手を加える余地があるからこそ、より愛着が湧く存在。1974年式ポルシェ・914

フルオリジナルにこだわるか、それとも自分なりにモディファイを楽しむか?

愛車を所有していくうえで、考え方は人それぞれだろう。

フルオリジナル派の中には、すさまじいまでのこだわりを持つ人も少なくない。メーカーが再生産した純正品のリプロダクションですら是とせず、当時のものにこだわるオーナーも存在する。一方で、モディファイを好むオーナーの楽しみ方は実に多彩だ。しばしば、どちらが正しいとか正しくないといった議論になるが、これは意味をなさないと思える。結論としては「どちらもアリ」だし、アプローチの方法が異なるだけで、愛車を大切に所有するという方向性は同じだからだ。

今回は、アメリカからやってきたカスタムされたクラシックポルシェを友人から譲り受け、現在、このクルマとの距離感を模索しているオーナーを紹介したい。

「このクルマは1974年式ポルシェ・914です。友人から譲り受けて2年ほど経ちました。アメリカ仕様の個体なので、走行距離は推定6万マイル(約9万6千キロ)、私が手に入れてからは5千キロくらい乗りましたね。もともとモディファイされていた個体なので、現在は少しずつオリジナルの方向に戻しているところです」。

ポルシェ・914は、1969年のドイツ・フランクフルトショーでデビューを果たした。設計はポルシェ社が行ったが、部品の多くはフォルクスワーゲン製のものが用いられ、組み立ても同社で行われた。そのため、「ワーゲン・ポルシェ」と呼ばれたことを記憶している人もいるかもしれない。

ポルシェ・914のボディサイズは、全長×全幅×全高:3985x1650x1230mm。排気量1679cc、空冷4気筒OHVエンジンの最大出力は80馬力を誇り、フォルクスワーゲン・タイプ4に搭載されていた411E用のものが用いられた。ポルシェ914は、世界初の量産ミッドシップレイアウトを持つスポーツカーであり、エンジンの搭載方法は、駆動方式がリアエンジン・リアドライブのタイプ4とは前後逆となった。1976年にポルシェ・924の発売が開始されたことに伴い、わずか6年間しか生産されていないモデルでありながら、今も世界中に根強いファンが存在する。

このように、ポルシェ・914はフォルクスワーゲン製の部品を流用したことで、ポルシェ・911シリーズよりも安価で販売することが可能となった。日本では1970年から販売が開始され、当時もっとも高価だったポルシェ・911Sのおよそ1/3の価格を実現した(もちろん、高額なことには変わりはないのだが)。

最近はあまり見掛けることも少なくなった感のあるポルシェ・914。オーナーは友人から譲り受けたというが、なぜこのクルマを手に入れようと思ったのだろうか?

「実は、20年近くポルシェ・356を所有していまして、こちらは今、リフレッシュさせるべく作業に入っています。今、私は48歳になるのですが、若いときには正直いって興味がなかったポルシェ・914の良さが少しずつ分かるようになってきたこともあり、友人から譲ってもらったんです。そして、実際に乗ってみて驚きました」。

もはや、44年も前に造られたこのポルシェ・914に対して、どのような印象を抱いたのだろうか?

「もちろん古いクルマではあるんですが、高速での直進安定性や、ワインディングでのハンドリングの良さなど、ミッドシップレイアウトの恩恵なのか、運転して初めてこのクルマの良さが分かったような気がします。当時はワーゲン・ポルシェなどといわれていたし、クルマとしてはどうなのかなと思っていましたが、所有してみて、抱いていたイメージとはまったく違うクルマだと実感しましたね」。

確かに、ポルシェ・914が再評価されるようになったのはごく最近のことかもしれない。多くのクルマ好きにとって、いまだに「ポルシェ=911」というイメージが強烈にすり込まれていることは間違いない。それだけに、かつては「911は手が届かないから、代わりに914を買ってポルシェの世界を味わいたい」といった、入門編的な役割も担っていたように思う。911に対する憧れと嫉妬が入り交じった感情を持ちながら914を所有していたとしたら…。このクルマが本来持ちあわせている魅力に気がつくのは難しいかもしれない。

ところで、オーナーが所有するポルシェ・914はアメリカ仕様であり、過去のオーナーにより手が加えられていた個体のようだ。その詳細を伺ってみることにした。

「この個体はありとあらゆるところがモディファイされていました。まず外装ですが、元の色はグリーンらしいのですが、ボディカラーはブラックメタリックにオールペンされていました。また、ミラーとフォグランプが交換され、ホイールもポリッシュタイプのものが装着されているだけでなく、オリジナルの4穴から5穴になっていました。マフラーも、ANSA製のものに交換されていましたね。内装は、赤いフルバケットシートが2脚装着され、ステアリングやシフトノブも社外品の赤いものになっていたんです。センターコンソールとバックボードも社外品に交換され、ドアパネルはカーボン風のパネルが装着されていました」。

44年も前のクルマともなれば、ある程度は歴代オーナーの「色」が加えられるのは仕方がないだろう。そして、現オーナーはどのような「色」を加えているのだろうか?

「この914は、オリジナルとはかけ離れた姿になっていたんですね。それをかわいそうと思うか、格好いいと感じるかは人それぞれでしょう。私の場合は前者だったんです。そこで、オリジナルに戻す方向のモディファイを進めていて、まだ過程の段階です。年式違いではありますが、シートを当時の純正品に交換しました。あとは、ステアリングをMOMO製のものに換えて、ドアパネルは当時の雰囲気に合うように、カレラRSR風のパネルに交換しました。アルミホイールは、ポリッシュをはく離して、落ち着ついた雰囲気の色味に塗り直しました。6気筒エンジンを搭載した914/6はフックス製の14インチホイールでしたが、この個体は16インチなんです」。

古いクルマのオーナーに必ず伺っていることがある。純正部品の確保についてだ。

「ポルシェの部品は古いモデルであっても問題なく手に入りますよ。ただ、問題は価格です。ドアミラーをオリジナルに戻そうとすると、部品代だけで日本円で6万円オーバーなんです。適度にモディファイされているからこそ気兼ねなく乗れる良さもあることも実感しています」。

このポルシェ・914の気に入っている点・こだわっている点を伺ってみた。

「何といってもこのスタイリングが気に入っています。あとはパッケージの良さですね。前後にトランクスペースがあり、スポーツカーでありながら、高い実用性も兼ね備えています。確かにエンジンはフォルクスワーゲンのものかもしれないけれど、乗ってみるとポルシェの味がしっかりと感じられるのもいいですね。こだわっているといえば、可能な限り自分でメンテナンスするようにしています。エンジンやボディワークは、それぞれ安心して任せられる主治医がいるので安心です」。

そして最後に、この愛車と今後どのように接していきたいか伺ってみた。

「『どこまでオリジナルに戻すか?』のせめぎ合いをしながら乗り続けることになりそうですね。仮に、この914がフルオリジナルの個体だったとしたら…。走るためのクルマというより、コレクションカーになっていたかもしれません。私にはこの適度の『緩さ』が心地良いんでしょうね。それと…、ポルシェといえば911かもしれませんが、6気筒エンジンは維持も大変ですし、乗るのも気を遣います。その点、356といい、4気筒エンジンのポルシェの方が気兼ねなく乗れるような気がします。とはいえ、いつかは911も手に入れてみたいんですけれどね(笑)」。

過去に何度も記してきたが、嫁いだ先のオーナー次第でそのクルマの運命が大きく変わる。草むらや廃車置き場で朽ち果てていくクルマを眺めるたびに、どこかのタイミングで誰かが救いの手を差しのべることはできなかったのだろうか?という想いに駆られてしまう。

このポルシェ・914のオーナーは決して「俺はこのクルマを大切にしている」と声高にアピールするような方ではない。しかし、取材の合間にも、ときどきクルマに投げ掛ける視線が愛情に満ちていることに気がついた。おそらくは無意識なのだろうが、大切にしていることは間違いないなさそうだ。

取材を通じて日々実感していることだが、大切にされているクルマには不思議なオーラがある。クルマ全体がシャキッとしているのだ。そのオーラが、このポルシェ・914からもひしひしと感じられたのだ。ドイツで生まれ、アメリカの地に嫁ぎ、遠く離れた日本にやってきたこのポルシェ・914は、果たして幸せなのだろうか?その問い対する答えは間違いなく「Yes!」だと言い切れる。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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