苔むした車体だった1989年式トヨタ・ソアラ 2.0GTツインターボL(E-GZ20型)を復活させたオーナーの濃厚カーライフ

まもなく平成が終わる。長いようで短く感じた、30年。バブル絶頂期に青春を送ったクルマ好きも多いはずだ。そんな世代が歓喜するような真っ白な1台が今、目の前に佇んでいる。

1989年式のトヨタ・ソアラ 2.0GTツインターボL(E-GZ20型/以下、ソアラ)だ。通称「20ソアラ」と呼ばれ、ハイソカーブームを牽引したモデルだ。ちなみに「ソアラ」とは、英語で「最上級グライダー」の意味を持つ。純白に近いボディカラー「スーパーホワイト」は、当時の多くの若者たちにとって憧れの的だった。ボディサイズは、全長×全幅×全高:4675×1695×1345mm。駆動方式はFR。排気量1998ccの直列6気筒DOHC24バルブICツインターボエンジン「1G-GTEU」は、最高出力210馬力を誇った。オーナーが所有する「2.0GTツインターボL」は、後期モデルに設定されたグレードになる。

「平成元年式」であるこの個体が、これほど美しいコンディション、しかも現役であることに感動をおぼえる。オーナーは65歳の男性だ。しかもこの個体は、あえてエアロをまとわず、ウィンドウフィルムが貼られた形跡もない。オーディオも純正品のままだ。当時と変わらず、端正なオリジナルスタイルを維持している点にも注目したい。まずは、オーナーの人物像から迫ってみよう。このソアラとは、普段どのように接しているのだろうか?

「このソアラは、所有して4年目になりますね。オドメーターは12万3千キロ弱ですが、手に入れてからの実走行距離は約6000キロです。基本的に、バッテリーの維持とイベント参加のときしか乗っていないです」

よく参加しているイベントは?

「ソアラのオフ会によく顔を出しています。オーナーはみんな30~40代と若くて、自分でモディファイをしていますね。3.0GTリミテッド(最上級グレード)も結構来ますし、超レアな5MTでブラックのボディカラーをまとった個体もいます。1JZ・2JZ系のエンジンを積んだ個体も多いですよ。オフ会へ行くと、フルエアロの個体が多いため、私のようにエアロなしのノーマル車両は珍しい存在です」

愛車は基本的に、オーナー自身がメンテナンスを行っているという。職業は整備士なのだろうか?

「いえ、自動車関連業ではありません(笑)。もともとクルマ弄りが好きなんです。メカチューンが好きで、小さな排気量で大きなパワーを出しているエンジンが好きです。20代の頃は、整備専門誌を見ながらよくエンジンを組んだものです。何度も点火時期を確認して、どうにか組んだエンジンが実際に動いた瞬間の感動は、組んだ本人にしかわからないと思います。あの頃はとても忙しかったですが、時間をやりくりして毎晩クルマ弄りに没頭していました。それを見ていた私の妻は、ほぼ諦めていましたね(笑)」

そんなオーナーに、これまでの愛車遍歴を伺ってみた。

「今まで中古車にしか乗ってきていません。時代ごとの新車に興味はあるものの、手に入れたいという欲求は湧きませんでした。これまで、カローラ スプリンター1100DX、セリカGT(TA22型)、マークⅡ、コルトギャラン16LG・Sセダン、レビン(TE37型)、トライアンフ・TR-7、ソアラ(GZ10型)、パジェロなどに乗ってきました」

多くの愛車のなかで、人生観を変えた1台はあるのだろうか?

「セリカですね。従兄弟がディーラーに勤務していたので、たまたま程度のよい個体を紹介してくれたんです。赤のGTを見た瞬間に即決しました。2T-Gエンジンの美しさや、真横から見たスタイルは、宇宙船のようでかっこよかったですね。そのセリカでダートトライアルも始めました。気に入っていましたが、ある日、もらい事故で廃車になってしまいました」

濃厚なカーライフを送ってきたオーナー。このソアラと出会ったきっかけは?

「今から4年前、趣味であるわかさぎ釣りに出かけた帰り道に出会いました。ドリフト車両専門店の前を通りかかったところ、このソアラを見つけたんです。懐かしさに思わず、以前乗っていた10ソアラを思い出しました。このソアラはとても気に入っていましたね。しかし、目の前に置いてある個体は、コケが生えてボロボロ。北向きに置いてあったので、辛うじてヘッドライトは劣化せずに済んでいましたが、それはひどい状態でした。売れないから片隅に置かれていたのでしょう。さっそく店に入ってスタッフに訊ねてみたんですけど、冷やかしと思われてしまったようです」

後日、オーナーはショップを再訪し、店主に直接交渉を行うのだった。

「あのまま売ってほしいと頼んだのですが、最初はのらりくらりと話をそらされるばかりでした。しかし、話をしているうちに『この人本当に買うかもしれない』と思ったんでしょうね。エンジンをかけると言い出しました。しかし、結局かからず『その辺で時間を潰してきてもらえないか』と待たされることになったんです」

1時間ほどして、店から「エンジンがかかった」と連絡があった。

「燃料ポンプが動かなくて、1JZ系エンジンの燃料ポンプを移設したら動いたそうです。そこから本格的な商談に入り、純正ホイールと新品のタイヤも付けてもらいました。アクセルを踏み込むと、溜まっていたカーボンが一気に噴出したのを覚えています。オートバイとクルマのストック部品のほとんどをオークションで売却して、資金を作りました」

ようやく手に入れたこのソアラの、気に入っている点は?

「スタイルです。当時の開発コンセプトがひしひしと伝わってきますよね。個人的には、当時のトヨタ車のなかでもセンチュリーとクラウンの間に位置するクルマだと思うんです。オーバーデコレーションは感じるけど、スピードメーターにスペースビジョンを採用していたりと、デザインに奥行きを感じます。ボディカラーも気に入っていますね。数種類あるスーパーホワイトのなかでも、このホワイトが一番お気に入りです。こうして眺めると、なんとも品のあるクルマですよね」

このクルマに乗るうえでこだわっていることは?

「ノーマルのスタイルを維持することです。さまざまな旧車イベントに参加していると『フルオリジナル』であることが、とても魅力的に感じるようになりました。そこで、足回りとマフラーを、ノーマルへと戻したんです。やりたいと思ってから2年も経ってしまいましたが、やっと戻せたので満足です。それから、シートのハーフカバーも、当時の純正品なんですよ。ずいぶん汚れていたので、何度も洗って漂白しました」

ここで、部品の供給状況を尋ねてみた。

「部品は、まったく出ないです。シフトレバーの下に付いているプラスチックの部品は、100円ショップで似たような素材でできた書類入れを購入して、必要な形に切り出しました。ソアラのオフ会へ行くと、ほとんどのオーナーが部品を自作しているか、仲間のネットワークで手に入れていますね。情報網はとても大事だと思っています。昭和60年ごろから、クルマ全体の『使い捨て』が始まった気がします。一度取り付けてから外そうとすると壊れるようになりました。ディーラーで修理をしようとすると、驚くほど高額な工賃を請求されるので、リビルド品を手に入れたりと、自然とほとんど自分でやるようになりました」

最後に、今後愛車とどう接していきたいかを伺った。

「何かの縁で出会ったわけなので、当時の開発者の思いを胸に、大切にしていきたいですね。『世界にひとつ、日本にソアラ』です。欲しいクルマはもちろんありますよ。ランチア・ストラトス、初代NSX、フェラーリ・246とか。でも、ソアラを手放してまで買おうというわけではありません。もし、増車できるなら欲しい、というくらいです」

もし、オーナーのもとに嫁がなければ、ドリフトのベース車として酷使されていたかもしれない。どちらがソアラにとって幸せかを明言することはできないが、この時代を元気に駆けまわることができていることは、クルマとオーナーにとっては幸せなはずだ。

クルマをはじめ、この世に溢れるモノのほとんどが、いつのまにか使い捨てだ。「手入れをしながら長く使えることこそ贅沢」が、この「使い捨て文化」に取って代わる価値観にならないのだろうか。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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