【試乗記】トヨタ・ハイラックスZ(4WD/6AT)

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    トヨタ・ハイラックスZ(4WD/6AT)

人生が冒険なら

日本で唯一、新車で正規販売されるピックアップトラック「トヨタハイラックス」。その車両構成は、ラダーフレームにリーフリジッドのリアサスペンション、最大積載量500kgのベッドと、タフそのものだ。世界各国で活躍するグローバルな一台の魅力をリポートする。

ドライバーを奮い立たせる非日常的なカタチ

今にもグーパンチをお見舞いしてきそうな、イカツいけれど愛嬌(あいきょう)も漂う顔つき以上に、全体のシルエットを目の当たりにしてこう思った。

「『トラックの人』になるのも悪くない」

この感想に、「いやいや、トラックなんて!」と拒否反応を示した方におかれては、この先を読むのは時間の無駄かもしれない。ただ、こんなニッチなクルマの記事を読むほどのあなたなら、クルマで人生が変わったという(強いて言えば奇跡的な)自覚や経験をお持ちだろう。そうした人には、ささくれほどには共感を呼べる、意味と価値のある“何か”をお届けできるかもしれない。

目の前の新しいハイラックスは、そんな不確かだが書き手の意欲を奮い立たせるものを秘めていた。いや、トラックという多くの人にとって非日常的な“カタチ”が執筆意欲の源泉となっているわけだから、ハイラックスからすれば初めから「秘める」も何もないわけだが。

タイからの輸入で2017年に導入を開始し、2020年8月にマイナーチェンジを実施。並行輸入・逆輸入を除き、国内市場では現時点で唯一の新車購入が可能な、トヨタが言うところの“ミドルクラス”のピックアップトラック。これが現行ハイラックスの素性だ。

ミドルクラスとはいうものの、全長が5340mmで全幅が1855mmともなれば、日本の道路ではラージに感じられる。車両重量も2875kgとまさにヘビー級だ。だが、今もってピックアップトラックが市民権を持ち得ているアメリカあたりのフルサイズモデル(という表現でいいのだろうか)を都内で見かけると、相対的な巨大さにたじろぐ。オーナーにしても持て余し気味なのではないかと勝手に心中を察したりもする。であれば現行ハイラックスは、ある意味でピックアップトラックならではのボリューム感を国内で楽しめる、適度にして最大限のサイズかもしれない。実際には、これでも持て余しそうな大きさではあるけれど。

古典的な車両構成にみる心意気

冒頭で触れたグーパンチをお見舞いしそうな顔つきも、昨2020年夏のマイナーチェンジに含まれる変更点だ。車両本体価格で約40万円高い「Z」グレードは、フロントグリルまわりがシルバー。エントリーモデルとされる「X」グレードはマットブラック。Xはホイールが黒の“テッチン”だったりもして見た目の低コスト化が顕著だけれど、顔つきに絞れば、この日は会えなかったマットブラックのグーパンチにも相応の威力を感じるのではないかと思う。

試乗したZのグレード的特徴は、「Bi-Beam LED」というヘッドランプのほかに、走行面ではコーナリング時や悪路走行時に左右駆動輪のトルク配分を最適化し、トラクション性能を向上させるオートLSDを新採用。さらに安全面では、プリクラッシュセーフティーやレーンディパーチャーアラート、静止物への接近を表示と警告音で伝えるクリアランスソナー&バックソナーを標準装備している。後者に関しては、ピックアップトラックの今日的乗用車化ということなのだろう。

これら装備類はさておき、ハイラックスで全車共通となっているのは、2.4リッターのディーゼルエンジンとラダーフレームのシャシーだ。アイドリングストップ機構を備えた改良型エンジンは、JC08モードで従来型の11.8km/リッターから13.6km/リッターへ15%以上もの燃費改善がなされたという。が、室内に漏れ伝わってくる音と振動は、依然としてディーゼルならではのもの。加えてラダーフレームに組み合わされる足まわりも、サスペンションの改善に加えて操縦安定性を高めるVFC(バリアブルフローコントロール)機能を追加するなど、改良に余念がないが、リアは半楕円(だえん)リーフスプリングにドラムブレーキのまま。タイヤとホイールハウスの隙間をのぞき込めば頑強そうなフレームがあらわになるという、何ともシンプルで古典的な構造だ。

もちろん、「今どき珍しい低スペック」とあざ笑うわけではない。トラックというタフな出自を隠さないこの構成こそがハイラックスの心意気であり、いかに乗用性を上げようと、世界のへき地でも働く道具としての存在理由を物語っているのだと、勝手に好意的に受け止めるのである。

荷台にこそ可能性が詰まっている

実際の乗り心地にしても、トラックそのままだ。無論、各種電子デバイスによって昔よりは乗用に適した感覚を醸しているには違いない。だが、路面の荒れた高速道路では上下ピッチを吸収しきれない。そこはしっかりガタピシする。しかし最大積載500kgという後部デッキに荷物を満載したら、間違いなく乗り味は変化するだろう。そのトラックの真骨頂たるスペックを試さずして文句を言うのはお門違いだ。空荷はトラックに似合わない。荷台にこそトラックの可能性が詰まっている。

ここで言う「ハイラックスの可能性」とは、何を積むかではなく、何を積むかを想像させてくれる自由があるということだ。

「積載能力だけならほかにいくらでも選択肢はある」

賢明なあなたならそう反論するに違いない。確かに今は、幅広い要望を飲み込んでくれる便利なものに満ちあふれている。けれど、あらゆるワガママを聞いてくれた末に画一的な形状にとどまってしまうものも多い。これはクルマも例外じゃない。例えば21世紀のドラえもんはまれな存在でも、彼が来たという22世紀にはネコ型ロボットが珍しくなくなっているのと同じように。

「それでもトラックなんて!」

ここで冒頭にループする。ハイラックスを日常生活とは疎遠な荷物運搬車としてしか見ないか、あるいはピックアップ特有の、人も荷物も積める最大公約数的お得な道具ととらえるか、そこで道は分かれる。ここまで読み続けた方は、きっと後者に同調してくれるだろう。でもできれば、前者の方々にこそ伝えたい。クルマで人生が変わるという素晴らしい経験をするなら、非日常的なカタチを求めるのも一つの手段であることを。

「トラックの人」になるのも悪くない

なにより後部デッキ。乱暴に荷物を積んでもいいし、何も積まずともデッキにあおむけになって空を見上げてもいい。雨が降る日の対策を場当たり的に楽しむのもいいし、アオリを下ろして腰掛けるなんてのも試してみたい。そんな、ハイラックスにしかない機能的特徴を生かした使い方は、このクルマの持ち主だけが享受できる、日常的な楽しみを広げる可能性に満ちている。

とはいえ、親戚や知人や友人や、またはあいさつを交わす程度の近所の人々は、ハイラックスを手にしたあなたを「トラックの人」と呼ぶかもしれない。それは致し方のないことだ。なにしろ大多数にとっては日常使いのおもしろさが実感できない非日常的な存在だから。けれどクルマで人生を変えるには、多少やゆされようともあきれられようとも、人とは違うグーパンチを繰り出すような冒険が必要なのである。

だから自分も、ハイラックスに触れて「トラックの人」になるのも悪くないと思った。そんな感想を無邪気に口にできるわが魂を冒険好きと呼ぶなら、「案外悪くない人生を生きてきた」と褒めてやりたいのだけど、ささくれ程度の共感は得られるだろうか。

(文=田村十七男/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

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