【アウディ A6 新型試乗】これが日本のフラッグシップでもいいんじゃない?…中村孝仁

アウディ A6セダン 新型(A6 55 TFSI クワトロ S-line)
◆既視感の理由


クルマを受け取って都会の雑踏に乗り出して、何となく前にも乗ったことのあるような錯覚に陥った。あれ?初めて乗るクルマのはずだけど…。

錯覚を起こしたのはそのインテリアのデザインがあまりにも上級の『A8』と似ていたからである。と言って家に帰ってA8の写真を見てみると、ステアリングデザインだったリ、メータークラスタのデザインだったりは異なっていたのだが、新たにタッチスクリーン化されたディスプレイや基本的なダッシュボードデザインはA8と何ら変わらない。

ボディは幾分A8よりもコンパクトにされているものの、それでも全長4950×全幅1885×全高1430mmというサイズは十分に大きく、郊外にある昔ながらのデパート駐車場では白線内に停めるのすら至難の業。どうも場所にもよるのだろうが、日本ではクルマの拡大速度にインフラ整備が付いて行っていない印象すら受ける。

◆高級感をまざまざと知らせるパワートレイン


それにしてもマルチシリンダーエンジンの上質感というか、高級感をまざまざと知らせてくれるクルマである。最近はいわゆるダウンサイジング化に伴って多くの高級車と呼ばれるクルマですら、4気筒エンジンを搭載する。それはそれで時代の要請なのだろうから仕方ないとして、そうはいっても6気筒に乗ってしまうと、そのスムーズネスやほぼ皆無の振動、上質なエンジンサウンド等々、改めてその違いの大きさに打ちのめされ、その上質感にうっとりとしてしまう。

メカニズムは完全に『A7スポーツバック』に一致する。即ち3リットルV6ターボユニットと7速のSトロニックの組み合わせだ。同じエンジンでもA8は8速のトルコンステップATとの組み合わせだが、こちらはツインクラッチのDCTとの組み合わせとなる。

何故敢えてこの部分に差を持たせているかは不明だが、メーカー的なエクスキューズとしてはスポーティーで若々しさを表現するモデルにはSトロニックで、さらなる上質感や快適性を求めるモデルにはステップATと言った答えが返ってきそうである。

そうはいっても実際今回のSトロニックの出来は秀逸で、以前にA7スポーツバックとA8の乗り比べをした時も、少なくともトランスミッションに関する差異はほとんど無く、今回は敢えて渋滞をだいぶ長い距離走ることが出来たのだが、そこでもDCTにありがちな不満点が顔をもたげることもなかった。

◆マイルドハイブリッドのフィーリングは


このクルマ、すでに周知の事実だがいわゆるマイルドハイブリッド車で、ベルトドリブン・オルタネーター・スターター(BAS)と称するシステムを持っている。ただし、あくまでも回生ブレーキをため込むことが主眼で、モーターによるパフォーマンスのアシストがあるわけではない。高速上でアクセルを離すとコースティング状態になって、最大45秒間エンジンを完全停止させるという。

以前A7で試した時はそれが叶わなかったのだが、今回はそれが出来た。再始動は全く感知できない。そして街中でも信号などでストップしようとすると、かなり手前からエンジンが切れる。スピードにして22km/hを下回るとエンジン停止となる。いずれにしても、停止も発進の際の始動も全くスムーズだからいつの間にやら止まっていつの間にやらかかるという表現が正しいと思う。

ステアリングはかなりクイックな印象である。このクルマにはパッケージオプションのダイナミックオールホイールステアリングといういわゆる4輪操舵のメカニズムが組み込まれている。それのおかげなのか、60km/h以下では逆位相に切れるから、低速域でかなりクィックな印象である。

◆これがフラッグシップでもいいんじゃない?


静粛性とか乗り心地等々、どの点を取っても非常に上質感に溢れ、極端の話、これが日本におけるアウディのフラッグシップでもいいんじゃない?と言うのが偽らざる印象。サイズ的にもこれ以上を求める必要は感じない。勿論あくまでもドライバーズシートでの話。

そして言っちゃ悪いがこれより上のクラスになると、ライバルには市場において今のところ手も足も出ない。一層のこと上を諦めてこいつをフラッグシップに据え、よりリソースをかけて例えばトランクを電動開閉式にするなどしたら、もっと『A6』の価値が上がるような気がしなくもない。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める

(レスポンス 中村 孝仁)

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