昭和にデビューし、平成から令和へと語り継ぎたい名車。1990年式トヨタ・ソアラ 3.0GTリミテッド エアサスペンション仕様車(MZ21型)

愛車広場の取材を続けていると「これほどのコンディションを維持する個体が残っていたんだ…」と、驚かされる機会がしばしばある。今回、取材させていただいたクルマがまさにそうだ。1990年(平成2年)に製造された個体だとは、にわかに信じがたいほどである。

しかし、クルマという工業製品が何万点にもおよぶ部品の集合体である以上、生産されてから時間が経てば経つほど劣化するし、走行距離を重ねれば重ねるほど各部に負荷が掛かってくることは避けられない。
 

では、納車したその日からガレージに保管し、長年「塩漬け」にした場合はどうか?確かに見た目は新車同様かもしれない。しかし、タイヤを含めたゴム類、フューエルラインをはじめとするホース類や、エンジンオイル等の油脂類は、走らなくても経年劣化していくことに変わりはない。やはり、「クルマは走らせてナンボ」なのだろう。このソアラの驚いた点は、相応の走行距離を重ねてきていても、素晴らしいコンディションを維持していることだ。

今回のオーナーは、若いときにソアラに憧れ、ふとした縁からコンクールコンディションといってよいほどの個体を手に入れて以来、大切に所有しているという。そのストーリーを紹介したい。

「このクルマは1990年式トヨタ・ソアラ 3.0GTリミテッド エアサスペンション仕様車(以下、ソアラ)です。この個体を手に入れてから12年、現在のオドメーターの走行距離は9万4850キロを刻んでいます。私が手に入れてからは3万キロくらい乗りました」

ソアラとしては2代目にあたる「MZ20系」がデビューしたのは1986年1月のことだ。現役時代を知っている世代であれば記憶しているかもしれないが、「ソアラ」という存在自体が、トヨタ車のラインアップではもちろんのこと、数ある日本車のなかでも別格の存在だったように思う。初代から世界初の技術がふんだんに投入され、2代目においてもその流れは継承された。具体的には、電子制御エアサスペンションやイージーアクセスドア、スペースビジョンメーター、マルチコントロールパネルなどが挙げられる。

もちろんそれだけではない。端正なデザイン、他を圧倒する高級感。この贅沢な高級パーソナルクーペは、憧れのデートカーとして、ハイソカーブームの頂点に君臨していたといってよい。

さらに、連合国最高司令官であるマッカーサーに「従順ならざる唯一の日本人」といわしめた白洲次郎(オイリーボーイ、つまりはクルマ好きとしても有名だ)が、晩年、開発に携わった岡田稔弘氏にソアラに対するリクエストをしたためた手紙を送った。しかし、白洲次郎は2代目ソアラが発売される数ヶ月前に他界してしまう。そこで、妻である白州正子が、運転免許を持っていないにも関わらず2代目ソアラを購入した…。そんなエピソードを聞いたことがある人もいるかもしれない。

オーナーが所有するソアラは、1988年にマイナーチェンジを行った後期モデルだ。そのなかでも「3.0GTリミテッド エアサスペンション仕様車」は最上級グレードにあたり、名実ともに高級車だった。さらに、フォグランプ付きエアロバンパー&リアスポイラー、電動式ムーンルーフをはじめとするメーカーオプションが装着されている。敢えてサイドマッドガードが装着されていないのは、ファーストオーナーのこだわりだろうか。そんなソアラのボディサイズは、全長×全幅×全高:4675×1725×1335mm(エアサスペンション車)。オーナーの個体には「7M-GTEU型」と呼ばれる排気量2954cc、直列6気筒DOHCターボエンジンが搭載され、最高出力は240馬力を誇る。車名のソアラは、英語で「最上級グライダー」という意味を持つ。

生産されてから間もなく30年、オーナーのところに嫁いで来てから12年というこのソアラ。どのような経緯で手に入れたのだろうか?

「私にとって、若い頃からソアラというクルマは憧れの存在でした。新車はもちろんのこと、中古車でも手が届かないクルマでした。このソアラを手に入れる前は、日産・フェアレディZ(S30Z型)を所有していたんです。L型エンジンの排気量を3.1Lにまで拡大し、かなりの費用と手間を掛けてチューニングしたクルマだったんですが…。強化クラッチが組み込まれ、さらにはクーラーが装着されていなかったので、真夏の首都高や高速道路で渋滞に巻き込まれたときは本当に大変でした。現在、私は58歳ですが、当時は40代に差し掛かった頃。『そろそろ快適なクルマに乗りたい…』。そう考えたときに候補に挙がったのがソアラというわけです。当時憧れていた初代ではなく、2代目を選んだのは、こちらの方がハイパワーだからです」

20代のときであれば、自分のクルマにエアコンが装着されていなくても、フルバケットシートに何時間座っていても苦にならないかもしれない。しかし、年齢を重ねていくにつれて、耐えがたいような苦痛を伴うことがある。オーナーのように、年齢を重ねるとともに快適なクルマを求めるのは自然な流れなのかもしれない。

「知り合いのクルマ屋さんに頼んでソアラを探してもらいました。狙うは『3.0GTリミテッド、ボディカラーはクリスタルホワイトトーニングIIという、3.0GTリミテッド専用のボディカラー』です。探しはじめて半年くらい経ったとき、見初めたのがこの個体というわけです。実は、モニターで確認しただけで購入を決めてしまい、納車されたときが初対面でした。妻に相談ですか?ウチはクルマ趣味には理解があるので、事前に相談しないで購入してしまいました(笑)。いざ対面してみたら…驚くほど綺麗な個体で驚きました。「トヨタ・エレクトロン・マルチビジョン」もいまだに使えますし、ウィンドウフィルムが貼られた形跡はおろか、ガレージ保管されていたことはあきらかでした。さらに、リフトアップしてみたところ、下回りも前オーナーがワックス掛けしていたほど溺愛されていたことが分かったんです」

いわゆる「(現車を)見ないで買い」はハイリスクだ。画面越しでは分からないことが多々あるし、実車を見てみたら傷だらけ…ということも充分にありうる。しかし、オーナーの場合は「想像以上に程度良好」だった。これはもう、オーナーが引き寄せた幸運としかいいようがない。そして、実際に手に入れたからこそ分かったことがあるという。

「驚いたのは、車内の機密性の高さですね。現代のクルマと比較しても遜色ないほどの静粛性だと思いますね。いまとなっては『こじんまりとしている』とすら感じるボディサイズも気に入っています」

オリジナル度の高さ、驚くほど素晴らしいコンディションを誇るこのソアラに、オーナーも敬意を表しているように感じる。

「基本的に購入した状態を維持しています。紫外線の影響が少ないのか、内装もあまり日焼けしていないんです。運転席のシートを保護する目的で、インターネットオークションで程度良好のシートを入手したのですが、日焼けしていて色が合わないんです。それくらい状態がいいんですね。手を加えたところといえば…CDチェンジャーや友人から譲ってもらったサンルーフバイザーを取り付けたくらいです。このサンルーフバイザー、“TOYOTA”のロゴのペイントがくっきりと残っているんです。ソアラオーナーの集まりに参加した際、メンバーの方が驚いていました。たいていは経年劣化や洗車などではがれてしまう箇所みたいですし」

最後に、今後このクルマとどう接していきたいのか?意気込みを伺ってみた。

「純正部品の廃番が多いことが気掛かりですが、そこさえクリアできれば、可能な限りこの状態を維持して乗り続けたいです。今後は、ソアラでクルマ関連のイベントに参加してみたり、旅行にも行ってみたいですね」

最近は、テールランプの球切れが原因で車検が通らないなど、「その部品さえ確保できれば、まだまだ乗れる状態」のクルマが廃車になっているという話も耳にする。そこで、オーナー同士の横の繋がりや専門店などが知恵を絞り、どうにか維持している状況も垣間見える。しかし、それではいつか限界が訪れることは明白だ。

新しいクルマの方が燃費も良く、性能面でも優れていることは間違いないだろう。しかし、単に「古いクルマだから」という理由で、オーナーが惜しみなく愛情を注いできたクルマが姿を消していくのはいかがなものだろうか。

時代の象徴として一時代を築き、多くの人にとって憧れだったソアラ、時代は変わっても、その魅力は色褪せるどころか、ハッと驚くほどの美しさを持ち合わせているではないか。このソアラも確実にクラシックな領域へと足を踏み入れつつある。年々、現存する個体数も減少傾向にある。昭和から平成、そして新元号・令和となり、名車として後世に受け継いでいきたいクルマであることは間違いない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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