意のままに操るクルマと暮らせる喜び。いすゞ・ベレット 1800GT(PR95型)

「旧車」というと、どのようなイメージがあるだろうか?

壊れる、維持費が掛かる、部品の確保に苦労する…等々。思い浮かべるキーワードはネガティブなものになりがちかもしれない。

しかし、休日の早朝には、旧車特有の排気音を轟かせて走り去る姿を見掛けることも少なくない。真冬の氷点下の朝でも、目覚まし時計に頼ることなく目が覚めて、お気に入りの道を目指して走る。おそらく、多くのオーナーにとってかけがえのない時間なのだろう。その反面、旧車との生活に憧れつつも、さまざまな事情でなかなか購入に踏み切れない人がいるかもしれない。今回は、そんな人にこそ、何らかの刺激になってくれることを願って、取材を試みた。

「このクルマは1973年式いすゞ・ベレット 1800GTです。所有して3年経ちました。現在、私は51歳になるんですが、このクルマの前はいすゞ・117クーペに乗っていたんです。いずれも、私が子どもの頃に眺めていたクルマなんです」。

いすゞ・ベレット GT(以下、ベレット)は、1963年に発売され、1973年まで生産されていた「ベレG」の愛称で人気を博したクルマである。今でこそ、採用しているクルマも珍しくなくなったが、このベレットこそ「GT」の名を冠した初めての日本車であり、そのことが当時のカタログにも明記されている(ちなみに「スカG」ことスカイラインGT(S54型)の登場は1965年だ)。

ベレットのボディサイズは、全長×全幅×全高:4005x1495x1350mm。「G180」と呼ばれる、排気量1817cc、直列4気筒SOHCエンジンの最大出力は115馬力を誇り、最高速度は180km/hをマークした。なお、ベレットにおける最強モデルにあたる「1600GT-R(あるいは1600GT TypeR)」が追加されたのは、1969年のことだ。オーナーが所有する個体は1973年式で、最後のマイナーチェンジが行われた最終モデルにあたり、このGT-Rに匹敵する性能を持ち合わせている。

いずれも、いすゞの乗用車が輝きを放っていた時代のクルマといえる、117クーペからベレットに乗り換えた経緯を伺ってみた。

「それまで所有していたいすゞ・117クーペ(以下、117クーペ)も、ずいぶんお金を掛けてメンテナンスしていたんです。117クーペの整備とモディファイをお願いしていた、いすゞ車の専門店へ遊びに行ったとき、工場にベレットが入ってきたんですね。以前から欲しいクルマではあったし、これも何かの縁かなと考え、思い切って乗り換えることにしました」。

いすゞ車からいすゞ車、それも旧車から旧車に乗り換えた、これまでの愛車遍歴を伺ってみた。

「運転免許を取得して、最初の愛車は日産・シルビア(S110型)でした。その後、シボレー・カマロや、トヨタ・セリカ リフトバック、チェイサー アバンテ(GX61型)に乗っていたこともあります。結婚してからは『街の遊撃手』のキャッチコピーが有名な、いすゞ・ジェミニ、その後は日産・セレナやプレサージュ、トヨタ・シエンタなどを乗り継いできました。シエンタは家族用のクルマとして現在も所有しています。以前、所有していた117クーペと、現在の愛車であるベレットは私の趣味車です」。

いすゞ車の専門店で手に入れたベレットであれば、コンディションも良好なのだろうか?

「このベレットは、ほぼオリジナルの状態を保った個体で、程度も良好でした。私が手に入れてから、サスペンションはコニ製、軽量スタビライザーなどはショップオリジナルのものを組み込んであります。フロントマスク(ラジエーターグリル)は、私の好みで、通称『ブラックマスク』の後期から中期タイプに変更しました。また、旧車は電気系統が弱いので、日立製フルトランジスタと永井電子製ウルトラシリコンプラグコード、Remix製エンジンアースキットを組み込んであります。さらに、点火効率上昇によって燃料の流動性を高めるため、電磁ポンプを取り付けてあります。このホイールは、パナスポーツ製のフォーミュラーワンというモデルを選びました」。

程度良好なベレットを手に入れたことで、自身の心境やカーライフに変化はあったのだろうか?

「何よりも『友人が増えた』ことが大きな収穫ですね。SNSのお陰で、一昔前なら知り合うことができないような、幅広い世代や業種の垣根を越えた方たちと繋がることができました。それに、このクルマに乗っていると、色々な方に話し掛けられます。ガソリンスタンドで給油していると、若い世代の方は外車だと思うようです。いすゞのクルマだと伝えると、乗用車を生産していたことを知らないんでしょうね。そこにまず驚かされました。そして、私と同世代の方は『懐かしい』と感じるようですし、60代より上の方は『若いときに憧れたクルマ』だと仰います。世代によって反応が異なる点も興味深いです」。

最後に、この愛車と今後どのように接していきたいか伺ってみた。

「このベレットが『自分にとってあがりのクルマ』だと思っています。自宅から山道が近いので、仕事で疲れた後に走ると気持ちがすっきりします。ベレットって、まるでゴーカートのようなフィーリングが味わえるんです。意のままに操る楽しさは、決して最新のモデルでは味わえない爽快さですよ!また、多くの旧車乗りにとって悩みの種である部品の確保ですが、インターネットを駆使すれば何とかなりますし、このクルマを購入した専門店でもストックしてくれています。このクルマの雰囲気に合ったモディファイを楽しみつつ、いつまでも大切に乗り続けたいですね」。

いつの間にか「壊れたら修理してみる」ではなく「壊れたらまず交換する」ことが当たり前になったように思う。部品が供給されているうちは問題ないのだが、いずれは現代における旧車のような「多くの部品が欠品している」という問題に直面する時期が必ず訪れる。そうなったとき、どれほどの個体が後世に引き継がれていくのか…。そう考えたことはないだろうか?

しかし、このベレットのように、大切に所有しているオーナー、それを支える専門店や主治医たちの存在だけでは限界がある。メーカーや国をあげて、先人たちが造り上げた名車たちを後世に引き継いでいくこと。それこそが、平成の時代が間もなく終わりを迎えようとしている「今、この瞬間に」取り組まなければならない課題ではないだろうか?どれほど技術が進歩し、そして時代が移り変わったとしても、「モノを大切にする精神」は不変であるように思えてならないのだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]