クラシックカーイベント「ラ・フェスタ ミッレミリア」潜入レポート

今年で19回目を迎えた<La Festa Mille Miglia (ラ・フェスタ ミッレミリア) 2015>が10月16日に東京・明治神宮をスタートした。4日間かけ東京、埼玉、群馬、新潟、長野、山梨、静岡、神奈川と1都7県を走り、選手たちは紅葉が始まった日本の秋の風景を堪能しながら、沿道で応援してくれる方々と一緒にクラシックカーの走り、音そして文化を楽しんだ。

古いものに敬意を。いくつになっても心・少年

​​世界で最も美しいクラシックカーイベントとして名高いイタリアの<Mille Miglia>と連動し、日本で開催される<La Festa Mille Miglia>は、ポイントラリー方式で競われる。ルートブックを見ながら走り、途中PCという決められた区間を決められた時間で正確に走る競技や、COという決められた場所に決められた時間までに通過しなければならない区間がある。

また毎日いくつか決められたスタンプポイントでスタンプを押してもらうことがポイントとなり、速さではなく正確さを競う。参加資格は、1919年から1967年までに製造された戦前の名車や歴代のスポーツカーに限定されているだけに、楽しくも過酷な冒険の旅だ。

公園内で行われたPC。手前の白地にロゴが入った看板のところから、奥のチェッカーフラッグが描かれた黄色い看板のところまで、指定された時間にいかに正確に走れるかを競う

今年は15ヶ国からエントリー。より国際色豊かに

先週、日本で初めてインターナショナルブガッティミーティングがあったこともあり、海外からブガッティとともにやってきた選手たちもそのまま参加。世界15ヶ国からブガッティをはじめ、ベントレー、ジャガー、フィアット、MGそしてアストンマーチンなど往年のGTカー、スポーツカーが明治神宮のスタートポイントに集まった。

参加選手は、本国イタリアの<Mille Miglia>の上位入賞者をはじめ、日本からは堺 正章さんやパリダカの覇者、篠塚 建次郎さん、F-1ドライバーとして世界に挑んだ鈴木 亜久里さん、片山 右京さん、そして音楽界からはクレイジーケンバンドの横山 剣さんなど豪華な顔ぶれが揃った。

あいにくの雨だが、首都高を軽快に走る片山 右京さんが乗るのは、世界に1台しかない1953年製MORASSUTTI SPORT
<La Festa Mille Miglia>といえば堺正章さんというくらい、初期のころから参加し、クラシックカーに造詣が深い
クレージーケンバンドの横山 剣さんは1956年製AUSTIN HEALEY 100/4 BN2で参加

都会の渋滞と高速での雨。過酷な初日

明治神宮をスタートした一行は、まず代官山・蔦屋書店でPC競技に挑む。しかしそこまでの渋谷で大渋滞に巻き込まれる。特に戦前車を中心に大排気量エンジンのGTカーは、都会のコンクリートジャングルでオーバーヒートとの過酷な戦いが始まった。

なんとか高速道路に乗り、一安心と思われたが、今度は雨が強く降ってきた。オープンカーはなすすべなく、見えにくい視界のなか、ずぶ濡れになりながら北上した。幸い群馬に入ると雨もやみ、夕暮れとともに1日目のゴール、新潟のNASPAニューオータニへ到着。早くも大修理をするマシンも見受けられた。

毎年上位入賞を果たす横田/大木組が乗る1930年製ASTON MARTIN INTERNATIONAL SERIES 1
青山通り(国道246号)に突然150台を超すクラシックカーが現れ、駆け抜ける。その光景に沿道を歩いていた人たちは驚いていた
1934年製BENTLEY 3.5LITRE(伊藤/松浦組)が青山こどもの城の前を走る。雨でもフードがあるので車内は濡れずに済んだ
1934年製RILEY 12/4 SPECIAL(岩本/横尾組)
明治神宮のスタートからひとつめのPC会場の代官山・蔦屋書店へ行くルート上にあるLEXUS渋谷のスタッフが目の前を通るクラシックカーを応援
大渋滞のなか、瀧川/猪田組が乗る1949年製OSCA MT4を先頭にクラシックカーが連なる
流線型の美しさが特徴的な1953年製BANDINI 750 SPORT(下田/井出組)
1日目のゴール、新潟のNASPAニューオータニへ到着

山間のワインディングや温泉街を駆ける

2日目は新潟から長野、そして群馬へ。ときおり標高が高く、すでに紅葉が始まっている色鮮やかな山間の道を走った。この日のゴールは軽井沢。300kmを越す長いルートではあったが、途中風情ある温泉街の石畳の細い道を通り、たくさんの観客で盛り上がっている公園内のPCを通るなど、バラエティに富んだルートで、日本風情を感じられる1日となった。

しかし高低差のあるワインディングは、小排気量車にとって、かなり過酷だった。一般道で登坂車線のある上り坂では、ギヤは1速、速度は20km/hくらいしか出ない。パワーバンドの幅が1,000rpmもない繊細なマシンも多いので、ギヤが上げられず、回転数を上げすぎればオーバーヒート、最悪エンジンそのものを壊してしまう危険がある。逆に峠を越えて下りになるとめっぽう速い。愛車とともに忍耐と爽快感を交互に味わいながら進む。

また細く鋭角に曲がっている林道や細い温泉街のルートも走りやすい。ここでは大型で舵角があまりないクラシックカーにとってはライン取りに苦しんだ。そして街並みきれいな旧軽井沢を抜け、ザ・プリンス軽井沢にゴール。

商店街や温泉街など細い路地を通るときは、近所の方々が温かく出迎え、応援してくれる
スタンプポイントやPCなどで立ち寄る町では、こうしてご当地ゆるキャラが出迎えてくれることも多い
スキージャンプで有名な飯山ヒュッテのスタンプポイントでは、かわいいミスがジャンプ用スーツを着て出迎えてくれた
かっこいいのはクラシックカーだけではない。イタリアから来た1932年製LAGONDA 2LITREに乗るルカ/マッシモ組は、赤いハンティング帽で揃え、服装もおしゃれ
深々とした緑のワインディングの下りを颯爽と走る。マシンに負荷も少なく心地いい瞬間
真田のスタンプポイントでは、真田幸村に扮したスタッフがハイタッチで向かえ、送り出してくれた
紅葉のなかを走るクラシックカーとプリウス。過去と現在が同じ道の上で走っているのはとても不思議な瞬間だ
選手たちはみなふつうにガソリンスタンドで燃料を給油する。ルートブックにガソリンスタンドの表示があるので、みな同じガソリンスタンドに集まってしまう

快晴で富士山もきれいに見えた3日目

少し肌寒い軽井沢を出発し、長野から山梨へ。電子制御など無縁のキャブレターのクラシックカーにとって、高度が上がり気圧が下がると、ここでも苦しい戦いが始まる。

取り込める酸素量が減るので、出力バランスが崩れ、パワーが出なくなる。そこをうまくあやしながら走らせるのもクラシックカーの醍醐味。細心の注意を払い、ステアリングとアクセルに意識を集中して長野から山梨へ山を越えると、そこには大きな富士山が。外国から参加してくれている選手はもちろん、日本人でも驚くほど大きくて、きれいだった。冠雪がある北側からまだ雪のない南側の丸坊主の富士山を見ながら静岡、そして箱根へ。選手たちは温泉でリフレッシュできるが、多くのマシンがメカニックの手によって夜中までリフレッシュされていた。

150台もの走る宝石のようなクラシックカーの先頭をゼロカーとして走るのは、真っ赤なLEXUS LFA
93年前のクラシックカーが走ること自体が驚きだ。ベルギーからやってきたリュック/コルネリア組の1922年製BUGATTI T23
砲弾型が美しい1924年製BUGATTI T35B(黒川/石亀組)
日本にいるとは思えない光景。アメリカからやってきたサラ/ヴェンケ組の1926年製BUGATTI T37
GTカーはやはり赤が似合う。1955年製MERCEDES BENZ 190 SLと1968年製TOYOTA 2000GT
3日目のスタート。ホテルの駐車場には多くの観客が集まった
大会ロゴマークが入った旗を持って応援してくれる方々。何年も訪れている町の方々は、その楽しみ方を知っている
地元の若い女性たちが手作りのボンボンを持って応援。選手もこの笑顔を見たら疲れも一気に吹き飛ぶこと間違いなしだ

湘南の風に吹かれ、そして明治神宮へ凱旋

4日目も快晴。箱根から熱海まで山を越えれば、あとは比較的平坦な道を走る。優勝、上位入賞を目指す選手、満身創痍でなんとか完走を目指す選手が、最後まで愛車の調子を耳や鼻、目そして肌で感じながら、マシンを前に進める。

陽が落ちるころ、明治神宮に続々とゴールする。スポットライトに照らされた選手の笑顔とクラシックカーの輝きが、観客の声援でさらに増した歓喜の瞬間。選手はみなそれぞれにこの4日間のストーリーがあり、誰ひとりとして順調に行った選手はいない。愛車と自分たちが人車一体となって、苦難を乗り越えゴールした。日本の秋の風景、沿道で応援してくださる方々の温かい思い、日々車窓から見ながら駆け抜けた人とクラシックカーとの旅は、より人とのつながりを強くし、クルマとのつながりを強くしてくれていた。だからまた人はクルマに乗って旅をしたくなるのだろう。<La Festa Mille Miglia 2015>に4日間同行して強く感じた。今週末、ご自身の愛車とともに旅に出てみてはいかがでしょうか?<Mille Miglia>の楽しさがきっとわかると思います。クルマと向き合う楽しさを実感しながら。

アルファードも主催者のサポートカーとして大活躍
歌舞伎座まで来れば、あとは銀座、日本橋を抜け、ゴールだ
イギリスから来たフィークス夫婦。力を合わせ1928年製BUGATTI T40と一緒にここまできた
日本に海外から初めて参加した選手たちは、日本は山も海も街もとてもきれいだと喜んでいた

(テキスト/写真 : 寺田昌弘)

[ガズー編集部]