【試乗記】スバルBRZ S(FR/6MT)

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    スバルBRZ S(FR/6MT)

継続こそ力

FRスポーツカー「スバルBRZ」がフルモデルチェンジ。排気量をアップした水平対向4気筒エンジンやインナーフレーム構造の新設計ボディーなどによって、走りや個性はどう進化したのか。公道での初試乗から、その印象をリポートする。

初代から踏襲されたキャラクター

企画・デザインをトヨタが、開発・生産をスバルが主導するという前代未聞の協業体制のもと、試行錯誤の末に「トヨタ86」とスバルBRZが生まれたのは2012年のこと。デビューから9年たち、初のフルモデルチェンジに際しても体制は同じで、スバルは開発と生産を担当する。

発売に先行して開かれたプロトタイプのサーキット試乗会では、その両車の動的資質の差異を理解することができた。すでにさまざまなインプレッションを読まれた方も多いと思うが、端的に言えばスタビリティー重視でリアをしっかり粘らせていくBRZに対して、GR銘柄となった86は積極的にリアを使って曲げていくという、初代から踏襲されたキャラクターだ。

が、この個性をつくり出す手数は今までとは比べものにならない。コイルばねのレートやスタビ径とその取り付け位置、フロントナックルの素材やリアトレーリングアームブッシュの硬度など、両車は微細にチューニングを違えている。

この違いが果たして日常的な環境ではどのような味わいとなって現れるのか。この秋にも正式デビューがうわさされる「GR 86」に先駆けてBRZが販売を開始。早速郊外のワインディングを目指して公道を走らせてみた。

試乗したグレードは最上位の「S」。ベースグレードに相当する「R」に対してシート表皮や内装トリム、スイッチ類等の加飾要素がアップグレードされているほか、走行面においては215/40R18サイズのタイヤが標準装着されるという違いがある。ちなみにRが装着するのは初代の上位グレードに採用されていたのと同じ215/45R17だ。タイヤの選択肢の多さや価格の安さという点からみればRの側に分があるが、果たして18インチの側が公道でどのようなライドフィールをみせるかは興味深い。

アタリの丸さに驚く

GR 86/スバルBRZの車台は初代がベースとなる。が、「インプレッサ」以降のスバルグローバルプラットフォーム=SGPで得られたノウハウが生かされており、インナーフレーム構造の採用や構造接着剤の多用、部位補強などの手が加えられている。結果、車体全体のねじり剛性は50%の向上をみたという。サスペンション形式は前マクファーソンストラット、後ろダブルウイッシュボーンと初代を継承。こういった強化熟成を前提とした主要骨格の共用によって、初代のチューニングまわりの資産が引き継ぎやすくなっていることも、この手のクルマが大切にすべき項目だと思う。

完全刷新とはいえ、座ってみるとスイッチ類やエアベントの配置に初代の面影がみてとれるが、ダッシュボードまわりの骨格は引き継がれている一方で、キャビン形状はやや上方側の絞りが強められ、全高も10mm低くなるなど初代とは異なる仕立てになっている。しかし着座位置も5mm低く設定されたこともあってか、身長181cmの筆者でもそれによる圧迫感は感じられなかった。

メーターはフル液晶タイプになったが、多彩な表現力をうまく生かし切れていない感がある。特に一番肝心なタコメーターのスケールが強弱感に乏しく、一目では回転数が把握しづらい。トラックモードに入れればグラフィックで回転数が強調されるものの、四六時中けんか上等というわけにもいかないわけで、このあたりは改善を望みたい。

というわけで見づらいタコメーターをにらみながら高速道路を西に向かう。と、橋脚ジョイントや目地段差、わだちや舗装の荒れなど、よくある類いの外乱に対するアタリの丸さにまず驚いた。一般道を40km/hぐらいの速度で走っていても感じられた剛性の高さからくるアシの動きの良さは高速域になるとますます顕著だ。ロードノイズに気遣った気配はないがサーフェスに依存されにくい音環境はミシュランの「パイロットスポーツ4」タイヤの柔軟性にも助けられているのかもしれない。

動力性能はもう十分以上

平地なら2速発進もいとわないトルクの厚みは、BRZのフレキシビリティーを存分に高めていた。1300rpmも回れば十分実効的な加速を得ることができ、その際の振動も納得できるレベルにある。ただし2000rpm以下のサウンドはガサガサボソボソとした味気ないもので、この域の多用がちょっとためらわれるのが惜しい。ちなみにそこから向こうの2000〜3500rpm先くらいはボクサーらしいドロッとした音色が楽しめる。そしてさらに高回転域に向かうとサウンドクリエーターの加勢もあってヌケの良い高音が重なり、その快音に誘われるように7000rpm向こうまで気持ちよくエンジンを回してしまう。

とはいえ、パワーは7500rpmのレッドゾーン手前までしっかりその伸びを体感できるなど、自然吸気スポーツユニットとしての魅力に偽りはない。初代のそれよりも全体的に摺動(しゅうどう)感がすっきり滑らかになったのはストロークをそのままにボアが拡大された結果ゆえのショートストローク化の恩恵もあるだろう。

このトルクリッチな出力特性に対すれば6段MTのギアリングは全般にややローギアードな印象を抱くが、これはコーナリングの楽しさを重視した結果だろう。100km/h時の回転数は6速で2700rpm付近と前型に同じ。周囲の流れに合わせるかたちでの高速巡航燃費は13km/リッターを超えるぐらいだから、初代よりは若干見劣りするかなという印象だが、排気量によって得られたものを鑑みれば十分納得できる。

動力性能はもう十分以上の領域にある。これ以上パワーが上がると、車台や足まわり、ブレーキの強化により比例してクルマが重くなり、このクルマのコンセプトが根っこから瓦解(がかい)するだろう。初代では4000rpm付近で感じていたトルクの谷も埋められ、クローズドコースではアクセルオンでのパワーオーバーステアに、楽に持ち込めるようになっていた。

プロセスもニュアンスも楽しめる

とはいえ、BRZはリアの踏ん張りがガッツリ利くセットアップになっているため、ワインディングレベルではやすやすとお尻を滑らせることもない。グリップのキワまでしっかりと使い切らせる、パワーとタイヤとのバランスもドンピシャだ。試乗場所は冬季の積雪が多く、コーナーの途中でもひび割れやくぼみなどが突然現れる荒れた路面だったが、その環境下でもアシはしっかり追従し、ホッピングに伴うグリップの喪失もよく抑えられていた。

車検証上の前後重量配分は55:45と新型でもアタマが重めの体形は変わらずだが、これが公道での安心感を高めてくれていることは間違いない。一方でクローズドコースでも舵の利きやトラクション抜けに悩まされることはなかった。返す返すも自然吸気で235PSというパワーが、これ以上はいらないと心底思えるほど絶妙にクルマの性格に寄与している。

ボディー剛性に加えて、ステアリングをはじめとした軸まわりの精度感も高められただろう新型スバルBRZは、曲がるプロセスだけでなく、そのニュアンスを楽しめるクルマに仕上がったように思う。操舵ごく初期からのじんわりとした品のいいゲインの立ち上がりや、緩いS字で荷重が移動する際の身のねじれや戻りの気持ちよさは、昨年まで自分が乗っていた981の「ケイマン」にも相通じるものがある。

いや、それは褒めすぎじゃね? と自問しながらハンドルをコネコネしていれば、九州くらいまで走っても退屈しなさそうな雰囲気だ。バリやアラが取れ、あざとさや子供っぽさも抜け、奥行きがぐんと増したその走りをうかがいつつ、やはり継続は力なんだなぁと予備校の標語のようなことを思い浮かべてしまった。

(文=渡辺敏史/写真=花村英典/編集=櫻井健一/撮影協力=河口湖ステラシアター)

テスト車のデータ

スバルBRZ S

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1775×1310mm
ホイールベース:2575mm
車重:1270kg
駆動方式:FR
エンジン:2.4リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:235PS(173kW)/7000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/3700rpm
タイヤ:(前)215/40R18 85Y/(後)215/40R18 85Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:11.9km/リッター(WLTCモード)
価格:332万2000円/テスト車=387万1130円
オプション装備:ボディーカラー<イグニッションレッド>(5万5000円) ※以下、販売店オプション フロアカーペット(3万8940円)/カロッツェリア サイバーナビ(27万7640円)/ETC2.0車載キット<カロッツェリア サイバーナビ連動用>(4万0920円)

テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1636km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:427.5km
使用燃料:34.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.2m/リッター(満タン法)/12.2km/リッター(車載燃費計計測値)

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