アストン・マーティンV8バンテージは、ノーマルでも素晴らしいパワーを誇るV8に更なるチューンアップを加えた豪放磊落なエボリューションモデルである。しかし、世界にはその高貴かつ迫力に溢れる標準ボディでは飽き足らないという贅沢なエンスージアストも存在したようで、バンテージに名門カロッツェリア・ザガート製のモダーンな軽量ボディまで架装するという、贅沢この上ないスーパースポーツが'86年に50台のみ製作された。それが、最早伝説となっている“バンテージ・ザガート”である。アストン・マーティンとカロッツェリア・ザガートのコラボレーションは'60年のDB4GTザガート以来だが、当時流行のレトロ趣味に安易に走ることなく、ザガート特有の緊張感に満ちたシャープなラインで、大柄なベルリネッタに引き締まった印象を与えている。V8・4OHC・5340ccユニットは、大径化された4基のダウンドラフト・ウェバーキャブや専用のヘッドでチューンを受ける。この時期のアストンの慣例で出力などは原則的には公表されないが、公表を義務付けられた地域での発表値によるとパワーは432PSで、マキシマムスピードは300km/h以上といわれた。「Mr.ビーン」で世界的に人気を博した英国の喜劇俳優ローワン・アトキンソンが、7リットルにスケールアップさせたファクトリースペシャルのバンテージ・ザガートを愛用しているのは有名なエピソードである。

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