【大学自動車部】和気あいあいと、真剣に! -東京理科大学編-

全国の大学や専門学校などの自動車部におじゃまして、日ごろの活動風景やご自慢の部員を紹介するこのコーナー。
今回は東京理科大学の自動車部を取材。
理系男子の皆さんは、自動車部のどんなところに面白さを感じているのでしょうか?

★東京理科大学自動車部プロフィール
●部員数:男子17名 / 女子1名 ※部員数は2014年7月現在
部員紹介ページ
●部車:トヨタ・カローラレビン、トヨタ・スターレットほか
●活動内容:毎週土曜日の10:00~18:00頃、千葉県の野田キャンパス内ガレージにて部車の整備を行う。火曜日18:00~20:00は葛飾キャンパスにて「クルマ研究会」という座学を実施。そのほか月1回ほどのペースでサーキットにて走行練習。現時点の目標は「新しい試合車をしっかり仕上げ、2015年度の公式戦で戦うこと」。
●活動実績:2014年度 全関東学生ジムカーナ選手権大会 16位

学業をおろそかにするのは厳禁!? 4年生は基本引退

全国5カ所のキャンパスのうち、自動車部が主な活動の拠点としているのは、千葉県の野田キャンパス。薬学部の敷地の一角にガレージを構えている。
取材のためにガレージを訪れてみると、練習用のトヨタ・スターレットを整備している真っ最中。「近々、サーキットで練習する予定なんですよ」とのこと。
ジムカーナ用の試合車はトヨタ・カローラレビン。「ダートトライアル用のクルマもレビンになったから、理科大は今、トヨタ一色ですね(笑)」
取材に対応してくれた部長の貞弘 稜さん(左)と、先代部長の平方優磨さん(右)。今回の取材は、3年生から2年生に役職が引き継がれた直後のタイミングだった。

今回おじゃましたのは理工系総合大学の雄「東京理科大学」の自動車部です。東京理科大学は「自然・人間・社会とこれらの調和的発展のための科学と技術の創造」を教育研究理念とする大学で、その源流は1881年(明治14年)、東京大学を卒業して間もない若い21名の理学士らが創立した「東京物理学講習所」です(2年後に東京物理学校と改称)。多くの卒業生が、明治・大正期のエリート養成学校であった中等学校や師範学校の教壇に立ち、理学の普及に大きな役割を果たしました。

真に実力を身につけた学生だけを卒業させるという「実力主義」を旨とし、その伝統は今日まで引き継がれています。現在では8学部33学科、11研究科31専攻を有する私学随一の理工系総合大学に発展し、東京都の神楽坂と葛飾、千葉県の野田と久喜、北海道の長万部に広大なキャンパスを構えています。

自動車部の部室およびガレージがあるのは千葉県野田市の野田キャンパス。どことなく地方の名門国立大学を思わせるクラシックで重厚な校舎と、最新の建築デザインを取り入れたモダンな校舎とが見事に調和した、独特の雰囲気があるステキなキャンパスです。

その一角にある自動車部のガレージもとにかく広大! ……と思ったら、自動車部の“領土”は建物の中心部分だけで、その両隣は「学生フォーミュラチーム」と「二輪部」のガレージとのこと。しかしどちらも自動車部と親和性の高い部活動であるため、自動車部とそれらの部活を兼部している人も何人かいるそうです。

自動車部の創部は今から約60年前で、他の大学自動車部にはあまりない特徴としては「4年生になったら基本的には引退」というのがあります。やはり理工系の専門大学。冒頭付近で紹介した「真に実力を身につけた学生だけを卒業させる」という方針のおかげで、4年生ともなると研究室での活動がかなり忙しくなり、どうしても引退せざるを得ないようです(ただし“絶対引退”ではないので、参加できる人は4年生になっても活動可能だそうです)。そのため部長となるのは常に「3年次の学生」で、この秋から新たな部長となったのはまだ2年生の貞弘 稜さんです。

まずは貞弘部長と、この秋に部長の座を貞弘さんに譲ったばかりの平方優磨さん(3年)に、東京理科大学自動車部のあらましや魅力、活動内容などを聞いてみましょう。

まずは競技に参加するための車両製作から

現部長の貞弘さん。「ダートラ用のクルマは自分が壊してしまったので、責任を持って新しい試合車を作らなきゃと思っています」とのこと。
両親がマツダRX-8に乗り換えたのを機に、クルマに興味を持つようになったという平方さん。高校生の頃は鉄道にも関心があったのだとか。
ダートトライアル用の試合車として、現在製作中のカローラレビン。今はご覧のような状態だが、これから仕上げて来年の大会出場を目指す。
和気あいあいとした明るい雰囲気が魅力の理科大自動車部だが、クルマに接するときの表情は、やはり真剣そのもの。

「実は僕たちは去年、全日本学生自動車連盟(以下、学連)に復帰したばかりで、それまで5~6年のブランクがあるんですね。ですから、今はまず頑張ってクルマを仕上げて、“戦える状態”にもっていっている最中です。そのため、現時点ではまだ、皆さんに自慢というかご報告できるようなリザルトは残せていないのが正直なところです」

そう語るのは現部長の貞弘さん。聞けば今から6年ほど前、福島県のエビスサーキットで行われている「エビススーパー耐久レース」のほうに注力したいということで理科大自動車部は学連を出たとのこと。しかし昨年、「他校との交流を深め、もっと試合に出る」という目的で復帰したのだそうです。

「で、まずは全日本ではなく関東のほうで頑張ってみようということで、今年6月に行われた全関東学生ダートトライアル選手権にエントリーしたのですが……」

ですが? 何がありましたか貞弘さん?

「前日の練習でわたしが横転させて壊しちゃいまして(笑)、結局試合には出られなかったんですよ、たはは……」

練習中、とあるコーナーでクルマが曲がりすぎて内側の壁を登ってしまい、そのまま横転してしまったのだそうです。

「その後、日大の自動車部さんからエンジン無しのトヨタ・カローラレビンを格安価格で譲っていただけることになり、先週やっとそのレビンが到着したので、今はそれを“作っている”真っ最中。……来年の全関東には絶対に間に合わせますよ! 壊してしまった責任もありますから(笑)、とにかく頑張ります」

現状は完全な状態の試合車もなく、それゆえ試合に出ることもできず、ましてやちょっと前までは学連からも脱退していた東京理科大学自動車部。……なのに、妙に皆さん明るいというか、本当に元気いっぱいに自動車部の活動を楽しんでいるように見えます。失礼ながら現時点ではまともな試合車もないのに、なんでこんなに和気あいあいとして楽しそうなんですかね?

「それはやっぱり、自動車部の楽しさや面白さというのは“走ること”だけではないから……ではないでしょうか?」

そう答えてくれたのは、つい先日まで部長だった3年生の平方さんです。

「走ることも当然楽しいわけですが、それと同時に“みんなでクルマを仕上げていく”という行為そのものが、走ることと同じぐらい楽しいと、わたしは思っています。また下級生のみんなもたぶんそう感じていてくれるからこそ、そんなに試合には出られないなかでも、非常に雰囲気のいい部であり続けていてくれるのかな……と思っています」

悩みながらクルマを仕上げていく面白さ

こちらは練習車のアライメント(タイヤの向きや角度など)を測っているところ。ホイールに専用の器具を差し、糸を垂らしてその角度を調べるのだ。
一方こちらでは、試合車として製作中のカローラレビンの内張りをはがしている。ハンマーでノミを叩く音がガレージ内にひびく。
1年先輩の高畑拓馬さんと談笑する、1年生の三橋 健さん。学業に厳しい理科大において自動車部と学生フォーミュラを兼部するという、密度の濃いキャンパスライフを送っている。
カメラを向けると率先してポーズをとってくれるなど、明るく積極的な雰囲気が印象的だった東京理科大学自動車部。皆さんありがとうございました!

「クルマを仕上げる楽しさというものには、大きく分けて2つの側面があると思うんです」と語る平方さん。高校生の途中まではいわゆる“鉄ちゃん”で、沖縄県以外の鉄道駅はすべて「各駅停車の旅で制覇しました」という根っからの乗り物好きです。

「一つは“レギュレーションに合格するクルマを作る”ということ。そしてもう一つが“速いクルマ”を作るということです。このどちらにおいても、みんなでああだこうだと悩むのが意外と楽しいんですよ(笑)。悩んで悩んで、そして仮説を立てて解決して……というプロセスそのものが本当に面白い」

現部長の貞弘さんも付け加えます。

「僕が入部したときもまだ学連に復帰していなかった頃で、活動内容は割と地味な感じだったと思うのですが、いかにも“自分たちが好きなことを和気あいあいとやってる”って感じがとっても魅力的でした。それで入部してみたんですが、自分もすっかりその雰囲気にハマり(笑)、練習して課題を見つけて、クルマを修正して仕上げてまた練習して……というサイクルを本当に楽しめていますね」

なんと言いますか、こちらの部の皆さんは“理系の人々”だからでしょうか、理路整然としていながらも非常におっとりした感じ。でもなんだかとっても明るくのびのびとしていて、しかし試合車製作と、その先にある「試合で結果を出す」という部分には真剣にコミットしていて、とっても雰囲気がいい。自動車部とはガレージがお隣となる学生フォーミュラチームと兼部している三橋 健さん(1年)も、「この自動車部の雰囲気が大好きなんです」と語ります。

「もちろん学生フォーミュラのほうも皆さんステキな先輩ばかりですが、なんと言いますか、フォーミュラのほうはクルマ好きというよりも“溶接好き”とか“設計好き”な方が多いんですね。でも自動車部のほうは皆ホント純粋な“クルマ好き”なので話が合いますし、何かと勉強になります」

ちなみに三橋さんは学生フォーミュラチームのエースドライバーですが、過日の大会では会心の走りをしたのにチェッカードフラッグを見逃し1周余計に走ってしまったことで、残念ながら失格になってしまったとか(笑)。次もぜひ頑張ってください。

最後に貞弘部長から“未来の自動車部員”に向けてメッセージをおくってもらいましょう。

「例えば一般的なスポーツというのは、持って生まれた素質や子供の頃の環境などによって、大学入学時点で結構な個人差が生まれているものです。しかしクルマの運転というのは基本的には18歳になって初めてできるものですので、スタートラインがみな一緒なんです。いわゆる運動神経も関係ありません。そのためモータースポーツというのは非常に“始めやすいスポーツ”だと言えるでしょう。興味のある方はぜひ、臆(おく)せず始めてみてください。
ちなみに、自動車部に入れば“運転免許が取りやすい”というメリットもあります(笑)。ガレージ横のクローズドな私有地で練習することができますからね。わたしも免許取得前はそこでたくさん練習できたため、教習所では教官に『……キミ、絶対に無免許運転してたでしょ?』と疑われてしまったほどです。
そんな感じの自動車部ですので、ぜひよろしく!」

(文=谷津正行/写真=ダン・アオキ)

 

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[ガズー編集部]