創業以来60年もの長きにわたって“The Best Car in the World”の名を欲しいままにしてきたロールス・ロイスだが、第二次大戦後の民主化が進んだご時世に於いては、特製のシャシーと専用のエンジンに架装した超高級サルーンやリムジンをごく少数の王侯貴族のために造るという旧来のファンタムの手法はもはや許されなかった。'59年にデビューしたファンタムVは、シルバー・クラウドIIのホイールベースとトレッドを延長、同じくクラウドII用に新設計された総アルミ製V8OHV・6230ccを搭載し、基本的には7座のパークウォード製リムジンが組み合わされた。このボディはすべて手叩きのアルミパネルによるハンドメイドで、内装に施された儀装も、ベーシックモデル（あくまでR-Rのだが）たるシルバー・クラウドのそれを数段上回る素晴らしいものである。また、注文主の細かいオーダーに応えて手造りするので、厳密には全く同じ車は一台として存在しない。'62年、ベース車となるシルバー・クラウドがIII型に進化したのに伴い、同様のデュアルヘッドライト化が施される。更に'68年にはV8ユニットのヘッドが設計変更され、運転席側にもクーラーの吹出し口が取り付けられたファンタムVIに進化、'90年頃まで、注文に応じて数台が製作された。写真は1960年頃のファンタムVシャシーに架装されたジェイムズ・ヤング製セダンカ・ド・ビル。同じジェイムズ・ヤング製の5座ツーリングリムジンをベースに4台だけ造られたといわれる貴重なモデルで、注文主の一人は俳優のレックス・ハリソンだった。データは同じく'60年頃のモデルだが、ファンタムVパークウォード製標準リムジンのもの。

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