20年間うどん一筋。苦楽をともにした相棒「コスモスポーツ」

山田さんの愛車はホイールベースが短い前期型。その他、リアバンパーの形状、フロントバンパー下のダクトの開口面積なども後期型と異なっている。
山田さんの愛車はホイールベースが短い前期型。その他、リアバンパーの形状、フロントバンパー下のダクトの開口面積なども後期型と異なっている。

全力投球で、営業時間は3時間

北九州市小倉南区、バイパスから一歩隔てた裏通り沿いにある昭和風情の小さな建物。ここが地元で知る人ぞ知る絶品うどん店、「紀元(きげん)」。営業時間は午前11時から14時までの3時間となっているが、13時半頃には丼ものや天ぷら用の野菜が売り切れて、早めにのれんを片付けることも珍しくない。店主を務めるのが山田健治さん。今でこそ、待ち時間必至の人気店となっているが、脱サラで飲食業の世界に入った頃は苦労の連続だったという。

「サラリーマン時代にお昼ごはんを食べに行っていたお店のご主人と意気投合して、そのお店で修行を積ませて頂きました。それから1年ほどで自分のお店を持つことができましたが、駐車場が無かったこともあり、なかなかお客さんが来てくれませんでした。その分、出前でどうにかカバーしていましたが、商売としては厳しかったですね」と、山田さん。

 

コスモスポーツ購入にあたっては「怒るどころか、快く賛成してくれた」という奥様の朝子さんと。
コスモスポーツ購入にあたっては「怒るどころか、快く賛成してくれた」という奥様の朝子さんと。

このままでは先が無いと思った山田さんは一念発起し、駐車場がある現在の場所への移転を決断。背中を押したのは奥様の朝子さんだ。正直、山田さんは他の地域も考えていたそうだが、奥様の「きっとココは良い場所だよ!」の一言で即決したのだという。
この第六感は見事に的中。22年前の開店当時は現在のようなケータイのグルメサイトは普及していなかったが、口コミで評判を呼び、たちまち人気店になったという。そこで山田さんが自分へのご褒美にと、購入したのがスズキ・カプチーノだった。

「クルマが好きなのに、買わずに我慢して原付バイクでお店に通い続けている姿を見て、ヨメさんが許可してくれたんですよ(笑)。その時は嬉しかったですネ」。

店舗前で店主の山田さんとともに。
店舗前で店主の山田さんとともに。
外装はもちろん、内装もこの通りピカピカ。
外装はもちろん、内装もこの通りピカピカ。

一生に一度は、本当に乗りたいクルマを

しかし、若い頃にはホンダ・Zやフォルクスワーゲン・カルマンギアを所有するなど、山田さんが本当に好きなのは旧車。カプチーノもそれなりに気に入ってはいたが、「一生に一度は自分が心の底から欲しい車を」、ということで選んだのがコスモスポーツだった。

「偶然にもコンディションの良いクルマが見つかったので、これも縁かと思い、購入を決めました。ヨメさんも怒るどころか、快く賛成してくれました」。

それから20年あまり。常にトラブルが起こる前の予防治療を心掛けて来たこともあり、エンジンは絶好調。京都や広島へのロングツーリングをこなすほどのタフネスぶりを発揮している。もちろん、出かける時は必ずと言って良いほど奥様も一緒。山田さんは商売が立ち行かなくなった時には、いつでもコスモを手放す覚悟だったが、そんな素振りを見せた時、朝子さんは“大丈夫、売らなくてもきっと乗り越えられるよ”と、さりげなく声をかけてくれていたという。

コォーンと、心地良いロータリーサウンドを奏でながら疾走するコスモスポーツ。山田さんの運転操作もいたって穏やか。BGMはシルヴイ・バルタンがお気に入り。
コォーンと、心地良いロータリーサウンドを奏でながら疾走するコスモスポーツ。山田さんの運転操作もいたって穏やか。BGMはシルヴイ・バルタンがお気に入り。
オイルや冷却水の確認程度は自身でも行うが、メンテナンスは山口県のカーサービス・マエダにお任せしている。「定期的にしっかり整備しておけば、意外と壊れないモノですよ」。
オイルや冷却水の確認程度は自身でも行うが、メンテナンスは山口県のカーサービス・マエダにお任せしている。「定期的にしっかり整備しておけば、意外と壊れないモノですよ」。

仕事に、カーライフに、まさに充実の時間を謳歌しているかのようにも見える山田さんだが、最近では「引き際」を考えることもしばしばあるとか。理由は、長年のハードワークによる心身の疲労。山田さんの一日の生活サイクルは、毎朝2時50分に起床。3時半にはお店へ到着し、その日に使うスープや麺の仕込みを開始。続いて7時半に奥様が出社。しばしの朝ご飯タイムを取った後、仕込みを再開、そのまま開店。というように、営業時間は3時間弱ながら、実働は毎日約13時間。じわりと滲みる奥深い美味しさは、このサイクルを22年、欠かさず続けて来た努力の結晶なのだ。

「ヨメさんにもずっと苦労をかけてきたし、そろそろ休ませてあげないと。以前はずっと気を張っていましたが、最近はふっと力を抜くこともできるようになりました。それは、自分なりのゴールを決めたから。だからあとは少しリラックスした気持ちでやって行こうと思います」。

山田さんはスープと麺を担当、朝子さんは天ぷらと盛り付けを担当。手際良く、なおかつ丁寧に注文をこなす二人の呼吸は絶妙。撮影禁止のルールに則り、うどんの写真は割愛(笑)。ぜひ、お店まで食べに来てほしい。
山田さんはスープと麺を担当、朝子さんは天ぷらと盛り付けを担当。手際良く、なおかつ丁寧に注文をこなす二人の呼吸は絶妙。撮影禁止のルールに則り、うどんの写真は割愛(笑)。ぜひ、お店まで食べに来てほしい。

幸い、そのゴールテープが切られるのは1年や2年後という話では無いようだが、それでも、そう遠くはない将来の話だとも語る山田さん。引退後は夫婦でこれまで以上にコスモとの時間を楽しむ機会も増えるかもしれない。それはそれで喜ばしいことだが、「紀元」ファンにとってはこの味を少しでも長く、というのが正直な気持ちだ。

こちらはコーヒー豆を買いに立ち寄る、お店から15分ほどの距離にあるコーヒーボーイ。代表の本田さんも紀元うどんのファンで、クルマ好き。
こちらはコーヒー豆を買いに立ち寄る、お店から15分ほどの距離にあるコーヒーボーイ。代表の本田さんも紀元うどんのファンで、クルマ好き。

(文:高橋陽介 撮影:中山幸二)

[ガズー編集部]

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