コールサイン港3。愛車は幼稚園のときに観た「あぶない刑事」の劇用車仕立て、日産・レパード(F31型)

これまで、数え切れないほどの刑事ドラマが作られてきたように思う。限りなくノンフィクションに近い作品もあれば、誰もが妄想の世界だろうと感じるものまで、その時代の背景を映すかのような刑事ドラマがいくつも誕生した。そして、これからも新たな刑事ドラマが生まれるのだろう。

そんな、数ある刑事ドラマの歴史において、「あぶない刑事」シリーズは間違いなく一時代を築いた作品だと言える。テレビでの放映開始は1986年。もう30年以上も前なのだ。刑事ドラマの名作のひとつである「西部警察」のような豪快なカーアクションと、その当時の流行を反映したブランド物のスーツを着こなした「タカ&ユージ」が、横浜を舞台に颯爽と駆け抜ける。もちろん、現実にそんな刑事は存在しない(というより、ありえない)。

それでも、多くの視聴者があぶない刑事の世界観に熱狂した。浮き世離れした刑事である「タカ&ユージ」は憧れの対象となり、男性はもちろん、女性ファンをも魅了した。そして、劇用車として起用された日産・レパード(F31型)も人気を博した。今回は、幼くしてそんな「あぶない刑事」、そして「レパード」に魅せられ、ついに愛車として手に入れてしまったオーナーをご紹介したい。

「このクルマは、1987年式 日産・レパード 2000XS-IIをベースにした『3000アルティマ仕様』です。手に入れてから9年になります。現在の走行距離は28万キロを超えました。私が所有してからの走行距離は9万キロくらいでしょうか。私は現在、32歳になりますが、このレパードを所有しているのは、あぶない刑事が大きく影響していることは間違いありません」。

日産・レパード(F31型/以下、レパード)が登場したのは1986年2月だ。そして、あぶない刑事の放映が始まったのは1986年10月。当時、実質的なライバル車であったトヨタ・ソアラ(MZ21型)のデビューが1986年1月。クルマが「女性にモテるための必須アイテム」だった時代において、ソアラは花形の存在であり、それと比較して、レパードの影が薄かったことは否定できない。事実、販売台数でも大きく水を空けられていた。ニューモデルとしてデビューしたばかりのタイミングで、あぶない刑事の劇用車として起用されたのは、このクルマにとって幸運だったのかもしれない。

オーナーが所有する個体は、「2000 XS-II」というグレードをベースに、あぶない刑事の劇用車に仕立てた「3000アルティマ」仕様だ。ベース車のボディサイズは全長×全幅×全高:4680x1690x1370mm。排気量1998cc、「VG20ET」と呼ばれるV型6気筒SOHCエンジンの最大出力は155馬力を誇る。ちなみに、3.0 アルティマのエンジンは、排気量2960cc、「VG30DE」と呼ばれるV型6気筒DOHCを搭載し、最大出力は185馬力だった。

このレパードは1987年式とのことだが、現在のオーナーの年齢は32歳。つまり、クルマとオーナーはほぼ同世代だ。いつ頃、あぶない刑事の存在を知ったのだろうか?

「初めてあぶない刑事を観たのは、私が幼稚園の頃だったと思います。当時、リアルタイムで続編にあたる『もっとあぶない刑事』を観た記憶があるんです。この作品の劇用車に起用されていたのは、『横浜33も54-17』のナンバーを掲げた、ゴールドツートンのレパード3000アルティマでした。母親から『あなたはタカ(舘ひろし)と同じ誕生日なのよ』と教えてもらったことにも運命を感じましたね。しかし、大人になってレパードを探してみると、程度の良い個体がほとんどありませんでした。諦め掛けていたときに、劇用車と同じボディカラーのレパードを見つけたんです。こうして手に入れたのが1台目のレパードでした。当時としては先進的なデジタルメーターにも惹かれました」。

1台目ということは、現在のレパードは2台目にあたるということなのだろうか?

「そうです。実は1台目のレパードをある理由で失ってしまいまして…。レパードを所有する仲間から譲り受けたこの個体が、レパードとしては2台目になります。前オーナーが純正色であるダークブルーツートンに全塗装し、レストアを施した個体でした。私が手に入れた当時は、ダークブルーツートンの劇用車といえば『映画 あぶない刑事』仕様にするのが定番でしたから、私は敢えて松山ロケでのみ採用されたナンバーを選んで乗っていたんです。しかし、この松山ロケでの使用したナンバーはあまりにマニアック過ぎるチョイスだったのか、誰にも気づいてもらえませんでした(苦笑)。その後、社外品のホイールを履かせたり、車高を落としたり、マフラーを交換したりと、自分なりにモディファイを楽しみました」。

では、現在の「映画 あぶない刑事」仕様に変更したきっかけは何だったのだろうか?

「やはり、2016年に公開された映画『さらばあぶない刑事』の存在が大きかったです。これを機に、自分のレパードで再現できる『コールサイン港3 / 映画 あぶない刑事』仕様を造ろうと決めました。XS-IIとアルティマでは、シートの形状や表皮が異なるんですが、前オーナーさんが3000アルティマの内装を保有していてくれたことも幸運でした。こうして、譲っていただいた内装を移植し、車検のタイミングで3000アルティマ仕様に変更し、ナンバーも劇用車と同じ『54-19』を取得。社外品だったホイールやマフラーも純正に戻し、ついに劇用車を再現することができました」。

オーナーがここまでこだわったレパードの気に入っているポイントを伺ってみた。

「フロントマスクのデザインですね。前期モデルと後期モデルでは、表情がまったく異なるんです。元々は後期モデルの顔つきの方が好きだったんですが、所有しているうちに、この前期モデルにも愛着が湧いてきました」。

では、特にこだわっているのはどのあたりだろうか?

「できる限り今の状態を維持することでしょうか。レパードオーナー同士の結束は強く、あぶない刑事の劇用車を意識したノーマル派と、マフラーやホイールなどを交換するモディファイ派に分かれるんですが、同じクルマのオーナーだけに、お互いに仲間意識があるんです。それに、どれほど忠実に劇用車を再現したとしても、私1人ではモチベーションが続かないものなんです。あぶない刑事の世界観を共有できたり、一緒にツーリングに出掛けるなど、レパードを所有していることを楽しめる仲間がいてこそ、得られるものがあると感じています。以前、この記事でも紹介していたレパードのオーナーとも交流がありますし、私が所有していたもう1本のノーマルマフラーを譲ったり、一緒にイベントに参加したりしているんです」。

愛車との出会いは14歳、20代なのに日産 レパードを愛車にした理由とは?
http://gazoo.com/ilovecars/vehiclenavi/161221.html

最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「この年代のクルマが好きで、ホンダ・シビックや、トヨタ・スプリンタートレノなども所有しています。しかし、その中でもこのレパードは特別な存在です。遠出したときに故障して、当時の彼女(現在の奥様)と大げんかしたこともありましたし、エンジンを載せ換えたり、劇用車に仕様変更してみたり、苦楽をともにすればするほど愛着が湧いてくるんです。前オーナーさんにも『買い戻したい』と言われていますが、このレパードだけは一生モノだという思いはこれからも変わらないと思います」。

このレパードが現役当時、ライバル車だったソアラの方が圧倒的に人気があったことは確かだ。街中で見掛ける頻度もソアラの方が多かったように思う。しかし、「あぶない刑事」という、後世に残るであろう名作によって熱狂的なファンを獲得したレパード。

例えば「ナイトライダーのKITT」や「009シリーズのアストンマーティン」、「バック・トゥ・ザ・フューチャーシリーズのデロリアン」のように、後世に語り継がれる劇用車は数多い。日本でいえば「西部警察のスカイライン」などがそれに該当するだろう。

惜しまれつつも、あぶない刑事は完結してしまったが、オーナーのようなこの作品とクルマをこよなく愛する存在が、レパードというクルマを後世まで語り継いでくれるに違いない。そしてまたいつか、あぶない刑事が復活するようなことがあれば、劇用車としてこの型のレパードを起用してくれることを願うばかりだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]