強い想いが引き寄せた左ハンドル車。1972年式スバル・R-2 ハイ・デラックス 沖縄輸出仕様(K12型)

欲しいクルマを手に入れられる人、手に入れることができない人には決定的な差があるように思う。

経済力?確かに無関係とはいえない。でも、決してそれだけではない。これは断言できる。

「本当にそのクルマが欲しいという気持ちが他の誰よりも強いかどうか?」これに尽きる。

一笑されるかもしれないが、これは間違いない。

本気で欲しいと思っている人は、手に入れるための努力や手間を惜しまない。日々の仕事はもちろん、常に情報収集を欠かさないし、急に「出物」が現れたとしても瞬時に決断できるだけの資金を用意している。そして、そんな人が世の中にはゴマンといる。「出物」が現れて迷っているうちに「横から瞬時にかっさわれる」ことも珍しくない。手に入れられるかどうかは運と決断力次第だ。

今回、ご紹介するのは、以前取材させていただいた1970年式スバル・R-2 SSのオーナーの「もう1台」の愛車である。もしかしたら、前述のSS以上にレアな存在かもしれない。前回の取材時、傍らに停まっていた左ハンドル仕様のスバル・R-2の存在に驚き、オーナーに伝えたところ、後日改めて詳細を伺うことに快諾していただいた。

「このクルマは、1972年式スバル・R-2 ハイ・デラックス 沖縄輸出仕様(以下、R-2 ハイ・デラックス)です。この個体を手に入れたのは約2年前、現在のオドメーターの走行距離は約3.1万マイル(約5万キロ)です。手に入れてからはまだほとんど乗っていません。現時点ではコレクションに近いかもしれないですね」

スバル・R-2は、1969年にデビューを果たした。当時の自動車関連誌にも「1リッタークラスの普通車に驚異をあたえるミニセダン」と評価され、発売1ヶ月で2万6千台も売れるほどの人気モデルとなった。オーナーが所有する「ハイ・デラックス」は、1971年に追加されたグレードである。R-2 ハイ・デラックスのボディサイズは全長×全幅×全高:2995×1295×1345mm。排気量360cc、日立製シングルキャブレターを装着した「EK33型」と呼ばれる空冷直列2気筒エンジンの最高出力は30馬力を誇る。オーナーが所有する個体は、その輸出(沖縄)仕様というわけだ。

オーナーのR-2 ハイ・デラックスの目を惹くところといえば、やはり「左ハンドルであること」だろう。こんなモデルが存在していたんだ…と驚かれることも多いようだ。珍しいクルマであることは間違いなさそうだが、どのような経緯でこのレアモデルを手に入れたのだろうか?

「購入のきっかけはネットオークションで見つけたから、です(笑)。私はいま、48歳なんですが、10代の頃から欲しいと思っていたR-2 SSを手に入れることができ、幼いときに地元で偶然見掛けた左ハンドル仕様のR-2も手に入れてみたいと思うようになったんです。当時は、現代とは異なり『逆輸入車』が少ない時代でしたから、日本車、それもR-2の左ハンドル仕様があると知ったときは衝撃を受けましたね。そして、調べて行くうちに、日本に返還される前の沖縄に向けて『輸出されたモデル』であることが分かってきたんです」

沖縄が日本に返還されたのは1972年5月15日。R-2が生産されていた期間は、1969年から1972年だ。それだけに、オーナーの推測もつじつまが合う。わずか3年のあいだに当時の沖縄へと「輸出」されたモデルの台数は不明だが、決してそれほど多くはないだろう。まして、年月を考えれば…。現存する個体は極めて少数だと容易に推測がつく。でも、オーナーは出会ってしまったのだ。しかも、ネットオークションで。

「ネットオークションで『R-2 ハイ・デラックス』を見つけたのはいいんですが、これは間違いなく競り合うことになるな…と思いましたね。案の定、終了時間が近づく頃には私ともう1人の方のマッチプレーになりました。こうなると、どちらか一方が諦めるまで入札が繰り返されます。『ぜったいに負けない』つもりでした。実は、このとき飲み屋さんにいまして…。普段よりも気分が高揚していたんだと思います(笑)。落札できたことは覚えているのですが、翌朝、その金額を確認してびっくりしました(苦笑)」

とにもかくにも、左ハンドル仕様のR-2を手に入れることができたオーナー。実際に手に入れてみて気づいたことは?

「正真正銘の左ハンドル仕様だったということですね。実は、右ハンドル仕様のR-2をベースに『左ハンドル仕様』に改造されたクルマも少なからず存在するんです。いわゆるレプリカですね。現在の個体を手に入れた後も継続して売り物をチェックしていたところ、3台ほど左ハンドル仕様のR-2を見つけたんですが、2台はレプリカ、1台のみ本物の左ハンドル仕様でした。元々が右ハンドルかどうかの判断基準はワイパーアームの向きです。こればかりはごまかしがきかないみたいですね。あとは、ご近所の方との話題のネタが増えました(笑)。皆さん、何気にチェックしているんですね…。左ハンドルだというだけで輸入車と間違われたりしますから。噂を聞きつけて、どこからともなく知らない人が『売ってください!』と訪ねてきたこともありましたね。このときは、売り物ではないので丁重にお断りしましたが…」

マニアの情報収集力はすさまじい。今回のクルマのように、レアな仕様であればなおさらだ。それはまさに「好きだからこそ成せる業」といえる。

手に入れてから、オーナーがモディファイした箇所は?

「フロントグリルやエンブレムがオリジナルではなかったので、元に戻しました。あとは、板金屋さんに依頼して、板金塗装やさび止めを行っています」

R-2 ハイ・デラックスの気に入っているポイントや、こだわっているポイントについては?

「やはり左ハンドル仕様ということに尽きますね。メーターがマイル表示なのもお気に入りです。当時モノ、つまりオリジナルに戻して維持することにこだわっていきたいですね。オリジナルに戻すことで、自分も頑張ればマイカーが所有できるかもしれないという、当時の人々の熱気が甦ってくるような気がするんです。当時は、クルマを買おうという熱量が現代と比較にならないほど高かったはず。仕事でタイに行くことがあるんですが、現地の若者がまさに高度成長期の日本のようで、頑張って働いて自分のクルマを手に入れよう!という機運が伝わってくるんです。最近の日本は、数年したら買い替える前提で商談が進んでいるケースもありますよね。少なくとも、一生モノとして新車を手に入れる…そんなことは過去のものになりつつあるのかもしれません」

最後に、今後このクルマとどう接していきたいのか?意気込みを伺ってみた。

「当面は私が所有しますが、いずれ、どうしても欲しいという人が現れたらプレゼントしてもいいと思っています。私がR-2 SSを手に入れたときと同様に面接をしますが(笑)。私には娘がいるのですが、まったくこのクルマには興味がないようです。小さい頃、クルマ好きの娘に育てようと英才教育を施したりもしたんですが、結果として女の子らしい趣味趣向になりました。生まれながらのDNAは変えられないんだなと思いましたね」

愛する我が子に愛車を受け継いで欲しいと願う親は多い。それはごく自然な心理だろう。愛車紹介でも、そんなオーナーさんたちを取材させていただいてきた。決して「親の心子知らず」…というわけではないだろうが、父親が我が子と同じくらい溺愛していた愛車が他の人に譲られたとき、ハッと気がついても遅いのだ。余計なこととは知りながらも、親子で2台の貴重なR-2を乗り継いで欲しい…。そう願わずにはいられない取材となった。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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