レクサスRC F 試乗リポート

究極のジャパニーズスポーツカー

レクサスの最高峰スポーツモデルとなるのが、5.0リットルV8エンジンを搭載するRC Fだ。サーキットでのパフォーマンスを最優先したフラッグシップをテストした。

走り好きを笑顔にする高性能クーペ

走り好きを笑顔にする。レクサスでは、RC Fをそう定義した。477PSのハイパワーを誇るこの高性能クーペを一度でも体験すると、それは真実であることがよくわかる。それほど、レクサスRC Fは、すばらしい走りを体感させてくれるのだ。

スポーツカーは(日本では)あまり売れない。でも、スポーツカーを作るメーカーは、尊敬される。企業規模は大きくなくても、マクラーレンやアストンマーティンは、世界中のクルマ好きの心をつかんでいるではないか。

なので、本当なら高級セダンやSUVで収益をあげているレクサスにとって、スポーツカーを手がけるのは、販売上はあまり報われない仕事と思われる。しかし、それをあえてやってのけた。しかもすばらしいやり方で。そう感心させてくれるレクサスRC Fである。

成り立ちは、フロントエンジンに後輪駆動のレイアウト。そして、コンパクトな車体にビッグパワー。高性能スポーツカーの定石だ。全長4705mmのクーペボディに、4968ccのV型8気筒ユニットを搭載してしまった。ボンネットを開けると、ブルーの結晶塗装を施されたインダクションパイプが、宝石のような輝きを放っている。

「レクサスブランドに新たな価値観を呼び起こしたスポーツモデル“F”の認知度を上げるとともに、ブランドのスポーティイメージを高めるため、コアモデルが必要となりました」
レクサスの開発担当者が語ってくれた、RC Fの開発背景だ。

ジェットコースターのような加速感

レクサスが日本のSUPER GT (GT500)に熱心に取り組んできたことはよく知られている。さらにこの先、国際規格のGT3への参戦も視野に入れているレクサスだけに、RC Fの開発にかける手間は並大抵のものではなかったろうと思う。

よく「レースは教室」とか、「レースからのフィードバックを量産車に生かす」とか言う。しかしメーカーの立場からすれば、コストの制限や不特定多数の素人ドライバーが操縦する前提でスポーツカーを開発し、レースで得た名声を汚さないようにするのは、もっと大変なことだろうと想像できる。

「すべてのドライバーに乗っていただきたい」とチーフエンジニアが話すレクサスRC Fは、高級ゴルフクラブからサーキットまで、あらゆる目的地が似合うクルマなのだという。かつ、「幼稚園の送迎にだって使っていただけます」と開発担当者は笑顔で言うのだ。

果たして操縦すると、それらの言葉にうそいつわりがないのがよくわかる。低回転域から力強く、かつレッドゾーンまで一気に回る気持ちよいフィールのV8はすばらしいチューニングだ。最近はトルクカーブを平らにして扱いやすくすることを企図した設定のエンジンが多いが、レクサスのエンジニアはその頭打ち感を否定し、54.0kgf・mの最大トルクが4800r.p.m.から得られるようにしている。どこまでも回転が上がっていくジェットコースターのような加速感を体験すると、それがドライバーにとっても大正解だと実感できるはずだ。

V8搭載のスポーツカーとして傑作

操縦性はナチュラル。ドライバーに無理を強いないことが優勝への最短距離といわれるレースでの考え方が、ここに生かされているように感じる。一度短距離でもレクサスRC Fを運転してみたら、過去に欧州製のスポーツカーを体験したことのある人は特に、水準の高さに驚くはずだ。気がつくと速く走っている。そういう感じである。

フロントエンジン/後輪駆動のモデルとしては世界初をうたうレクサス独自のTVD(Torque Vectoring Differential)の採用も、ハンドリングを語る上で重要なポイントだ。走行状態に応じて後輪左右の駆動力を制御し、コーナリング時の物理的特性をコンピューターがコントロールする。車体の向きをコントロールして、前に進むためにタイヤの駆動力を最大限引き出すのが目的だ。

一般のドライバーは、TVDの介入は感じないまま、これまで以上に気持ちよいコーナリングができることに感心するのではないだろうか。さらに室内のコントローラーで、スムーズな走りのためのNORMALモードと、サーキット走行用のSPORT S/SPORT S+モードが切り替えられるようになっている。自分のクルマでサーキットを走りたいという、クルマ好きの夢をかなえてくれるのだ。

大きなエンジンがフロントに搭載されているのだが、ドライブしていても、その存在はほとんど意識されない。開発者はきっと6気筒ぐらいでレイアウトしたかっただろうな、と余計な詮索をしたくなるのだが、「V8のような多気筒エンジンを好むマーケットが存在します」とレクサスの開発担当者は語る。確かにフェラーリやアストンマーティンをはじめ、大きなエンジンにこだわるスポーツカーは少なくない。何はともあれ、レクサスRC Fは中でも、V8搭載のスポーツカーとして傑作に仕上がっている。

スタイリングも大きな魅力

もうひとつ、感心したのがブレーキの出来のよさだ。最終的に制動力が高いこともさることながら、フィールが絶妙である。日本車のブレーキの多くはストローク(踏む距離の長さ)で利きを調節する傾向をもつが、レクサスRC Fは踏む力の強さで利かせる欧州型なのだ。このほうがコントロールしやすい上に、アクセルペダルへの踏み替え時間も短縮されるので、スポーツドライビングには向いている。

乗り心地はさすがに多少硬めだが、それでも“多少”というレベルで足回りが調整されている。その技術力もたいしたものだ。欧州では高級スポーツカーで長距離ドライブをするオーナーが多いようだが、そのニーズにもきちんと応えられる快適性が備わっている。

最後になったが最小ではない、という英語の言い回しがあるように、レクサスRC Fではスタイリングもかなり大きな魅力だ。最新のスタイルアイデンティティであるスピンドルグリルはかなりアグレッシブな印象だが、いっぽう車体側面に光が当たった時に見せる表情は、実はこのモデルならではの強い個性になっていると思う。

特にリヤフェンダーまわりの豊かなふくらみと複雑な面で流れるように見える光の反射は、このクルマが走っていると、思わず引き寄せられるほどだ。ショールームの中でも道ゆく人を引きつけるが、走っていると、誇張でなくこんなにきれいな面のクルマがあるのか、と思うほどである。

性能も価格も、そしてスタイリングも、一頭地を抜くいま究極のジャパニーズスポーツカーと言ってもいいだろう。

(text:小川フミオ/photo:田村 弥)