【トヨタ グランエース 新型試乗】2列目、3列目も「さすがトヨタ」な乗り心地…中村孝仁

トヨタ グランエース
トヨタは海外向けの商用バン『ハイエース』をベースとした新たな高級ミニバン(トヨタ曰く、フルサイズ高級ワゴン)『グランエース』を日本でも発売する。早速試乗の機会を得た。

◆アルファード/ヴェルファイアとの違いは


まず、ベースがハイエースであるため、その構造はいわゆるラダーフレーム構造である。次にエンジンは2.8リットルターボディーゼルのみの設定など、トヨタのモデルにしてはだいぶ思い切った設定ともいえよう。しかも販売計画は年間600台と慎重である。ただし、すでに昨年暮れの発表から1月27日現在までですでに年間総量を上回る950台を受注しているというから、滑り出しは好調である。その販売内訳は7割が法人ユースだという。トヨタの想定通り「高級送迎車」という位置づけは間違いなかった。

では既に存在する『アルファード』/『ヴェルファイア』とはどこが違うのか。そもそもグランエースには設定が8人乗りの「G」と6人乗りの「プレミアム」という2種が存在する。前者は4列シート、後者は3列シートだが、3列シート車は2列目と3列目に同じシートが使われ、十分な空間が確保されていることから、アルファード系では2人のVIPにしか対応できなかったものが、グランエースでは4人まで対応可能というところがこのクルマの大きな特徴なのである。

そんなわけだから運転して試乗インプレッションをしたところで大きな意味はなく、するべきは2列目、3列目のインプレということになるのだが、まずはドライブフィールからお話しよう。

◆ラダーフレームでも「さすがトヨタ」な乗り心地


一番気になっていたのはラダーフレームゆえの乗り心地という点である。この点はさすがにトヨタ。リアにリジットサスペンションを使っているにもかかわらず、快適性は十分に担保されていた。勿論アルファード系と比較すれば少し見劣りすることは言うまでもない。

次にやはりというべきか、ハイエースがベースなので今のところEPB、EPSの設定が無い。前者で困るのは全車速対応のACCが装備できない点。仮にできたとしても停車するとすぐにキャンセルされることだ。サイドブレーキはシートとセンターコンソールの横に装備されている。足踏み式ではない。

もう一つのステアリングの方は、油圧タイプのアシスト。現代車なので安全装備やコネクテッド系に抜かりはなく、いわゆるレーンデパーチャーのアシストも装備されている。これがEPS装備車だと、白線を踏みそうになるとステアリングでググッと引き戻すタイプなのだが、グランエースの場合は片輪にブレーキをかけて軌道を修正するタイプ。従って強引さが無く介入がマイルドな点は押しつけ感が無くて却って好印象であった。

2.8リットルターボディーゼルは『ランドクルーザープラド』に搭載されているのと同じ1GD-FTVというタイプのもの。遮音性に拘った結果エンジン音はドライバーズシートでも軽微。2列目以降はまず届かないレベルである。性能的には177ps、450Nmとなるが、さすがに車重が2.7トンほどあるため決して速いというイメージやトルクフルというイメージはない。勿論性能的な不満もなく、この重さでWLTPの燃費10km/リットルなら好燃費だし、第一軽油だからランニングコスト的にも優しい。

◆2列目、3列目シートはすこぶる快適!4列目は…


肝心の2列目以降の話である。シートレールとタイヤハウスの影響で1列目のシートよりもわずかに狭い幅となる以外は、2列目と3列目には同じシートが付く。質感も十分に高く快適さにも不満はないが、前後のアジャストが電動にならないところは高級送迎車としてはいかがなものかとは思う。広さ的にもすこぶる快適だ。これはすべて3列シート仕様の話。

これが4列シート車になるとそうはいかない。勿論4列目を犠牲にすれば、それなりの空間は確保できるが、すべてのシートで満遍なく快適さを求めようとすると、まあ普通のミニバンと変わらないレベルの窮屈さを味わうことになる。


全長5300×全幅1970×全高1990mmという日本の道では少々大き過ぎるきらいのある外観だけに個人ユーザーを想定するのはなかなか難しいかもしれないが、アメリカ製フルサイズミニバンやSUVなどを所有している人にとってこのくらいのサイズは全く苦にならないはず。実際敢えて飛び込んで見た細い路地では左右のミラーを気にしながら走ったが、東京都内でも幹線道路ではサイズ感が気になることはないはずだ。そういえばサイドミラーも縦方向に長く、視認性も良い。

今後キャンパーなどの需要があることが想定されるが、立派なシートを撤去して仕様変更するのはあまりに勿体なく、そんな需要の高まりには2列シート仕様などがあっても良いのかなどの話で盛り上がった。個人ユーザーをどのように取り込んでいくか、(トヨタにとってその必要性はないのかもしれないが)来年のオートサロンにはこれをベースとしたモデルが展示されるような気がしてならない。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★(3列シート車)
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファーデプト代表取締役も務める

(レスポンス 中村 孝仁)

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