ダンテ・ジアコーザの傑作600シリーズに、ボディのモダナイズ、パワーユニットのスープアップなどの変更を加えた後継車だが、主要コンポーネンツがほぼ踏襲された発展モデルであることは、開発ナンバーが600のティーポ100に対して、この850ではティーポ100Gと殆ど変わらないことからも一目瞭然であろう。実は600シリーズでは、リアエンジンということもあって高速域でのスタビリティーに大きな問題を抱えていたが、850ではその開発初期からホイールベースを30mm延長、更に600比で28cmも伸ばされた全長は、主にテールの明確なノッチに充てられ、完全な3ボックススタイルとすることでエアロダイナミックス性能の大幅な向上が図られていた。エンジンは843cc、ノルマーレで34PS、上級版のスーパーでは37PSまでスープアップされ、初めて120km/hを超えるマキシマムスピードを実現した。850には'64年にデビューした2ドアベルリーナの他に、翌'65年ジュネーブショーではベルリーナ同様自社デザインによる可愛らしいクーペと、カロッツェリア・ベルトーネ製のエレガントなスパイダーが追加され、それぞれがベルリーナを脅かすほどの大ヒットを収めることになる。また、この850シリーズも前任モデル同様、イタリア中のスペシャリストたちにとっては貴重なベース車両となった。中でも代表格たるアバルトはこの小さなエンジンベイに2000ccものDOHCエンジンを滑り込ませた一方、850シャシー上にFRPでスリークなボディを新造し、あの魅力的なOTシリーズを仕立て上げたのだ。

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