ベーシストのこだわり [ランドクルーザー プラド 有元真人 チーフエンジニア](2/2)

世界中のさまざまな人たちの期待に応えたい

子どもの頃からセリカが大好きでした。また、学生時代は大学の自動車部の連中と仲良しで、ジェミニやランサーなどラリーで活躍していたクルマが好きでした。入社してからもAE86、ユーノスロードスターやアルテッツァ、MR-Sなどスポーツタイプのクルマばかり乗っていました。ですから、最初は「そもそもセリカに憧れて入社したのに、なぜ、僕がよりによってプラドのチーフエンジニアをやるの?」という気持ちがありました。

しかし、今、4代目プラドを世に出してみて、プラドというクルマと自分にすごく共通点があることに気がつきました。いまでは、もしかしたら、このクルマは自分の生き方にぴったりだと思っています。

プラドは現在、世界約190の国や地域で販売され、2008年、厳しい不況の中でも世界中で15万台売れています。日本では主に街乗りのクルマとして利用されていることが多いですが、海外では炭坑や油田など過酷な環境で働いているプラドもあれば、ジャングルの中を走ったり、砂漠を疾走しているプラドもあります。また、ヨーロッパではメルセデスなどのプレミアムSUV勢と比較するお客様もいます。

つまり、世界のさまざまな場所で、プラドは、さまざま人たちにさまざまな使い方をされている。さまざまな人のさまざまなシーンでの期待や要望にしっかり応えている。それがプラドというクルマです。

誠に僭越ではありますが、これって僕のベーシストとしての生き方(いろんなバンドを掛け持ちし、いろんなジャンルの楽曲を演奏する。そして、依頼されて受けた以上はいつも死力を尽くすという生き方)にぴったり当てはまります。

そして4代目プラドの「オフロード&いつもの快適」という開発コンセプトには、世界中のさまざまな人たちの期待や要望にしっかりと応えていきたいという、僕なりのこだわりと意志が凝縮されています。

「オフロード&いつもの快適」

「オフロード&いつもの快適」の中の「オフロード」というのは、ランドクルーザーのDNAともいえる堅牢性、耐久性、信頼性はもちろんのこと、世界中のさまざまな道に対応した圧倒的なオフロード性能を意味しています。とくにトヨタ初となるマルチテレインセレクトを採用し、初心者からプロ級まで路面状況に合わせた適切な設定(モード:MUD & SAND/LOOSE ROCK/MOGUL/ROCK)をステアリングのマルチファンクションスイッチによって選択することにより、そのオフロード性能を簡単に、しかも最大限に引き出すことができるようになっています。その他にも、車両に搭載した4台のカメラで車外の路面状況の確認ができる世界初のマルチテレインモニターなど、さまざまな最新機能を搭載しました。

「いつもの快適」とは、街乗りや舗装されたオンロードの使用を想定したオンロード性能の向上や、使いやすい小物入れ、自由度の高いシートアレンジなど、操縦安定性・乗り心地・居住性・ユーティリティにわたって、文字通り、普段使いの良さを徹底的に追求しました。

また外観のスタイリングにもこだわっています。砂や泥にまみれて汚れていてもかっこいい。一方で、高級ホテルに乗りつけても十分に見栄えするプレミアム感、エレガントさを兼ね備えたフォルムはプラドならではと自負しています。オーバーフェンダーの樹脂部分がなくなったことにより、以前のモデルに比べて流麗さが強調され、同時に力強さも増したと思います。

ぱっと見て、かっこいいインパクトのある外観、そして、内装は飽きがこないようにシンプルですっきりした仕上がりにする。そこにもかなりこだわりました。

“守り”のクルマにあって、“攻め”の一手

そのような中で実は、僕が一番こだわったのはオーディオ・サウンドです。スピーカーの取り付け位置に始り、細部にまで指示を出し、実際に自分の耳を使って全部チューニングしました。これだけチーフエンジニアが設計者としての工数をオーディオに費やした例は、きっと他にないと思います。新しいプラドのイメージにあわせて、徹底的に音作りを行いました。自分なりにテーマ曲をケニー・ジー(Kenny G)の『Breathless』というアルバムに収録されている『フォーエヴァー・イン・ラブ』という曲に定めて、夕陽をバックに走るプラドに乗り、心癒されるサウンドであり、なおかつ、思いっきり低域を響かせ、その上で中高域をクリアに鳴らすやんちゃなサウンドに作り込んだ。

この5.1チャンネルのサウンド・システムはメーカーオプションのナビを選択したときに搭載されます。ちょっと値段は張りますが、今の日本の住環境を考えると、思いっきり大きな音を出せるのはクルマの中だけです。また、同じレベルのオーディオ環境を街のチューニングショップで作ろうとしたら軽く100万円を超えてしまいます。それくらいこだわりのサウンドシステムです。黒人のベーシストが太い指で弾く心地良い、お腹にドーンと響いてくる音をしっかり再現し、重低音が“怒濤”のように押し寄せてくる。そして、その上を澄み切ったラッパの中高音が響き渡ります。このサウンドシステムには最新の地図更新機能がついた次世代テレマティクスG-BOOK mX対応のHDDナビがセットになっています。

トヨタのクルマには、クラウンやカローラに代表されるような多くのお客様から高い評価と期待をいただいてきた“守り”のクルマと、かつてのセリカやiQのような少し尖った性格を持った“攻め”のクルマがあると思っています。世界中にお客さまがいるプラドは間違いなく前者の“守り”のクルマです。

その“守り”のクルマを作る中で、少しだけ“尖った性能”を付加したい。そんなベーシストのこだわりをぜひ、オーディオシステムに感じていただければ幸いです。

( 文:宮崎秀敏 (株式会社ネクスト・ワン) )

関連リンク