【ホンダ N-WGN 新型試乗】「N-BOXに勝つ必要がない」からできた上質感と“らしさ”…まるも亜希子

ホンダ N-WGN 新型と、まるも亜希子さん
長らく軽自動車人気を牽引してきたハイトワゴンとしては、スズキの『ワゴンR』、ダイハツの『ムーヴ』という二大ブランドが切磋琢磨しながらユーザーを掴んできた。後発組であるホンダ『N-WGN』や日産『デイズ』/三菱『ekシリーズ』は、初代ではその牙城を崩すべく奮闘していた感があったが、先にフルモデルチェンジしたデイズ/ekシリーズにしても、今回新型が登場したN-WGNにしても、ワゴンR/ムーヴの背中を追うのではなく、まったく新しい魅力を打ち出してきたと感じる。

とくにN-WGNは、軽自動車のみならず登録車を含めた新車販売台数トップに君臨する、スーパーハイトワゴン『N-BOX』の存在があるだけに、同じ方向性で開発すれば「じゃあ、N-BOXでいいじゃん」となり、N-WGNの存在意義そのものがわからなくなってしまう。開発者に話を聞いていると、単純な初代からの正常進化ではなく、「N-WGNらしさ」の確立にとても苦労したことが伝わってきた。


◆気になる「N-BOX」との違い、ひとつは「すべてに上質感」

実際に見て使って乗ってみて、確実にN-BOXと異なるN-WGNだけの魅力だと実感した点は、大きく3つあった。

まず1つ目は、室内空間・走行性・乗り心地のすべてにおいて、上質感を追求していること。とくにシートの座り心地の良さは、軽自動車全体で見ても群を抜いていると感じた。

シートの骨格自体はN-BOXと共用だが、全席でシート表皮の伸びを25%アップし、前席ではウレタン密度を30%アップ、後席ではウレタン硬度を5%ダウンしたという。これによって、腰掛けた直後に包み込まれるような感覚があり、走行中は路面からの突き上げをやわらげ、身体のホールド性も高まって不要な揺れなども抑えられ、疲れにくくなっている。開発コストが限られる軽自動車では、シートにはあまりコストをかけないモデルも多い中、N-WGNのシートは1クラス上だ。

また、スライドドアでは乗員の快適性を高めるアームレストを作ることが難しいが、ヒンジドアとなるN-WGNはしっかりと肘が置けるアームレストを確保し、よりリラックスできる空間となっている。ファミリーユースも多いスーパーハイトワゴンでは、どうしても乗り心地などの快適性よりもシートアレンジや荷室容量の確保が優先されるが、ハイトワゴンではまだまだ通常は1~2人で乗るこというパーソナルユースも多いため、「量より質」で勝負しようというこだわりが感じられた。


◆N-WGNならではの運転のしやすさ

さて、2つめのN-WGNらしさは、運転しやすさだ。そんなこと、軽自動車ならどれでも同じじゃないの? と思われがちだが、実は全高が1700mmを超えてくるスーパーハイトワゴンになると、取り回しには少し気を使う。N-WGNは今回、ボンネットの両端がスクエアなデザインを採用し、ボディのフォルムからしていかにも運転しやすそうな直線基調だが、内部にも運転しやすさへの工夫が多く見られた。

まずはフロアを25mmアップし、シートリフトの調整幅も30mm増やして、どんな体型の人でも運転ポジションが適正に取れるように。ペダルの踏み間違い事故などが注目され、その要因には車両側のペダル配置の問題もあると懸念されるなか、N-WGNはアクセルペダル、ブレーキペダルを右寄りの配置に改良し、人が座った時により自然な操作になるよう配慮している。ホンダの軽として初めて、ステアリング調整にテレスコピックを採用したことも大きい。

また、前後どちらもスクエアで広い視界の確保にこだわり、フロントではAピラーを先代より6mm細くし、リヤではワイパーモーターが視界を邪魔しない位置に配置されている。実際に運転席に座ってみると、視界が広くクリアであることに加え、後方を振り向いてもガラスが近く、これなら目視でしっかり確認できるという安心感がある。

一つ残念だったのは、スタートボタンなどが配されるステアリング下方のパネルがかなり下まで張り出しており、私がベストと思える運転ポジションを取ると、スネに当たってしまうことだった。ただ、ここは開発課程でも注意して足に当たらないような処理を施し、様々な体型の人で検証したところ大丈夫だったとのこと。実際、身長175cmの編集長が座ってみるとスネには当たらなかったので、私はレアケースなのかもしれないが、購入の際は念のためチェックしてみてほしい。


◆「いいクルマを運転している」感がちゃんとある

とはいえ、自然吸気モデルから試乗してみると、なめらかな出足といい、その後も続く上質な加速フィールといい、大人3人乗車でも市街地はもちろん、高速道路でも余裕のある走りに驚いた。パワートレーンはN-BOXと共用だが、Gデザインシフト制御をN-WGN専用にチューニングし、より早いGの立ち上がりを実現しているとのこと。また軽快なハンドリングのために、ホンダ軽初のEPS新制御ロジックを採用。自然吸気モデルではそれほど実感できなかったが、とにかくどこにも違和感のない制御で、加速も減速も自然なフィーリングだと感じた。

そして、14インチタイヤなのでどうかな、と思っていた安定感の高さも大したもので、フロントスタビライザーを全車に装備したというのも頷ける。シフトポジションを従来の「L」から「S」に変更して、より穏やかなエンジンブレーキを効かせる機能を搭載し、急な下り坂や雪道の減速での安心感がアップしたり、安定したコーナリングをサポートするアジャイルハンドリングアシストを採用したりと、運転に不慣れな人でも運転しやすく安心できることが、N-WGNの大きな魅力となっている。

ターボモデルに乗り換えると、ここ一発の加速がパワフルになり、高速道路での余裕もさらにたっぷりになるのはもちろん、私が感じたのは上質感まで1ランクアップするということ。ステアリングの操作感にも重厚感が増し、「いいクルマを運転している」という満足感がちゃんとある。カスタムのターボモデルは15インチタイヤを履くが、剛性感は高まっても乗り心地にはそれほど硬さが加わらず、バランスの良さが際立っていた。


◆「積みたいモノが積みやすい」発想の転換

最後に3つ目の魅力は、「二段ラックモード」を打ち出したラゲッジの使い勝手だ。スーパーマーケットで買い物をしたら、カートのままラゲッジに寄せて、ほぼ同じ高さでカゴごとラゲッジに移し替えられるという、これまでにない使い方に感心。買い物カートの高さが730mm程度ということや、複数のスーパーマーケットのマイカゴのサイズを研究し、ボードの耐荷重も50kgまで上げて、重い荷物もどんどん積めるようになっているのがすごい。

N-BOXのように、低いフロアと大容量で自転車もOK、アイデア次第でなんでも積めますよ、というラゲッジと違って、ユーザーが積みたいモノは何か、どんなシーンが多いのかを徹底的に研究して生まれたのがN-WGNのラゲッジだ。

実はよくよく見ると、先代に装備されていて好評だったという、後席下に傘などが置けるリアシートアンダートレーを新型でも継承しているため、N-WGNの後席は左右独立でのスライドができなかったり、より低いラゲッジフロアが手にはいるダイブダウン機構が採用されていなかったりと、あえて手を抜いたところ、コストをかけなかったところもある。でもそれによってユーザーが不便になるのではなく、今までにない使いやすさを実現しているところがN-WGNの魅力だ。

それができたのも、「自転車が積みたいなら、N-BOXをどうぞ」と言えるからだとの開発者談にも納得。どうやったってN-BOXの低さ、広さには勝てないのだから、「積みたいモノが積みやすい」ことを目指したN-WGNのラゲッジは、ユーザーにとって何より嬉しいのではないかと感じた。


◆Honda SENSING 標準装備の英断

さらに、N-BOX同様に全車標準装備された先進の安全運転支援技術「Honda SENSING」は、ついに全車速追従機能が搭載された。これもユーザーにとって大きな利便性をもたらす進化で、素晴らしいことだと思う。ただ、デイズ/ekシリーズのようにステアリング制御は全車速にはなっておらず、もしかするとガッカリする人もいるかもしれない。

でも、デイズではプロパイロットが標準装備となるグレードは156万円台なのに対して、N-WGNは127万円台でHonda SENSINGが標準装備となる。この約30万円の差は大きく、こうした先進の安全運転支援技術を、お金を出した人だけのものではなく、全てのユーザーに使ってもらえること、少しでも早く普及させることを考えた時に、低価格のグレードにも標準装備としたN-WGNの英断を支持したい。

こうして見てきたN-WGNは、外観はシンプルでちょっとカクカクしているのに、運転しても座っても、荷物を載せても心をまぁるくしてくれる、満足感たっぷりのハイトワゴンになっていた。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★★

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト
映画声優、自動車雑誌『ティーポ(Tipo)』編集者を経て、カーライフ・ジャーナリストとして独立。 現在は雑誌・ウェブサイト・ラジオ・トークショーなどに出演・寄稿する他、セーフティ&エコドライブのインストラクターも務める。04年・05年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本カー・オブ・ザ・イヤー(2005-2012等)選考委員、AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

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