驚愕の異常気象…安東弘樹連載コラム

皆さんは青森県の酸ヶ湯という所を御存知でしょうか?日本有数の豪雪地で、酸ヶ湯温泉の千人風呂という伝統ある温泉でも有名です。5mを優に超える積雪で知られ、近年、それが一つの名物にもなっています。2月中旬、そこに私はクルマで行ってきました。

昨年の12月、自分のクルマに新しいスタッドレスタイヤを装着した後、ほんの少ししか雪道を走っていないため、思う存分、その性能を試してみたいというのが主目的で、スケジュールを無理やり調整して自分のクルマで青森県まで向かうことにしたのです。

自宅から距離にして720kmあまりですが、いつものように休憩、1回で8時間も掛からず、酸ヶ湯温泉最寄りの黒石ICに到着しました。

まず驚いたのは東北自動車道の起点、川口から黒石まで1度も「滑り止め規制」が無かったことです。東北自動車道を北上する時に通過する福島県でも宮城県でも岩手県でも一切規制は無く、とうとう青森県の黒石まで路面に雪は文字どおり1mmもありませんでした。

午前8時~午後4時にかけての走行で、確かに東北地方に差し掛かったときは、日中で天気も良かったため、気温も低くなかったのですが、それにしても完全に想定外で、正直、拍子抜けといった感じです。

私の中では雪が舞う東北自動車道を、スタッドレスタイヤが雪をつかんでいる感触を確認しながら走っている“画”が浮かんでいたので、誤解を恐れずに申し上げると、「ガッカリ」というのが偽らざる心情でした。

もちろん、雪に悩まされている方々からすると、わざわざ雪の積もった道を求めて走りに来る、なんて「バチ当たり」という感想を持たれるかもしれませんが、私は雪道の運転が、とにかく好きなんです。

失望感に包まれながらも、「ICを降りて酸ヶ湯に近づいたら、さぞ雪は積もっているだろう」と気を取り直して、ステアリングを握る手に気合をいれました。

黒石ICから酸ヶ湯までは20数kmありますので、どの位から雪深くなってくるのかな、などと期待しながら向かいました。時刻は午後3時半位。しかし見事に太陽が燦々と輝いています。クルマの外気温計によると気温は6℃もあり、クルマの室内は暖房が利いていることもありますが、太陽の光のおかげで汗ばむほどの温度になっていました。

嫌な予感がしました。「まさか到着まで雪は積もっていないのではないか。何のために酸ヶ湯まで自走で来たのだろう」。しかし日本一の豪雪地帯です。

場所的にも時期としても日本で最も雪が積もっている条件が揃っている訳だから、雪が無いなんてことはあり得ない、と言い聞かせ酸ヶ湯まで一般道を上っていきました。

しかしナビゲーションの表示で酸ヶ湯までの距離が、どんどん短くなって行くのが分かります。後10km。まだ路面に雪は1mmもありません。後5km。まだ1滴もタイヤは雪に触れていません。

そしてしばらく経つと漸く道路の両側には雪が積もってきたものの路面は綺麗なアスファルトが黒々と姿を見せており、やはり雪はありません。

そして、その時はやってきたのです。そう、ナビゲーションの目的地に設定していた酸ヶ湯温泉に到着してしまいました!自宅からの700km強。とうとうスタッドレスタイヤが雪に遭遇することは無かったのです。

つまり、これは2月の中旬に、日本一と言っても過言ではない豪雪地帯に、ノーマルタイヤで到着できてしまったことを意味するのです。しかも気温も到着時の夕方4時過ぎまで氷点下にはなりませんでした。

酸ヶ湯に到着して車から降りた時、特に寒さを感じなかったのも衝撃です。
元来、私は寒さに強いのですが、それにしても2月中旬の夕方、青森県に関東地方から来て車を降りた瞬間に「マジか!寒くない」という言葉が出てくるとは思いもよりませんでした。

気温のことも考えると、極論を言えばノーマルタイヤどころか、雨でも使い物にならなくなるレース用の溝の無いスリックタイヤでも何も弊害は無かったでしょう。

何度も言います。日本一の豪雪地帯へスリックタイヤで到着できてしまう状況だった、ということです。

ホテルのスタッフの皆さんや温泉の受付の方、また地元の方にお話を伺ったのですが、どの年齢の方に訊いても2月の中旬に路面に全く雪が無いというのは記憶に無いし、やはり異常に暖かい。というのが皆さん共通の感想でした。

確かに生活するぶんには除雪の労力が掛からないのは楽だし、暖房費も少なくて済むし良いことばかりだそうですが、それにしても「気味が悪い」というのが正直な所だそうです。そして口々に「これは暖冬、というレベルではない」と仰っていました。

私も同感です。

国連、気候サミットで演説をしたスウェーデンの環境活動家グレタトゥーンベリさんの言葉が頭に浮かんできました。
「温暖化対策に本気で取り組まないあなたたち大人に失望した」

都市部に暮らしていると、普段から雪はあまり降りませんし、寒いと感じる日も、それなりにあるため、何となく、「この冬は暖かいかな」程度しか感じませんが、冬の寒さが厳しい所ほど、その違いを実感できるのでしょう。

私も改めて、最近の異常気象を肌で感じることができた気がします。

その後数十cmの降雪はあったようですが、やはり季節を通じて例年の半分ほどの積雪に留まる可能性が高いということです。

当初は「スタッドレスタイヤの性能が試せなくて残念!」などと思っていましたが、現地の方に色々なお話を伺うにつれ、そんな呑気なことを言っている場合ではないな、と猛省しました。

私は趣味でクルマに乗っている分、二酸化炭素の排出という意味では罪が重いのかもしれません。その分、と言ってはなんですが、普段から電気やガス等のエネルギーの節約には相当気を使っているつもりです。これは幼少期より親や祖父母が厳しかったことも影響していますが、やはりエネルギーは有限である、という意識によるものです。

自分の所有しているクルマに関しても、今回青森まで向かったクルマはかなり燃費が良く、つまりCO2の排出は少ないものですが、もう1台のスポーツカーは、同クラスのクルマと比べたら優秀な燃費を誇るとはいえ、「燃費が良い」とは決して言えないクルマです。

今回、気候変動を肌で感じ、決断しました。そのスポーツカーを、燃費の良いものに替えようと。

微々たる違いかもしれませんが、一人一人が状況に応じ、ほんの少しでも温室効果ガスを減らす行動を取れば全体的には大きな違いになってくるかもしれません。

MTだけは譲れませんので(スミマセン)、遥かに軽量で簡素な、そして小さなスポーツカーに替えることにしました。

元々、存在そのものは気になっていた車ではあるのですが、所謂、便利で快適な装備等は全く付いていないことから、「現実的ではない」と、これまで実際に購入リストに載ったことは無かったのですが、とにかくシンプルで燃費が良いクルマです。

現在持っているスポーツカーは、社員当時に無理をしてダブルローンで購入し、一生乗るつもりで11年に渡って所有していましたが、私はクルマをガレージに置いて眺めるというより、とにかく乗って楽しむため、その間、排ガスは出し続けることになります。
ということは排出ガスの少ないクルマを所有するしかないのです。

正に断腸の想いですが、グレタさんに「失望した」と言われないためにも、いや、何より地球のために、買い替えることに決めました。

こう書いているだけでも正直、辛いですし、実際に手放す日のことを想像すると涙すら込み上げてくるのですが、ここに宣言することで迷いを吹っ切りたいと思います。

今回は私の個人的な心情の吐露に、お付き合いいただき有難うございました。
と、言うより申し訳ございませんでした。

ですが、少しだけ、危機感を共有できたら嬉しいです。

安東 弘樹

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