初代モデルでも「レトロではなくタイムレス」と説明されていた。だから、モデルチェンジしても形を変えないというのは一応筋が通っている。試行錯誤したうえで、あえて変えないという決断をしたという。N-BOXでも同じような説明をしていたので、デザイナーがサボったということではないようだ。

ミニマルで上質なインテリア

見た目が一緒なだけで、中身は先代とは別物だ。ボディー骨格はN-BOXで採用された新しいプラットフォームがベース。ハイテン材の適用比率を上げ高粘度接着剤を多用するなどして、高剛性化と軽量化を実現したという。液封エンジンマウントの採用で振動を軽減し、遮音性も高めた。横力キャンセルスプリングを採用し、フロントとリアにスタビライザーを配することで、操縦安定性の改善も図っている。

乗り味は見ただけではわからないが、一見して変化を感じられるのが内装だ。明らかに上質感が増している。正直に言うと、初代モデルはかなり安っぽかった。プラスチック丸出しの素材で構成されたダッシュボードやドアまわりは、ちょっと興ざめだったのだ。この10年で軽自動車のインテリアは格段に高級化している。N-ONEも柔らかい素材が多用されていて、触感が優しくなった。前面にやや上向きに設(しつら)えられたパネルは、繊細なマチエール表現が施されている。ミニマルなデザインによって落ち着きのある室内になった。

ベンチ式だったフロントシートはセパレートタイプに。ホールド性は確実に高まるので、歓迎すべき変化だと思う。グローブボックスまわりの造形が見直されて助手席の足元スペースにはゆとりが生まれた。センターには大型のモニターがあり、その下に3つのUSBソケットが備えられているのが時の流れを感じさせる。8年前にはなかった装備だ。

パワートレインの変わりようは、内装をはるかに上回る。N-BOXが2代目になった時に刷新されたわけだが、軽量で比較的背の低いN-ONEでこそ真価が発揮される。感心したのは、自然吸気(NA)モデルの出来栄えである。ターボモデルも相当よくなったが、NAのほうが伸びしろが大きかった。

快適さが増したNAモデル

N-ONEは「オリジナル」「プレミアム」「RS」という3つのグレード構成。オリジナルはNAで、プレミアムはNAとターボ、RSはすべてターボだ。先に乗ったのはNAのプレミアムである。走りだしから、おやっと思わされた。滑らかな発進で、アクセルを踏み込むとストレスなく加速する。意外なほど力強いのだ。N-WGNに乗った時も日常使いならば十分だと思ったが、さらに快適さが増した。車両重量は違わないはずだが、身のこなしが軽やかだ。

初代N-ONEは、NAとターボに大きな差があった。10万円以上の価格差があっても、ターボを選ぶべきだと思ったのだ。今回は、NAでも悲しい気持ちになることはない。アクセルを床まで踏み込まなければならないような場面に遭遇することはないだろう。低回転域でのトルクの厚みが増したうえに、CVTの制御にも細かな手が入れられたようだ。試乗できたのは街なかの道だけだったが、高速道路でもパワー不足を感じることはないと思われる。販売台数の7割がNAモデルになると想定されているのは妥当なところだ。

グレードによって内外装に細かな違いはあるが、基本の部分は同一である。先進安全機能の「Honda SENSING」は全車に標準搭載される。電子制御パーキングブレーキやオートブレーキホールド機能、新たに採用されたリアシートリマインダーなども同様だ。バッジを見なければ、外観にも大きな差はない。フルLED化されたヘッドライトやリアコンビネーションランプも、全グレードに装備される。ヘッドライトのリングの部分はポジションランプやウインカーも兼ねており、片方がオレンジ色に光ると金眼銀眼の猫のようでかわいい。

RSに乗り換えると、やはり次元の違う走りだった。思い通りのパワーが得られ、気分が上がる。NAでも十分な加速力があったが、ターボは右足に少し力を込めるだけでぐんぐんスピードが上がるのだ。エンジンが苦しそうな音を発することがないので、より高い静粛性が得られる。日常使いで上質感が高いのはターボモデルだろう。

RSには待望のMTも

試乗コースが市街地だったことを残念に思った。交差点を曲がるだけでも爽快な感覚を味わえたのだから、山道なら自在にスポーティーな走りを楽しめただろう。ツイスティーなタイトコーナーが続くワインディングロードなら無敵なはずだ。コンパクトなボディーを生かして機敏に走ることができる。運転席からボンネット前端の左右にある高まりが目に入って車両感覚がつかみやすいのも有利に働く。

RSにはもう1台乗った。先代にはなかったMTモデルである。販売台数の1割が目標というから、要望が多かったのだろう。N-VANにもMTが用意されていたが、あれはATが苦手な高齢者向けの実用MTだった。自らクルマを操る感覚を満喫したい人には待望の設定である。2人乗りの「S660」には二の足を踏んでも、N-ONEならば日常で不便を感じることがない。

実質10分ほどしか乗ることができず、運転のコツを完全につかむことはできなかった。エンジンの吹け上がりがよすぎて、シフトのタイミングを合わせるのに苦労したのである。フィール自体は自然だったので、慣れれば楽しめるはずだ。ただ、よほど腕に自信があるのでなければ、CVTモデルのほうが速く走れるかもしれない。制御がRS専用のセッティングになっていて、クルマにおまかせでも鋭い加速が得られるのだ。

N-BOXはよくできたクルマだが、誰もがあの広大なスペースを必要としているわけではないだろう。運転の楽しみを重視するなら、N-ONEは有力な選択肢になるはずである。軽自動車が乗用車販売台数の4割ほどを占めるようになり、バリエーションが拡大している。SUV風味をまぶしたモデルがトレンドとなっているが、N-ONEはまったく異なる方向性のスペシャリティーカーだ。バカ売れするモデルではないが、ホンダの心意気を示すという意味ではNシリーズのイメージリーダーである。

ホンダアクセスが提供する用品の中に、心引かれるドレスアップパーツがあった。「TURBO」「DOHC」「12VALVE」などの文字がセットになったデカールである。1980年代のバカバカしくも懐かしい風習を再現したもので、N-ONEならこういう楽しみ方も似合う気がする。

(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)

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