大学自動車部ってどんなところ? -慶應義塾大学編-

全国の大学や専門学校などの自動車部におじゃまして、日頃の活動風景やご自慢の部員を紹介するこのコーナー。
今回は私学の雄、慶應義塾大学の体育会自動車部を訪問。
クールな中にも熱い情熱。部員の方々の、そんな雰囲気が印象的でした。

慶應義塾體育會自動車部プロフィール

●部員数:男子16名 / 女子 1名 ※部員数は2014年4月現在
部員紹介ページ

●部車:ホンダ・インテグラ、ホンダ・シビック、トヨタ・スターレット ほか

●活動内容:活動日は火曜・水曜・木曜の9:00~17:00および土曜。平日は日吉キャンパス内のガレージで講義の空き時間に部車の整備作業を行い、土曜日はサーキットなどに遠征。
全日本学生自動車連盟が主催するジムカーナやダートトライアルなどの公式戦に参戦し、全日本および全関東の2つのシリーズで優勝を目指す。

●活動実績:2013年度 全日本学生ジムカーナ選手権大会 男子の部 優勝
2013年度 全日本学生自動車運転競技会 女子小型乗用の部 優勝
2013年度 全日本学生自動車連盟年間総合杯 男子団体の部 2位

部活がある日は学ラン着用!

北は山形から西は大阪まで、日本各地にキャンパスを構える慶應義塾大学。自動車部が活動の拠点としているのは、神奈川県の日吉キャンパスだ。
大学の各種記念パレードや、ヒストリックカー関連のイベントなどで活躍するこちらの1931年製「A型フォード」も、実は自動車部の部車。昭和28年に練習車として購入したものだとか。創部から今年で83年という、部の歴史を感じさせる一台だ。
今回の取材に対応してくれた、主将の戸田敬介さん(左)と副将の大崎悠悟さん(右)。
部室に飾られた色紙には、自動車部の公式サイトにも書かれている「練習ハ不可能ヲ可能ニス」という言葉が。

今回訪問した慶應義塾大学は、福澤諭吉が1858年(安政5年)に築地鉄砲洲(現在の湊から明石町)に開いた蘭学塾が起源。1868年(慶應4年=明治元年)に、時の年号をとって塾名を「慶應義塾」と定め、近代私学として新発足しました。

2008年には創立150年を迎え、教育や研究、医療、社会貢献、国際連携などの分野でさまざまな取り組みを行っている日本を代表する私立大学の一つです。

1931年(昭和6年)に「モーター研究会」として発足した慶應義塾自動車部の部室および専用ガレージ、そしてなんとジムカーナ走行も可能な練習場は日吉キャンパスの奥、通称「イタリア半島」と呼ばれる出島のような一角にあります。

毎週火曜・水曜・木曜の朝9時から夕方5時までが部の公式な活動時間ですが、もちろん朝から夕方までずっとそこで活動しているわけではなく、講義がない時間やその日の講義が終わった後などに、それぞれの都合に応じて部員は「イタリア半島」にやってくるのです。

半島にやってくる部員たちを見ていて気づくのは、皆いわゆる学ランを着用しているということ。
これぞ体育会系! という感じで正直カッコいいです。

主将の戸田敬介さん(4年)によれば「活動日は学生服を着用」というルールがあるそうです。もちろん学ラン姿で部室に到着した後はツナギに着替えるわけですが、このあたりは、学問を修得していく過程で「智徳」とともに「気品」を重視した福澤諭吉の教えが今も脈々と生きている……といったところでしょうか。

頭を使ってクルマを作り上げる面白さ

穏やかな物腰が印象的な戸田さんだが、実はかなりの実力者。2014年の全関東学生ジムカーナ選手権では、個人の部で見事優勝を果たしている。
全国学生自動車連盟や、同関東支部が主催する学生選手権、早稲田大学との「早慶戦」など、さまざまな大会に参加する慶応義塾大学の自動車部。写真は2014年の全関東学生ジムカーナ選手権の様子だ。
鈴鹿サーキットで開催された、2013年の全日本学生ジムカーナ選手権大会の様子。慶應義塾大学はこの大会で優勝。ダートトライアルとフィギュアを含めた総合では、日本大学に次ぐ2位の成績を収めた。
「トヨタ・スターレット」のペダルを交換する車両担当の櫻庭彬生さん。自分たちの力で勝てるクルマを作り上げていくのも、自動車競技の醍醐味なのだ。

「たぶんですが、車両はウチが日本で一番ため込んでいるんじゃないでしょうか」と戸田主将が語るとおり、練習場の奥には部品取り車から新入生向けの教習車(某教習所からの頂きモノ)までがズラリと並んでいます。ちなみに「慶應義塾高校」にも高校では数少ない自動車部があり、そちらの専用ガレージは大学自動車部のすぐ隣。

主将の戸田さんも実は高校自動車部の出身で、「(慶應義塾は神奈川の日吉と埼玉の志木に高校があるのだが)自宅が埼玉県なので、中学から高校に内部進学する際、本当は志木のほうが断然便利だったんです。でも『自動車部に入りたい!』という一心で(笑)日吉にしました」とのこと。

「4年生になってあらためて思うのは『頭を使ってクルマを作り、そして勝つ』ということの面白さです。練習をすればもちろん速くはなりますが、授業もありますから、どうしたって練習量には限界がある。そこを補うために、とにかく知恵を絞って勝てるクルマを作っていくわけです。そこが、僕にとってはとてつもなく楽しいですね」

他の競技と同様、自動車部にも「早慶戦」があり、種目はジムカーナで争われます。通常は3月上旬に行われるのですが、今年は雪の影響で開催できなかったため、2014年の早慶戦は11月29日に行われます。全学年のタイムを合計して勝敗を決めるため「1年生のがんばりも重要になる」とのこと。そしてもちろん、メインターゲットである全日本のほうも総合優勝を真剣に狙っています。

「昨年は日大に敗れて総合2位でしたが、かなりの僅差で、最後の最後までもつれた戦いでした。……本当に悔しい。今年こそは日本一になります」

この戸田主将だけでなく、全員が「スタイリッシュで理知的な慶應ボーイ」のイメージそのままなのですが、それと同時にかなりアツい心をそれぞれの胸に秘めているのが、慶應義塾體育會自動車部の特徴なのかもしれません。

クールな知性と熱い情熱で勝利を目指す

「イタリア半島」と呼ばれるエリアに設けられた、自動車部自慢の練習場。その片隅では、部員の今津豪斗さん(左)と紺戸慎平さん(右)が「トヨタ86」に興味津々。
白・赤・青のカラーリングも鮮やかな、競技車両「ホンダ・シビックSiR」。この日はコーチの指導の下に、遠征に向けての練習が行われた。
「シビック」に給油する大崎さん(左)。練習場のある日吉キャンパスは住宅街に位置しているので、早朝や遅い時間にはスキール音の出る練習をしないなど、地域への配慮を徹底している。
練習の合間を見て、「トヨタ86」に試乗してもらう。皆さん、興奮しつつも冷静に、クルマの挙動や特徴を評価している姿が印象的だった。

前述のとおり「部のガレージの横にジムカーナもで きる練習場がある」という、都市部の大学自動車部としてはかなり恵まれたロケーションの慶應義塾自動車部。取材日は、翌日の遠征に備えて副将の大崎悠悟さ ん(4年)がコーチとともに、練習車両の「ホンダCR-X」でひたすらサイドターンを繰り返しています。コーチは当然上手なのですが、副将の大崎さんもか なりの腕前です。

しかし大崎さんの練習をただ見ているだけでは能がないので、取材班が乗ってきた「トヨタ86」を他の部員に試乗してもらうことにしました。試乗コースは前述の練習場です。

さて、皆さんの感想は?

「リニアに加速していく感じがイイですね。水平対向エンジンならではの音もステキです。コーナリング時の荷重移動がかなりスムーズにできるので、おそらく重量配分が非常に良いのでしょう」(4年・櫻庭彬生さん)
    
「軽くて楽しいクルマです。アクセルレスポンスもリニアで、踏んだら踏んだ分だけ応えてくれますね。個人的には、ブレーキ性能はもうちょっとほしいところです が、この回頭性の高さは魅力です。ちなみに自動車部以外の友人と話しているときも、86の話題はよく出ますよ!」(2年・今津豪斗さん)

毎日のようにパイロンの周囲をクルクル回っている体育会自動車部の面々に86の素性の良さを認めてもらい、ほっとひと安心の取材班でありました。

それはさておき、都会的なクールさとホットなマインドが不思議に同居している慶應義塾自動車部、興味のある学生さんはぜひ日吉キャンパスの「イタリア半島」を訪れてみてください。

(文=谷津正行/写真=ダン・アオキ)

関連サイト
【HP】  慶應義塾體育会自動車部
【Blog】慶應義塾体育会自動車部公式ブログ

[ガズー編集部]