雪道運転 …安東弘樹連載コラム

皆さんは雪が積もった道を運転するのは、お好きですか?大半の方は、滑りやすい路面を走るのは好きではない、怖い、と答えるでしょう。でも、私は「大好き」です。

こんな事を申し上げると怒られそうですが、運転は関係なくても私は雪が降ると子供の時と全く同じ感覚で嬉しくなってしまいます。天気予報で翌日、降雪の可能性があると聞くとワクワクし、実際に降らなかったりするとガッカリです。

大人の皆さんが雪と聞いて憂鬱になるのは通勤時の公共交通機関の遅れや、道の凍結によって歩道も危険になったりする、など恐らく仕事に少なからず影響が出る事や、主婦の方でしたら洗濯物が干せない、買い物も行きづらい等、間違いなく弊害が多いからでしょう。

至極、当然です。私も、そういう部分に於いては全くの同感です。唯、不謹慎と言われるのを承知で申し上げますが、電車が動かない等の不可抗力での遅刻って、非日常感があって、困りながらもちょっとテンションが上がる、という大人は私だけでしょうか?これって無責任なのでしょうか?

でも言い訳に聞こえるかもしれませんが、雪の日くらい、遅刻や何かの遅延があったとしても、お互いに苦笑いし合うくらいの余裕?がある社会の方が良いのではないか、等と思ってしまいます。勿論、災害クラスの大雪にならない方が良いのは当然です。

それにしても都内や普段あまり雪が降らない地域の大都市圏では、ちょっとの雪で道路交通が麻痺するのは、本当に残念な事だと思います。以前のコラムで、降雪の可能性がある日にノーマルタイヤのままクルマを使うという常軌を逸した行為を批判しましたが、それについては行政も動き出しましたので注視していきたいと思います。

唯、罰則を設ける、という事だけではなく、抜本的に豪雪地域並みにある程度の積雪があっても通常とさほど変わらない交通状況にする様な施策が必要だと思っています。具体的にどうすれば良いか、その案は現状浮かびませんが…。

今後、異常気象と言われるような現象は増えていくと思われます。平均気温が上がって、日本は亜熱帯地域に近づいているという識者もいますが、逆に都市部に降る雪が今後、増えていくという説を唱える方もいます。恐らく、本当にどうなっていくかは神のみぞ知るという事なのではないでしょうか。

だからこそ、自然現象に対して我々は出来るだけ、事故や人的災害を避ける方策を取らなければならないのだと私は思います。各々のドライバーが雪に備える事で雪の日の事故を減らせるのなら、ましてや人命にかかわる悲劇を減らせるのなら、一人ひとりの心構えに期待したいと思います。

さて、私の雪道運転の話です。実は結婚する前、私は毎冬、一日でも休みがあれば睡眠を削ってまでスキーに行くという日々を過ごしていました。唯、私の場合、スキーに行く楽しみの80%は、行き返りの雪道の運転です。

これまで雪が頻繁に降るような地域に住んだ事は無いので、スキー場に向かう途中、徐々に周囲が雪景色に変わっていく時の胸の高鳴りは何度経験しても抑えられません。「楽しー!」と、いつも声に出して叫んでしまいます。何がそんなに楽しいのかと、よく訊かれるのですが、逆に何故、楽しくないのか訊き返したいくらいです。

魅力を挙げると、まず雪が音を吸収するので、その何とも言えない静寂感が素晴らしい!積雪がある道を走る時は、頻繁に窓を開けて、その静寂を楽しみます。エンジン、排気の音は、いつもより遠くに聞こえ、当然ながらロードノイズも微かに響くだけで音質も全く違います。

スタッドレスタイヤが雪を踏みしめる、何とも言えない「ギュギュッ」という頼もしい音
に痺れるのです。そして、いつもは黒いアスファルトの路面が真っ白に。その上に刻まれている無数のタイヤの軌跡を眺めるのも好きですし、自分が刻んだタイヤ痕をミラー越しに観るのもたまりません。

そして雪の路面状況をステアリングホイールを通して感じ、滑り具合を腰で感じながら、限界を見極めて集中して運転に没頭出来るのが嬉しいのです。「自分は生きている!」と実感出来る瞬間と言っても良いでしょう。

恐らく、これを読んでいる多くの方が、こう思っているでしょう。「完全に変態だな、コイツ」、言われなくても、自覚はありますので反論は一切しません(笑)。元来、運転が何よりも好き、と何度もお伝えしてきましたが、通常の道の運転の楽しさが“100”とすると雪道の運転のそれは“300”くらいでしょうか。

唯、雪路面での事故で命を落とされた方もいらっしゃるでしょうし、雪によって、もしかしたら人生を狂わされた方もいらっしゃるかもしれません。それに本当の豪雪地帯にお住まいの方にとって雪は単なる邪魔物でしょう。お叱りを受けても仕方がありませんし、当然、事故リスクが高くなる事も認識しています。ですから、最大限、安全に考慮して楽しんでいるつもりです。

通常路面でも十分な注意が必要ですが、雪上路面では、とにかく“急”が付く操作はご法度です。つまり急発進、急ハンドル、急制動は出来るだけ避けなければなりません。それを避ける為には通常路面を運転している時よりも、出来るだけ周りの状況を早めに把握する必要があります。出来るだけ遠くを見て、次に起こる事柄を早めに予測し、操作を早く始める事で急操作を避ける訳です。

逆に考えれば、それらの事を念頭に運転すればリスクは最大限、回避出来る、と言って良いのではないでしょうか。当然、自分がいくら注意していても、他のクルマが突っ込んできたら、どうする事も出来ないのですが、極論を言えば、全ドライバーが油断なく、それらを遵守していれば事故のリスクは劇的に減る、という事です。

その基本を守り、路面状態に合った速度で走れば、誰でも雪道の運転を楽しめる筈です。しかも、遠くを意識し早めに操作の準備をする事が身に付けば、これは当然、通常路面での運転を、より安全にする事にも繋がります。雪による究極の低μ路での運転はその技術を磨くのに適しているとも言えるでしょう。

実は私、免許を取得する際、合宿で山形県の教習所にお世話になりました。その時、教習所の広い場所で鏡の様に凍った路面を当時、お目見えしたばかりのスタッドレスタイヤで走るという教習を経験しました。その様な路面ではスタッドレスタイヤを履いていても、かなり遅いスピードからでさえ、ガツンとブレーキを踏んだら、何処までも滑っていってしまうという事を学びました。

滑り始めたら後は何をしても無駄です。その恐怖を味わったからこそ、楽しみながらも決して無理をしない、という精神性を学べました。今でも、その教習所には感謝しています。

現在、カーオブザイヤーの選考委員という立場のお陰で、各メーカーやインポーターが主催する雪上試乗会というものに参加する事があります。

先日も、某スキーリゾートで行われた、あるインポーターの試乗会に参加してきましたが、一般道での試乗は勿論、大きな駐車場を利用し、様々な状況を人工的に作ったセクションを走ってみるという内容で、とても勉強になった上に益々、雪道の運転が好きになりました。

皆さん、無責任に、「どんどん雪の日にクルマで出掛けましょう!」とは言えませんが、雪道の特徴をしっかり理解し、真っ白な路面に自分の轍を刻むというクルマの楽しみ方を経験してみると新しい世界が見えてくるかもしれませんよ!

安東 弘樹

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