【ホンダ N-WGN 新型試乗】軽自動車のベーシックは変わった…中村孝仁

ホンダ N-WGN 新型
◆現代の軽自動車のベーシックとは

元来、軽自動車はベーシックな乗り物として誕生したものだが、それを敢えてベーシックと呼ぶと何となく屋上屋を作ったような印象があるかもしれないが、実際に乗ってそう感じた。

現在の軽自動車市場を圧倒的にけん引しているのは、スーパーハイトワゴンと呼ばれる背の高いスライドドアを持ったモデル群。代表例はホンダ『N-BOX』で、業界でも最も売れている軽自動車だ。これをダイハツやスズキの同じセグメントのモデルたちが追いかけている。

軽自動車は他にもスポーツモデルのホンダ『S660』から、スズキ『ジムニー』のような本格SUVまで多種多彩に揃い、今ではというか、昔から軽自動車だけでクルマのジャンルすべてが揃いそうな勢いだったのである。かつてはベーシックだからある種の我慢を強いられるジャンルだと思われていたが、ここ数年はそうではない。


つい先日某自動車メーカーの発表会で、クルマのヒエラルキーを覆すようなモデルに仕上がったという趣旨の説明を受けたばかりだが、そのヒエラルキーは既に軽自動車によってぶっ壊されている印象すら、最近の軽自動車には持つわけである。

で、軽自動車のベーシックが意味するところだが、自動車のベーシックと言えばかつてはセダンであった。軽自動車だって、形こそ違えどそれに相当するモデルがあった。しかし普通車のベーシックが極端な話、SUVになりつつある現状を考えると、ハイトワゴンと呼ばれる、この『N-WGN』のようなモデルが今では軽自動車のベーシックなのではないかと感じたわけである。

◆小型車を超えた乗り心地


まあ、とにかくよくできている。とりわけ乗り心地に関していえば、コスト最優先でかなり手抜きを感じる(実際そんなことはしていないのだろうが)小型コンパクト車の一部のモデルよりも遥かにどっしり感やしっとり感の演出が上手く快適だし、高速を走った時のフラット感などもひょっとしたらこちの方が上なんじゃないか?って言う思いすら持ってしまう。

サイドビューを見ても本当に破たんのない中々好感度の高いスタイルを持つ。その昔フランス車などを表現する時に良く使われたフレーズに「タイヤを四隅に追いやったロングホールベース」的な文言が使われたが、このN-WGNのサイドビューはまさにそれ。スーパーハイト系と比べて上下方向のバランスが良いから、こちらの方がはるかにまとまりが良い。

さすがにNAで58ps、65Nmの非力なパフォーマンスでは、街中は良いとして高速での本線流入などでは力不足を感じてしまうが、要するにターボと比べた時は加速が鈍いだけで、絶対スピードに関してはそれほど大きな差があるわけではない。これもかつて頻繁に使われたフランス車のフレーズだが、「常用域に達してしまえば結構俊敏に走る」をそのまま頂けばよい。



◆十分にファーストカーとしての役割を果たせる

音も静かである。動力源からも、路面からも、そして高速での風切り音に関してもだ。ただ、少し気になるノイズもある。それはCVTが発しているであろう、「ヒュイーン」だの「ウィーン」だのと言う高周波の音。止まる直前にこれらのコンサートがあるから、案外うるさく感じる。

また、低速域でこのCVTはアクセルをオフにするとある程度のところまではエンジンブレーキを効かせてくれるのだが、どこかですっとそのアシストが消えてしまう。つまりマニュアル車でエンジンブレーキを効かせて走ってきたクルマが、突然クラッチを切ったような状態になることがある。これも少し困りものだった。


タイヤはブリジストンのエコピア、155/65R14を履いていた。ホイールはいわゆるテッチンホイール+ホイールキャップである。実はカスタムのターボ車の方は、同じエコピアでも165/55R15とアルミホイールの組み合わせとなる。バネ下の重さは多分それほど変わらないと思うのだが、実は細い155/65R14を履くN-WGNの方が乗り心地に荒さが目立つ。

それだけではない。ステアリングの中心付近のルーズさがこちらは際立つ。まあ、想定されるユーザー像を考えれば、中心付近がこれくらいルーズな方が直進し易いとも考えられるが、カスタム・ターボとの違いは大きかった。

いずれにしても、これで十分にファーストカーとしての役割が果たせると感じる。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

(レスポンス 中村 孝仁)

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