【大学自動車部】日頃から100%を出し切り優勝を目指す–慶應義塾大学(2017)-

全国の大学や専門学校などの自動車部におじゃまして、日頃の活動風景や自慢の部員をレポート。今回は慶応義塾大学を訪問。

慶應義塾大学自動車部プロフィール

●部員数
18名 ※部員数は2016年12月現在
部員紹介ページ

●部車
ホンダ・インテグラ タイプR(ダートトライアル用)
ホンダ・シビック(ジムカーナ用)
ホンダ・CR-X(新人戦用。女子大会にも使用する予定)

●活動内容
火・水・木曜日が活動日で、活動時間は火・水曜日が7時から9時、木曜日は18時から21時。日吉キャンパスにあるガレージで部車の整備を行っています。また、競技会のシーズン中(3月から8月)はほぼ毎週末、ジムカーナ場やダート場に遠征。ドライビングテクニックの向上やチーム力の強化を図っています。

●活動実績
平成28年度 全日本学生自動車連盟年間総合杯 準優勝(男子団体)
平成28年度 全日本学生自動車連盟関東支部年間総合杯 3位(男子団体)
平成28年度 全日本学生自動車運転競技選手権大会(フィギュア) 準優勝(男子団体)
平成28年度 全日本学生ジムカーナ選手権大会 6位
平成28年度 全日本学生ダートトライアル選手権大会 準優勝(団体)
第20回 関東学生対抗軽自動車6時間耐久レース 優勝(加盟校の部)

福沢諭吉が1858年に開学した蘭学塾をルーツに持つ慶應義塾大学。大学名の「慶應」は新銭座の校舎に移転した年号(慶應4年)に由来しています。福沢諭吉が説いた、実証的に真理を解明し問題を科学的に解決していく「実学」の理念を受け継ぎ、各界で活躍する人材を多数輩出しています。

授業が始まる前の朝7時から9時までがメインの活動時間

1933年(昭和8年)創部という長い歴史を誇る慶應義塾大学体育会自動車部。自動車部の活動拠点であるガレージは、横浜市内にある日吉キャンパスの一角にあります。自動車部の活動は朝早いのが特徴で、火・水は7時~9時という“朝型シフト”。冬場は辺りが薄暗い頃から部員が集まりはじめ、部車の整備を行いますが、実はつい最近、このシフトに変更したばかり。

歴史と伝統を感じさせる自動車部の看板。余談ですが、自動車部は慶應義塾体育会に属する体育会(43部)の中で31番目に古いそう

「以前は朝の9時から17時までを活動時間にしていたのですが、授業の都合で下級生しかガレージにいないという状況が続いたため、3週間前から活動時間を変更しました。下級生からは全員の方がいろいろ学べるし、チームとして試合の準備を進めている実感が湧くと言ってくれています」と主将の新関孝一さん(3年生)。

慶應義塾大学の学生の多くは、東京都港区にある三田キャンパスとガレージのある日吉キャンパスのいずれかに通っていますが、文系の上級生は三田に通うので、三田と日吉の間を行き来しながら部活動に参加しています。そのため、日中に部全員で集まるのが難しく、今回の変更に至ったそう。

クルマ4台が収まる広々としたガレージ。作業効率を上げるリフトも完備
ガレージの2Fは部室。限られた時間の中で部員たちがさまざまな準備を行います

得意種目はフィギュア。スピード競技で好成績を残すのが課題

自動車部の活動は主に全日本学生自動車連盟が行う競技会(フィギュア・ダートトライアル・ジムカーナ)と、全日本学生自動車連盟(関東支部)が行う競技会(種目は全日本と同じ)のふたつ。前者は全国の大学、後者は関東の大学と3種目の合計でポイントを競い、順位(年間総合杯)を決めます。それ以外に関東学生対抗軽自動車6時間耐久レースにも参加しています。

最近の傾向としてはフィギュアの成績が良く、ここ2年は優勝か準優勝という具合。逆にスピード競技(ジムカーナとダートトライアル)は苦手で、2016年の全日本のダートトライアル(団体)で準優勝できたのが久しぶりの好結果とのこと。

「スピード競技で良い成績を残すのが今シーズンの課題ですが、どの種目も3人の合計タイムで争うのでチームワークが問われますし、サポートする他の部員と連携がとれていないと結果がついてきません。OBの方からも言われるのですが、日頃から100%を目指して活動していないと絶対優勝できないと感じています」と新関さん。

とはいうものの、全日本の総合杯で準優勝というのは強豪校と呼ぶにふさわしい立派な成績。チーム全体のまとまりの良さで勝負する自動車部の方針が、好結果を生んでいるのは間違いないでしょう。

ダートトライアル用の部車はインテグラタイプR
ジムカーナ用の部車はシビック。フィギュアはレンタカーで戦うため部車はありません
軽自動車の耐久レースでは下級生も乗るため、合計4台でエントリー

自動車部を支える幹部たち

自動車部の活動を牽引するのが主将の新関さんをはじめとする幹部たち。それぞれ役割が細かく分かれおり、チームで戦う自動車部ならではのものとなっています。

主将は先述の通り、新関さん。部をまとめていく大事なポジションですが、主将が決定権を持っているという感じではなく、幹部や部員の意見を聞きながら、部の計画に反映していくそう。取材に伺った昨年の12月はちょうど1年の活動が終わった時期で、予算繰りや年間のスローガンを監督と相談しながら決めるという仕事もこなしています。

清水佑一郎さん(3年生)は主将をサポートする副将ですが、もうひとつの役割があります。それは「車両担当」。部車の準備や整備計画を立てて、それを実行していく整備のリーダーで、整備対象の車両は全部で15台ほど。相当な重責であることは間違いありません。

清水さんの高い整備スキルに新関さんも高い信頼を寄せています

そして驚くのが新関さんと清水さんは同じ慶應の付属高校出身の同級生で、一緒に部活をやるのはこれで9年目。しかも、高校の時の部活はサッカー部!二人に自動車部に入部した理由を伺ってみました。

「父親がクルマ好きで、興味あるし入ってみようかなというのが自動車部に入ったきっかけです。大学のサッカー部は高校サッカーの名門校出身の学生ばかりで、付属出身の学生は活躍できないので選択肢になかったです」(新関さん)

「部活紹介のパンフレットを見てこんな部活があるんだと思い入部しました。モータースポーツは遠い存在のように感じますが、学生でも参加できると聞いて挑戦してみたくなりました」(清水さん)

「自動車部ではみんなにチャンスがある」と語る新関さん(左)と清水さん(右)

二人が異口同音に口にするのは、主将、副主将という立場で部活の運営に携わっていけることにやりがいを感じているということ。9年間培ってきた鉄壁のチームワークで、自動車部をグイグイと引っ張っていくことでしょう。

また、主務は鈴木大介さん、広報担当は山村雅也さんが務めます。どちらも新関さんや清水さんと同じ3年生です。

「主務の仕事はずばりマネージャーです。試合の申し込みや宿泊先の確保、慶應義塾や他大学の体育会との連携などが仕事です」と鈴木さん。

マネージャーと言っても専任ではなく、選手として大会に出ることもあります。実際、鈴木さんは2016年の全日本学生ジムカーナとダートトライアルにドライバーとして出場し、ダートトライアルで準優勝を獲得しました。裏方の仕事をこなしながら選手として集中力を高めるのは容易ではありません。

また、広報担当の山村さんは自動車部のホームページの更新や試合の告知、試合結果の配信などを担当。全OB、OG向けにメールマガジンを送っています。

「正確な情報を伝える必要があるのですが、誤字や脱字などがあると厳しい指摘を受けます。広報担当としてはつらいところです」と山村さん。

主務の鈴木さん(左)と広報担当の山村さん(右)。鈴木さんはサーキット仕様のシビックを購入したばかりで現在納車待ち。山村さんはBMWの318クーペが愛車

山村さんは競技会に出たことはありませんが、軽自動車の耐久レースには出場したことがあります。それぞれの役割を持ちながらも、全員で試合を戦うというのが自動車部の方針。また、それを実現できる部員の層の厚さも、自動車部のアドバンテージと言えるでしょう。

自動車部の特色「イタリア半島」と「部内ラインセンス制」

もうひとつの自動車部のアドバンテージと言えるのが恵まれた設備。広々したガレージはもちろんですが、その奥のスペース(クルマが走行できる)まで自動車部が使用することができます。上空から自動車部の敷地を見るとイタリア半島に似ていることから、通称“イタリア半島”と呼ばれています。他大学の自動車部が見たらうらやむほどの施設ですが、その使用に関しては厳格に定められています。

ガレージの奥が走行できるスペース。取材日は大学の授業の一環として自動車運転の実技が行われていました
イタリア半島についての部内規則。新歓の季節には新入生を乗せて半島内を走ることもあるそう。「一致団結」は新関さんが決めた今年の年間スローガン

またイタリア半島同様、厳しく定められているのが部の車両を運転できる“部内ライセンス”。免許を持っていればどんなクルマにも乗れるわけではなく、部保有のナンバー付き車両の隣に監督を乗せて、一般道の細い道を走行し、合格すれば乗れるようになるというもの。このライセンスは車種ごとに細かく分けられており、競技会に出る部車も許可を得た者以外は動かすことができません。

「教習所を出たつもりが、もっと厳しい試験があった。そんな感じですね」と新関さん。

部保有のナンバー付き車には大学の旗が貼られていますが、大学を背負っているという意識を持って運転してほしいから。逆に言えば、その意識が足りない人にはライセンスは与えられないというわけです。

今後の活躍が楽しみな女子部員2名

現在、自動車部には女子部員2名が在籍。少数派ながら競技会には女子部門があり、慶應義塾大学自動車部も参加しています。

1人目は2年生の安武優希さん。安武さんは理工学部に所属するバリバリの理系で、自動車部に入部したのも機械の仕組みを知りたかったからという積極派。男子部員と同じく、ツナギに着替えて一緒に整備を行う他、すでに競技会への参加を果たしています。

「実際の自動車の整備は大変でした。オイルまみれになるし、パワーが足りなくてタイヤも外せませんでした。でも、実際触ってみると違いますね。授業でやっているのは理想的な条件だったりするので、教科書通りではないことが分かりました」と安武さん。

また2人目が昨年入部した1年生の関川なつ美さん。現在免許を取りに教習所に行っている段階で、整備もまだまだ勉強中とのこと。しかし、免許を取得して2人で競技会に出られるようになれば、団体戦(男子は3名だが女子は2名で参加できる)にエントリーできるので、部の期待は大きい。

「サークルは楽しむことが目標ですが、部活は勝つことが目標です。そのストイックさの中で、得られる4年間の経験はやっぱり大きいと思います」と関川さん。

安武さん(左)と関川さん(右)。関川さんが入部したことによって「遠征先で1人部屋になることがなくなりました」(安武さん)

男女問わず部員の心を惹きつける慶應義塾大学体育会自動車部。現在部員は増加傾向にあるということですが、他の部活動やサークルとは異なる自動車部の魅力がしっかり学内に伝わっているからでしょう。競技会の開幕は3月のフィギュア。新関主将率いる新生自動車部の戦いに注目です。

(フリーライター:ゴリ奥野)

[ガズー編集部]