初めての経験、二つ …安東弘樹連載コラム
大人になっても自分にとっての初体験というのは、やはり興奮するものです。ここ最近で私は二つの初体験に遭遇しました。
一つ目の初体験
まず一つ目です。初めて電動のレーシングカーを運転しました。
運転したクルマは、NISSAN LEAF NISMO RC2というコンセプトカーでレーシングカーと申し上げましたが、実際にレースに参戦しているものではありません。
日産のレーシング部門NISMOが、そのレーシングテクノロジーを投入してEVレーシングカーの可能性を提示するために作ったマシンで、完成度は非常に高かったのが印象的です。
デモンストレーターとしてレーシングドライバーの松田次生選手と高星明誠(みつのり)選手も参加して下さったNISSAN主催の試乗会で、その機会を得たのですが、本当に貴重な体験となりました。
外観はまるでスーパーGTのGT500クラスのマシンの様にアグレッシブなデザインで、車内は殆どGTマシンの様です。レーシングマシンと同じ様な形状のステアリングには、各制御の調整ボタンやレバーが並んでおり、気分は否応なく上がってくるものでした。
パワーユニットは、簡単に申し上げれば市販電気自動車(EV)LEAFのハイパワー版。e+のモーターを前後に2つ搭載し、出力、トルクを同車の2倍にしたものです。数字で表すと240Kw 、640Nm。前後にモーターが有るので4輪駆動になります。
重量は、レーシングマシンとしては重いと言えますが、最近の市販車と比べたら十分軽い1,220Kgですからかなり速く、0-100Km/h 加速は何とスーパーカークラスの3.4秒。恐らくスーパーGTのレーシングマシンと、さほど変わらないタイムだと思われます。
4点式のシートベルトをスタッフの方にしっかりと締めて頂き、いよいよドライブです。大磯ロングビーチの広大な駐車場に作られた1週数百メートルの特設コースを一人2周する事ができるのですが、文字通りあっという間に終わってしまいました。
感想を一言で申し上げると、モーターはスタートの瞬間から最大トルクが発生するので、加速がスムーズでシームレスに速い!“ヒュイーン”というモーター特有の高い音と共に、マシンはどんどん前に進みます。
路上にある小石が跳ねて、タイヤハウスやアンダーフロアに当たる音が聞こえる位に静かですが、加速時の迫力は十分にありました。バッテリーがフロアにあるため、重心が低く、コーナーでもしっかりと曲がり、シケインも、軽くいなす事ができます。「とにかく運転して楽しい!」というのが最終的な感想でした。
内燃機関のクルマをMTで運転するのが最上の快感と思っている私ですが、その対極とも言えるトランスミッションが無いEVの運転が、こんなに楽しいとは思いませんでした。これまでもEVを運転したことはあるので、その楽しさを理解していたつもりでしたが、やはりレーシングスペックのマシンは格別です。パワーユニットが何であれ、クルマを運転することの楽しさは変わらないというのを実感できた初体験となりました。
そして、現状、フォーミュラEという形でEVの世界選手権が開催されていますが、今後はGTマシンレースのEV版の可能性も十分に感じさせるマシンでした。今後が楽しみです。
二つ目の初体験
さて、二つ目ですが、初めて無給油で1,000キロ以上を走る、という経験をしました。実は、前の所有車の走行距離が2年半で8万5,000キロに迫ったことから買い替えたクルマが、契約から半年を経てやっと手元に届き、慣らし運転も兼ねてロングドライブに出ることにしました。新しいクルマはディーゼルエンジンのクロスオーバーワゴンです。
仕事で京都に行く機会があったので、いつもの通り?クルマで現場に向かうことにしました。千葉市の自宅からは、片道ちょうど500キロ。
今回のテーマは、初回点検の目安である1,000キロ(ちなみに今回のクルマのメーカーでは1,000キロ点検というものは行っていないそうです。)を、無給油で走破できるかに決めて出発しました。そう、1,000キロを達成するということは、すなわち無給油で京都往復をするということです。
以前の所有車もディーゼルエンジンのクルマでしたが、燃料タンクが60Lと輸入車にしては少ない事もあってか給油まで900キロというのが、どんなに頑張っても限界でした。しかもそれは計算上で、実際には700キロを超えたあたりで残量警告灯が点いてしまっていたので、900キロに到達したことはありません。
今度のクルマの燃料タンクは66L。前車よりは少し増えましたが、1,000キロを達成するには前のクルマの燃費を超えなければ不可能です。
まず往路では、渋滞も少なく運転があまりに楽しく、且つ楽だったため、何と500キロを一度も休まず一挙に京都まで走り切ってしまいました。燃料系はちょうど半分くらいを指していましたが、この後、京都の町を一般道を使って少しずつ移動しなければならないことから、復路を自宅まで走り切るのは無理だろうなと思っていました。
そして仕事を終え、いよいよ京都を発つ時、燃料計を見ると半分をかなり下回っています。パッと見て8分の3くらいの残量でしょうか。
トリップコンピューターによると航続距離は470キロとなっていて、ナビによる自宅までの距離は504キロ。これはさすがに途中で給油だと覚悟していたのですが、高速道路を走っていると当たり前ですが自宅までの距離は短くなっていく一方。
航続距離はどんどん伸びていき、愛知県に入ったあたりでついに逆転し、理論上は自宅まで到着する上、余裕で1,000キロを超えることになりました。
しかし、物事はそうすんなりとはいきません。順調だった東名高速も、御殿場を過ぎたあたりで名物の事故渋滞が頻発しており、その数字も再逆転してしまいます。
以前にもコラムに書きましたが、私は東名高速上りを走行中、御殿場から終点の用賀までの間で事故渋滞に遭遇する確率100%を誇っており、今回もなんと3か所で事故があり、その内の一つはトラックが完全に反転して、こちらにヘッドライトを見せて停まっていました。もう一台のクルマも破損していたので、恐らく接触してスピンをしたのでしょう。車線を大きく塞いでおり、見事に渋滞を作っていました。
無事に記録を更新したのは良いですが(笑)燃費には致命的です。ここでほぼ諦めました。渋滞中に残量警告の黄色いマークも点灯し、途中のどこで給油しようかを考え始めた時に少しずつクルマが動き始めたのです。
そして、ナビゲーションは首都高の3号線も事故で大渋滞であることから、下道に降りるよう案内し始めたので、給油にもちょうど良いと思い従いました。それが奏功したのか、クルマが走り出すと、今度はまた航続距離が到着までの距離を超え、私を悩ませることになったのです。
ガス欠は今のコンピューター制御のクルマにおいては御法度です。ただどうしても限界も見てみたいし、京都往復、1,000キロ無給油走破を経験してみたいという欲に負け?自宅まで給油しないことに賭けてみました。そして、心臓の鼓動が聞こえるのではないかというほどにドキドキしながら自宅に向かってクルマを走らせ、ついに歓喜の瞬間を迎えます!
自宅近くのガソリンスタンドに無事、到着したのです。前回の給油時にリセットした距離計は、1,027キロを記録しており、燃費はコンピューター上、16.9Km/L。実際に満タン方で計算した所、16.7Km/Lでしたので、その正確さにも感心しました。
ついに私は人生で初めて京都往復、1,000キロを無給油で走り切ったのです!私は何も凄くないのですが(笑)とてつもない達成感に包まれました。そして、ディーゼルエンジンのポテンシャルの高さに改めて惚れ直しました。
もちろん都市部でクルマを使ったり、遠出をしないドライバーには、ハイブリッド等モーター併用のクルマの方が環境負荷は少ないのでしょうが、私のように長距離走行者にとっては、環境負荷、経済的負担、両方の面でディーゼルに叶うパワーユニットは、いまだに無いようです。
長距離を一挙に走ることを前提にすると、プラグインハイブリッドも含めて、現在、この実質燃費、航続距離を達成するのはディーゼル以外では無理だと、ほとんどのメーカーのエンジニアの方もおっしゃっているので、少なくとも私は、しばらくディーゼルエンジンのクルマに乗ることになりそうです。
それにしても、EVレーシングカーとディーゼルエンジンのクルマで、初めての経験に遭遇できたことを考えると、今がクルマ好きにとって一番楽しい時代なのかもしれません。そして、まだまだ“クルマ”というものがトキメキを感じさせてくれる“伸びしろ”があるプロダクツであるというのも実感できました。
自動運転だけは今は歓迎できませんが、将来、私も様々な機能が衰えていくでしょう。
それでもクルマに乗りたいという場合、それも楽しめるのかもしれないと初めて思えた今回の二つの初体験でした。
クルマって本当に良いですね!
安東 弘樹
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