22歳オーナーとの“はじまりの日”。先輩から後輩へと受け継がれるホンダ・CR-X(EF8型)

誰しも「思い出の1台」を見かけたとき、つい振り返ってしまうのではないだろうか?思い出のクルマのオーナーが、車齢よりも若い場合はなおさらだ。この日も深夜のパーキングで話しこむ、二十代と思しき若者たちに声を掛けてみた。傍らに停まっていたクルマはホンダ・CR-X(EF8型/以下、CR-X)。1987年から1992年まで生産されたFFのライトウェイトスポーツだ。「サイバー スポーツ」の愛称で知られ、国内外で今もなお愛され続けている。

オーナーの男性は22歳の大学生。明らかにこのCR-Xよりも「年下」だ。ホンダ・シビック(EK3型)をファーストカーに、日産・マーチ(K11型)、ホンダ・CR-Xデルソル(EJ4型)とコンパクトなハッチバックを乗り継いできた。現在は大学の自動車部に所属しているという。

「大学で何かサークルに入ろうと思い、なんとなく選んだのが自動車部でした。入部した日の夜、先輩にドライブへと連れ出してもらって……。これが楽しくて。それからクルマの世界にどっぷりとハマり、走らせる楽しさやモディファイのおもしろさを知りました」。

彼のCR-Xは取材当日に納車されたばかりだという。隣にいたもう一人の男性はオーナーの先輩とのことだ。なんとこのCR-Xの元オーナーだった。二人は自動車部の先輩・後輩という間柄で、新オーナーの慣らし運転を兼ねたドライブの最中だったのだ。

新旧オーナーによると、このCR-Xは1992年式の最終型だという。排気量1595cc、DOHC・VTEC機構を持つ、B16A型エンジンを搭載した「SiR」だ。最高出力は160馬力。当時、リッター100馬力を超えるパワーに魅了された人も多いはずだ。ボディカラーがホワイトで、さらにノーマルルーフという組み合わせはかなり希少だと思われる。この個体の走行距離は25万キロを刻んでいるが、歴代のオーナーに大切にされてきたからこそ、いまだに現役でいられるのだろう。
今回は“新旧のオーナー”から話を伺えることになった。まずは、最初のオーナーに、この個体と出逢った経緯を伺ってみることにしよう。

「別の大学と合同活動をしていたとき、メンバーの一人がCR-Xに乗ってきていたのがきっかけでした。ゆっくりとした速度で運転させてもらったにも関わらず、乗った瞬間のしっくりくる感覚に『欲しい!』と思ってしまったんです。クルマを探しはじめた矢先、別の大学のOBがCR-Xを手放すことを知って即決しました。そうしてやってきたのがこの個体なんです」。(元オーナー)

「僕がCR-Xを手に入れたのは、先輩(元オーナー)から話をもちかけられたことがきっかけです。走りに関しても尊敬している先輩ですし、好きなクルマだったので乗るしかないと思い、譲り受けました。実際に乗ってみて分かったことですが、挙動がピーキーですね。そのため、運転するときは前後の荷重移動を意識するようにしています。それと、このクルマのリヤビューからのアングルがとても気に入りました」。(現オーナー)

「彼の言っていたピーキーという点ですけど、僕もこのクルマの挙動はトリッキーだと感じています。このCR-Xで走り込んでいくうちに、他のクルマに乗ったときでも対処ができるようになり、自動車部が保有する競技車をあらゆるセッティングに変更しても乗りこなせる自信がつきました」。(元オーナー)

大学の自動車部員の愛車だけあり、ひと目見るだけでさまざまなモディファイが加えられていることに気づく。元オーナーに詳しく紹介してもらった。

「車高調は前後CUSCO製(Cリング式)、エンジンは一度オーバーホールとバランス取りをしています。ミッションはホンダツインカム製のクロスミッション、ファイナルはホンダ・インテグラ(DA6型)のものを流用しています。マフラーはFUJITSUBO製レガリスRでしたが、エンジンを回すとイイ音がしますよ。配管が割れてしまったので、中間部を溶接して補修しました。タイヤは普段、Sタイヤを履かせています。現在履いているホイールは前後で異なり、フロントはラリー用だと聞いて知人から4本2000円で買ったもの。リヤはネットオークションで買いました」。(元オーナー)
他車種の部品を流用しつつ、自作しながら工夫を凝らしたモディファイが施されているようだ。このCR-Xは、登場からすでに20年以上が経過している。部品の確保やメンテナンスについては気になるところだ。

「部品取り車を2、3台確保できているので、何かあればそこから調達できます。このモデルは個体数が少ないこともあり、部品が出てこないのが悩みです。純正部品はほぼ欠品していますし。ディーラーに持ち込んでみたら『このクルマの部品はほぼ何もないんですよ…』と言われてしまいました。唯一、スプールバルブのパッキンが入手できるくらいでしょうか。また、現時点で外装部品のストックがほぼないため、現オーナーの彼にはこのCR-Xを潰してほしくないというのが本音です」。(元オーナー)

やはり旧いクルマ、特に国産車を維持していく上で、一番の悩みは部品の調達といえるだろう。中でもホンダのVTECエンジン搭載車は、バルブの切り替わりを制御しているスプールバルブ内のパッキンが劣化することで、オイル漏れが起こりやすいという。この種の部品は、クルマにとって生命線ともいえるものだ。この部品が手に入るだけでも、CR-Xオーナーにとっては朗報だろう。

現在「絶版車」の部品供給状況は、決して良いとはいえない。マツダ・ロードスター(NA型)や日産・スカイラインGT-R(BNR32型)の純正部品が再生産されるというニュースは記憶に新しいものの、それらはごくひと握りの車種にすぎず、多くの絶版車が姿を消し続けている現状だ。あるいはこんな好例もある。クラシックMINIは日本国内の専門店で組織された「JMSA」により、質の良い国産部品がなんと新品で供給されているのだ。愛されたクルマが存在し続けているならば、メーカーは愛で応えなければならない時期を迎えているのではないだろうか。

最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「今後、さらにウデを磨いていきたいです。CR-Xは、乗り手を育ててくれるクルマだと思っています。僕はこのクルマで速く走りたいとは思いません。今のところ、これ以上モディファイをする予定はなく、上手く操れるようになるまで一緒に走っていきたいというのが率直な気持ちです」。

快然たる決意表明だった。オーナーは今後、ダートラや軽自動車の耐久レースに参戦しつつ、CR-Xとのカーライフを楽しんでいくという。

もしかしたら、カーライフの大部分は「縁」が関係しているのかもしれない。このCR-X(EF8型)も自動車部員たち間をめぐり、現在のオーナーに縁があったのだ。「めぐりあわせ」や「つながり」の大切さを、クルマを通して若い人が体験しているのを目にすると、一人のクルマ好きとして非常にうれしいではないか。この日、出会えた若き元オーナーと新オーナーのカーライフに幸あれ!と、改めてこの記事を通して伝えたい。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]