愚直なまでに誠実にクルマと向き合う24歳のオーナーが所有する2003年式メルセデス・ベンツE55 AMG(W211型)

メルセデス・ベンツ、それもAMGといえば、一昔前であれば「ごつい黒塗りのベンツの代表格」としてイメージしていた人も多いだろう。

事実、1990年前後、いわゆるバブル絶頂期にはそういったクルマが繁華街に溢れていたように思う。その頃のAMGの呼び方は、「エーエムジー」よりも「アーマーゲー」の方が浸透していたことを思い出す人がいるかもしれない。そして、メルセデス・ベンツにAMGのエンブレムやホイールを装着した「AMG仕様」が流行ったのもこの頃だ。

今回のオーナーは24歳と若い。つまり、「アーマーゲーと呼ばれていた頃のAMGを知らない世代」だ。そんな彼が、なぜAMGに魅せられ、そしてクルマ好きになったのか?その想いを紐解いてみたいと思う。

「このクルマは、2003年式メルセデス・ベンツ E55 AMG(W211型/以下、E55 AMG)です。現在の走行距離は約6万キロ。手に入れてから約1年、1.6万キロほど走りました。いつかAMGを所有してみたいと思っていたので、ようやく手に入れることができました。」

W211型のメルセデス・ベンツEクラスが日本でデビューを果たしたのは2002年6月のことだ。それから半年後の2002年12月に、高性能モデルとしてE55 AMGが追加された。いわゆる「ノーマルのEクラス」をベースに、V8スーパーチャージャー付きエンジンが与えられ、ブレーキおよびリアアクスルの強化や、セミアクティブサスペンション「AIRマチックDCサスペンション」にも専用のチューニングが施された。また、AMG専用のエアロパーツやホイールが装着され、ノーマルのEクラスよりも精悍かつスポーティーな外観が与えられた。しかし、かつてのAMGのような雄々しさや猛々しさはなく、非常にスマートな印象だ。

E55 AMGのボディサイズは、全長×全幅×全高:4850x1820x1430mm。搭載されるのは「113M55型」と呼ばれる排気量5438cc、V型8気筒SOHCスーパーチャージャー付き高出力エンジン。駆動方式はFR。電子制御でパワーやトラクションをコントロールするとはいえ、実は500馬力近いエンジンを搭載したモンスターマシンなのだ。

さて、24歳でメルセデス・ベンツ、しかもAMGを所有するくらいだから、幼少期の頃からどっぷりクルマ漬けの生活を送ってきたのかと思いきや、意外な答えが返ってきた。

「確かに、幼少期の頃から家にはメルセデス・ベンツE240(W210型)がありましたが、特に興味を持って接していたわけではありませんでした。運転免許も必要に迫られて取得しましたし。アウトドアが好きなので、キャピングカー仕様にカスタムしたハイエースが欲しいと思っていたくらいですから(笑)。転機になったのは、群馬県にある赤城山に出かけたときですね。偶然、バイクのレースに遭遇したんです。クルマじゃなくてバイクなんですが、その走りを観て触発されてしまったんです。ひょっとしたら、クルマで走ることも楽しいんじゃないか?そんな風に思えたんですね。事実、その思いは間違っていませんでした。」

20代のクルマ好きの王道といえば、父親や親族など、身近な年上の人物の影響を受けて自分も…といったパターンが多い。その点、オーナーはやや「遅咲き」だが、ここからの勢いがすさまじく、しかも、理路整然としているところが興味深い。「クルマの運転」という感覚値で語られがちなところを、オーナーなりに体感と座学の両方から知見を得て、筋道を立てたうえで研ぎ澄ませようとしているのだ。

「家にあったE240を乗ったあと、1993年式日産・サニーを手に入れ乗り回しました。その後、メルセデス・ベンツE430(W210型)を手に入れ、ADVAN NEOVAのタイヤを履いたり、ブレーキや足まわり・ボディ補強などのモディファイを行いましたが、雪道でのトラブルで、廃車に…。それからメルセデス・ベンツE500(W211型)に乗り換えたんですが、わずか3週間でもらい事故に遭ってしまいました。それならばと現在のE55 AMGに乗り換えることを決意したんです。お世話になっている方が程度の良い個体を探してくれて、5台目に巡り会ったのが現在の個体です。」

もしかしたら、オーナーの家にBMWがあったら…。彼もBMWを乗り継ぐことになっていたのかもしれないし、これがカスタマイズしたハイエースだったら…などと考えてしまう。やはり、原体験の影響は大きいのかもしれない。

興味深いのは、オーナーである彼がこのE55 AMGをステータスシンボルなどではなく、ドライビングテクニック向上の対象として捉えていることだ。

「クルマに興味を持ち、1年ほどで急激にのめり込むようになり、気づけばカートで走る楽しさを知るまでになっていたんです。さすがにひんぱんにクルマを買い替えることはできないので、勉強を兼ねてカーシェアリングを活用して、国内外のさまざまなクルマをオーナーさんからお借りしています。かれこれ80車種くらい乗りましたね…。そのうち、クルマの持つイメージや構造・体感できるフィーリングがつかめるようになってきたんです。その体験と、自分自身のE55 AMGを比較すると、このクルマは“乗り手を選ぶ”印象があります。」

やはり、この種のクルマはオーナーでなければ「覗けない世界」があるのだろうか。

「アンダーステアが強く、丁寧に荷重移動しないと曲がっていかないんです。癖が強い印象を持ちましたね。同じW211型のE63 AMGを運転させていただいたことがあるのですが、こちらの方がよりパワフルでも素直な印象を持ちました。E55 AMGのフィーリングさえつかめれば、フェラーリやランボルギーニなどのスーパースポーツカーにも引けを取らないポテンシャルを引き出せると思います。」

AMGといえば、古くは1971年に開催されたスパ・フランコルシャン24時間耐久レースでクラス優勝・総合2位を獲得。その名を轟かせた。その後、1990年代のDTM(ドイツツーリングカー選手権)での活躍を覚えている人も多いだろう。時代は変われど、AMGがレースフィールドで得られた血統を受け継いでいることを忘れてはならない。その「血統」を、オーナーも自分の愛車に感じているのかもしれない。

「現在のメルセデスAMGモデルと比較しても、この時代の方がチューニングカーの印象、つまりは“ベンツの車体をベースにAMGがチューニングしたような印象”が強いです。」

そんなE55 AMGを、オーナーはとても気に入っているという。

「ボディ剛性の高さには驚かされるばかりです。手に入れたときはフルノーマルでしたが、ブレーキパッドをDIXCEL製に交換しました。タイヤは現在で3セット目です。エンジンオイルはR35型日産GT-R用のものを使用し、3000~5000キロごとに交換しています。闇雲に飛ばすわけではありませんが、安全に走るためにいくつかの“儀式”があるんです。まず、走る前にタイヤの空気圧を必ずチェックするようにしていて、そのためにエアゲージを積んでいます。どんなときでもタイヤのチェックは怠らないように心掛けています。過去に、事前の点検でパンクに気づいたことがありましたし。それと、運転するときはPATRICK製の靴しか履きません。この靴だと微妙なアクセルワークができるんです。あとは…、年末には1年の感謝の気持ちを込めて時間を掛けて丁寧に洗車します。」

では、最後に今後このクルマとどう接していきたいのか?意気込みを伺ってみた。

「他の何のクルマとも似ていないマクラーレン・570Sのフィーリングに感動しましたし、R35型GT-Rのような誰でも速く走らせることができるモデルにも憧れがあります。しかし、いまはE55 AMGの秘められたポテンシャルを引き出したいですね。今後は、空力や足まわりにも手を入れていきたいです。そして、もっと運転が上手になりたいですね。」

取材中に感じたのは、オーナーの運転は「スムーズで丁寧」ということだ。力任せに飛ばすわけではなく、クルマや周囲の状況を常に俯瞰で眺め、その場面ごとにベストな立ち位置を模索しているように感じられた。

実は、クルマの楽しさをもっと世の中に発信したいと、今後の方向性を模索しているという。YouTubeでチャンネルを立ち上げ、すでに動画も公開されている。愚直に、そして誠実なまでにクルマと接している姿には頭が下がる。「新しい時代を創るのは老人ではない」。かつて、どこかで耳にしたセリフがふとフラッシュバックした。今回、その事実を良い意味で突きつけられたような気がする。

インターネットを駆使し、日本はもとより世界に向けてクルマの魅力、そして日本のカーライフを発信する1人として、オーナーのさらなる活躍と飛躍を祈るばかりだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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