クルマを買えば生き方が変わる!?若きオーナーのライフスタイルを変えた1974年式 日産・フェアレディZ(GS30型)

「若者のクルマ離れ」と言われて久しい。実際にそうかもしれないが、周囲に熱心な若者が多いせいか、正直なところクルマ好きの若者が減っている「実感」はない。もっとも、皆思い思いにクルマとの付き合いを楽しんでいるし、SNSが発達した現代の「コミュニケーションツール」として、クルマはその役割も果たしていると感じている。

さて、今回登場するのは30歳の若き男性オーナー。1974年式の日産・フェアレディZ(GS30型、以下Z)。オーナーより1回り以上も年上の「初代Z」を所有している。

Zに出会うまでは、クルマに興味のないゲームやアニメ好きの若者だったが、ある日クルマの魅力に目覚めて、生粋の旧車乗りになった人物。以前の記事「これも、人徳があればこそ。『車輌本体価格0円』の愛車、マツダ・RX-7(FD3S型)との暮らしを楽しむオーナー」に登場しているRX-7のオーナーの友人でもある。

■これも、人徳があればこそ。「車輌本体価格0円」の愛車、マツダ・RX-7(FD3S型)との暮らしを楽しむオーナー
https://gazoo.com/ilovecars/vehiclenavi/180508.html

「Zの保管は青空駐車です。一時期ボディカバーをしていましたが、下回りの湿気が逃げないので、今は野ざらしなんです(笑)。ダッシュボードは奇跡的に割れていないので、そこだけはタオルを敷いて、紫外線を当てないように気をつけています」

と話すオーナーがこのZを購入したのは、今から4年前の2014年。4名乗車タイプの「2by2」というモデルで、4代目にあたるZ32型まで設定されていた。2by2は、後部座席を確保するためホイールベースが300mm延長されている。ボディサイズは全長×全幅×全高:4425×1690×1290mm。オーナーの個体は2リッター直6エンジン「L20型」を搭載したモデルに加え、この時代には珍しかったドアミラーを装着している。

「私にとって、Zは初めての愛車です。ホイールベースが長いことで胴長短足に見えてダサいと言われたり、フェンダーミラーじゃないからカッコ悪い、底が黒いから腰高に見えると言われたりしますが、裏を返せばこんなに『ダサいZ』は他にいないと思いますし、カッコつけていない自然体の佇まいが好きなんです」

そう話すオーナーからは、このZと向き合う誠実な姿勢が滲み出ていた。なぜ彼は、44年も前の旧車を選んだのか。まずはZとの「なれそめ」から伺った。

「最初は2000GT、コスモスポーツ、フェアレディZが白くて同じクルマに見えるほど疎かったんです。その頃(RX-7の)友人がトヨペット・コロナに乗っていて、「ノスタルジック2デイズ」という旧車のイベントで、特別展示車両として「選ばれし10台」の1台にノミネートされたと聞いたので見学に行ったんですね。そこで思いがけずクルマに魅了されてしまいました。クルマってカッコいいものだ、自分でも買える1台がないかと」。

当時、オーナーが考えていた「カッコいいクルマ」とは?

「なんとなくセダンがカッコいいと思っていました。特に、日野のコンテッサ。リアエンジンで、フロントがトランクルームになっているところが好きで欲しいと思いました」

それがなぜZに?

「ひと目惚れですね(笑)。イベント会場を歩きまわっていたとき、さまざまな旧車ショップの展示ブースで目にとまったクルマがZでした。そこには2シーターと2by2が並んでいたのですが、私の場合『こんなにカッコいいスポーツカーに4人も乗れる』という魅力を感じたので、あえて2by2を選びました」

オーナーはこのZを即決。手付金が必要と言われてすぐにATMへ向かい、なんと貯金を全額引き出し、その場で現金一括払いをしたという。思いきった行動の真意とは?

「大学の奨学金を完済してからは貯金も増えてきましたが、使う機会がなく仕事にも気合いが入らなかったので、いっそのこと全部貯金を使って自分を追い込んでみようと考えていたんです。それに、使うならいちばん欲しいものにつぎ込もうと決めていました。Zを購入したことで『いいものにお金を使う大切さ』に気づけたと思います。普段は贅沢をしませんが『高級な店を一度は経験しておこう』という気持ちに変わりました。そのうえ、交通費がかかることで遠出もしなかったのですが、今はあたりまえのようにZで出かけるようになりました」

何か新しいことをはじめるとき、必ず恐怖はつきものだ。旧車は故障のリスクもあるため、情報収集に余念がなく購入は慎重になるだろう。けれどオーナーは「何も知らないことが持つ強さ」によって視野を広げた。あるいは若さゆえにできる自己投資かもしれない。では、Zを実際に所有してみて生活や心境に変化はあったのだろうか?

「免許のAT限定を解除しました。私はペーパードライバーだったので職場の社有車もあまり運転させてもらえなかったのですが、Zを買ったことと、MTをバリバリ乗っているところをアピールしてみると、社有車も運転させてもらえるようになりました(笑)」

さらに、交友関係も広がったという。

「せっかくZを買ったので、コミケ(同人誌即売会)でクルマの写真集を発表してみようと50部ほど作って(RX-7の)友人と参加してみました。そこで増えた仲間とサークルも作ろうということになって立ち上げたところ、マニアックな趣味を持つクルマ仲間が自然と集まり、今では国内で30人近くのメンバーと、SNSの効果で海外にも輪が広がりました」。

所有してから、大きなトラブルは経験しているのだろうか。

「オルタネーターが故障しました。ボルテージレギュレーターという、電圧を一定にする部分も壊れてバッテリーが過充電になり、補充液がほとんど蒸発したこともありました。おまけにボディの錆穴も見つかったので、板金にも出しました」

部品の調達状況は?

「よくヤフオクはチェックしていて、S30型と共通のパーツを探しています。ただ、時期によってムラがありますね。狙い目は引っ越しシーズンで、片付けをしていて出てきたような掘り出し物を見つけるチャンスがあります。Zはリビルド品を作っているメーカーもあるので、基本的に部品に困ることはありません。強いて言うなら、ゴムパーツは欠品が多いです」

この個体は、モディファイされていた部分はあるのだろうか。

「目につくところでは、ホイールがワタナベになっていたのと、ステアリングがナルディになっていたこと。ドアミラーは、フェンダーミラー全盛時代の中で、前オーナーがあえて社外品のもの(ナポレオン製)に換えたようです。フェンダーミラーの跡がないので、埋めたかその部分だけ交換したかもしれないです。それから、アンテナのスイッチが車内に作られていて、自動伸縮せずオンオフで操作できるようになっていました」

オーナー自身が手を入れた部分はあるのだろうか。

「フロントグリルの『2by2』エンブレムは、納車してすぐに参加したイベントで知り合った同世代のZオーナーさんに譲ってもらいました。このイベントでは特別賞として表彰されたり、良い思い出になりましたね。あとは、チャリティーオークションで落札したリアスポイラーくらいですね。スカイラインのイベントだったんですけど、なぜかS30用が出品されていました。未塗装だったので、友人に塗装を教えてもらいながら自分で施工しました。ボディに穴を開けるのは嫌だったので、強力な両面テープで取り付けています。実は周囲からモディファイをすすめられますが、旧車はみんな弄って後悔しやすいと聞いていることもあり、あえて弄らず綺麗に乗るのがこだわりです。ともあれ私のようにノーマルな1台がいることで、弄っている個体と比較でき、モディファイの良さもわかります」

最後に、このZと今後どのように接していきたいか、想いを伺った。

「旧車は50年経つと『クラシックカー』と呼べると聞いたので、2024年をZと迎えたいです。例えどんなに壊れても、必ずクラシックカーにします。50年を迎えたとき、このZに乗り続けるか降りるかを決めようと考えていますが、その時に私よりもっと価値のわかるオーナーがいるなら、万全なコンディションでその方にこのZを譲りたいと思っています」

旧車には「所有する」ではなく「預かって継承する」という考え方がある。オーナーの旧車歴は短いものの、そうした考えをすでに持っているということは、彼がクルマに魅了されてからいかにディープに関わってきたかを伺わせる。彼が名車・フェアレディZを50年後の未来へ継承してほしいという希望を抱くとともに、どの時代にもクルマを愛する若者が居続けるようにと、願わずにはいられない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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