トールボーイコンセプトのクルマが家族の一員、1983年式ホンダ・シティR(AA型)

アラフォー世代以上の方であれば、テレビから「ホンダ・ホンダ・ホンダ・ホンダ、シティ!」というリズミカルな音楽とともに、外国人男性が列をなしてクルマの周りをムカデダンスする、ホンダ・シティのCMを覚えているのではないだろうか。

ホンダ シティのCM曲に採用された、Madness(マッドネス)というイギリスを代表するスカ・バンドが歌う「In The City」のインパクトは強烈だった。作曲を手掛けたのは、故井上大輔氏。仮にその名を知らずとも、映画「機動戦士ガンダムII 哀・戦士編」の主題歌である「哀 戦士」や「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編」の主題歌「めぐりあい」などの歌い手といえばピンとくるはずだ。

今回のオーナーは、以前「7年越しの福来たる。世界に誇る軽自動車規格のミッドシップ、ホンダ・ビート」で取材させていただいた際、初代ホンダ・シティも所有していると伺い、再びお会いする機会を得た。さらに今回は、オーナーと奥様、そしてお嬢さんのご家族で取材に協力していただけることになった。

7年越しの福来たる。世界に誇る軽自動車規格のミッドシップ、ホンダ・ビート
http://gazoo.com/ilovecars/vehiclenavi/170610.html

「初代ホンダ・シティR(AA型/以下、シティ)を手に入れたのは6年前です。このクルマの存在を知ったのは、有名なCMではなく『Dr.スランプ アラレちゃん』というアニメがきっかけでした。美人教師の山吹みどり先生の愛車がシティで、主人公のアラレちゃんと競争して唯一勝ったのがこのクルマだと記憶しています。このときから、いつかシティを手に入れたいと思っていたんです」。

シティがホンダのエントリーモデルとして誕生したのは1981年11月のことだ。当時、車高を低く見せることがトレンドだった時代。敢えて逆を突いた「トールボーイコンセプト」を打ち出した。現代でも、トールワゴンタイプなどと呼ばれる軽自動車が人気だが、シティはその先駆けだったのかもしれない。そして、Dr.スランプ アラレちゃんといえば、鳥山明氏の原作を基にアニメ化され、1981年からテレビで放映されていた。奇しくも、シティの誕生と同じ年にオンエアが開始され、高視聴率を記録したアニメ作品だった。オーナーが幼少期に出会ったシティを手に入れたきっかけを伺ってみた。

「当時私は、ルノー・トゥインゴ(以下、トゥインゴ)と取材していただいたホンダ・ビートを所有していました。トゥインゴがきっかけで、お付き合いがあった、イタフラ系のクルマを得意としている自動車販売店から、モトコンポ付きのシティが出戻ってくると連絡があったんです。さっそく家族で見に行き、その場で購入してしまいました。偶然、トゥインゴを探していた方がいるタイミングでして、高値で下取ってもらえた分をシティの購入資金に充てました。あれほど街に溢れていたシティが、ある時期を境に急に見掛けなくなったような気がしていたので、きっとかなりの個体が廃車になったのだと思います。そんな状況にも関わらず、本当にシティを買えるとは思っていなかったので、タイミングと運に恵まれたと思いました」。

シティのキャッチコピーは「シティは、ニュースにあふれてる。」だったが、原宿・表参道界隈も「シティが、街にあふれてる。」時代があったに違いない。しかし、いつの間にかほとんどのシティが街から姿を消してしまった。当時この街を歩いていた若者に代わり、今ではその子どもたちがこの界隈に繰り出しているのだろう。誰もが気づかぬうちに、時代はあっという間に移り変わっていくのかもしれない。こうして、手に入れた時点で30年近い年月が過ぎたシティだが、トラブルには見舞われなかったのだろうか。

「すぐに乗りたかったのでほぼ現状の状態で手に入れましたが、あちこち壊れましたよ。私はできるだけ自分でメンテナンスする方ですが、真夏にオーバーヒートしたときはなかなか原因を突き止めることができず苦労しました。そこで、古いホンダ車が得意だという主治医のところに預けたんです。そうしたら一発で直ってしまいました。クラッチも滑り気味だったし、一通りメンテナンスしてもらったところ、一気に快調になりました。欠品していた部品でも互換性があるものに交換してくれたこともあり、改めて主治医の存在は偉大だと感じました。今では、この方がいなければシティに乗れないと思っています」。

手に入れて早々、古いクルマ相応のトラブルを経験してしまったが、実際にシティを手に入れてみた率直な感想を伺ってみた。

「まず、車体の軽さを実感しますね。車両重量が600kg台なんです。その分、燃費も良くて、高速道路ならリッター20km近く走ります。パワーステアリングが装備されていないのでハンドルは重いんですが、走りは軽快です。軽量なボディと相まって、『シティに乗るというより、着るような』感覚がありますね。服に例えるならTシャツのような感じがします。とにかく部品の欠品が多いクルマで、ガラスにヒビが入ったら車検も通せなくなるので気を遣いますね。高速道路では、トラックの後ろを走らないよう、常に心掛けています」。

シティのボディサイズは、全長3380mm、全幅1570mm、全高1470mmと、現代の軽自動車並みのコンパクトさである。車両重量は665kg(5速MT仕様)という、現代ではあり得ないほどの軽さだ。排気量1231cc 水冷直列4気筒CVCCエンジンを搭載し、最高出力は67馬力となる。当時のカタログ値で18km/lというほど燃費の良いクルマだったのだ。シティに搭載されることを前提に開発されたトランクバイク「ホンダ モトコンポ」もユニークな存在として話題になった。ハンドルやステップを折りたたむことが可能で、車両重量は45kgと、大人2人で持ち上げればシティのリアゲート部分に収納することができるのだ。

「私のシティは、純正マフラーが錆びてしまったため、過去のオーナーさんがステンレス製のものに交換したところ以外、ほぼオリジナルです。ただし、リアのエンブレムがなかったため、尊敬するシティ仲間がわざわざ自分のリアエンブレムを外し、型を抜いて造ってくれた複製品なんです。ホイールはターボ用に交換されていて、シティ仲間がオリジナルのものを譲ってくれる話もありましたが・・・。ホイールキャップが欠損しているらしく、それが見つかるまで待ってくれと言われています。シティ乗りはディープな方が多いですね(笑)。前オーナーとも偶然知り合えたのですが、この方もシティからシティ(通称マンハッタンルーフ)に乗り替えたくらいですから。それとこのモトコンポ、譲り受けたままの状態で、まだ自走できる状態ではないんです。いつか直してあげたいですね」。

取材時にオーナーの友人が同行してくれるケースはしばしばあるのだが、家族そろってというのは珍しい。今回は奥様とお嬢さんにも話を伺ってみた。

「幼少期から仕事でクルマ移動する両親と一緒に行動していたので、乗るのは好きですが、ここしばらくペーパードライバーです。ママ友さんたちのクルマと比べたら、エアコンはまったく効かないし、暑くて不便ですが、シティで移動すると家族一体になれるんです。ときには私が手動で扇風機を首振りしたりすることもありますよ。先日、家族で沖縄旅行に行ったとき、現地でレンタカーを借りたんです。最近のクルマなので、当然のことながらエアコンは良く効くし、移動中は快適そのものでした。すると、リアシートに座っている娘がずっとスマートフォンをいじってるんです。すぐさま取り上げて景色を眺めるよう促しました」。

すると隣にいたオーナーがさりげなくフォローしてくれた。

「雨が降ったときなんて大変ですよ。会話すると車内の熱気で窓ガラスが曇ってしまうから『しゃべるな!』って怒鳴っています(笑)。常に気が抜けないからこそ、家族一体になれるのかもしれないですね」。

確かに、現代のミニバンのように至れり尽くせりな装備だと、車内でのそれぞれの行動に意識を向ける必要がなくなるかもしれない。パパはひたすら運転、ママは居眠り、子どもたちはリアシートでDVD鑑賞かゲーム・・・。さらにプライバシーガラスが装備されているリアシートでは、景色を眺める楽しみも半減してしまうかもしれない。オーナーの家族のように、一家でシティに乗って移動することそのものが、不便さを伴う分、不思議な一体感を生んでいるように思えてならない。最後に、オーナーのお嬢さんにシティの好きなところを伺ってみた。

「お耳(フェンダーミラー)が好き」・・・とのことだ。

お嬢さんがやがて大人の女性になったとき、パパが所有していたクルマのことを振り返るだろう。同年代の子どもたちは、移動中に見た景色よりもゲームの話題で盛りあがるかもしれないが、お嬢さんは家族で出掛けたさまざまな場面を鮮明に記憶しているのだと思う。ひょっとしたら、その体験こそが、お嬢さんの人生をより豊かなものにしてくれるのではないか?そんな風に感じた取材となった。

【撮影地:表参道・原宿(東京都渋谷区)】

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]