日産を代表するモデルが雪上に大集合! いま求められるインテリジェントな走りとは?[前篇]

空荷でもリアが急激に流れず安定した旋回ができたNV350
そろそろ寒さの緩む日も増えてきたとはいえ、突然の降雪に積雪、路面凍結といった状況は寒冷地以外でも春先まで起こりうる日本列島。そんな折、日産が北海道で「インテリジェント スノー ドライブ」と銘打った雪上試乗会を開催した。

低速でも滑りやすい雪上は当然、駆動方式や重量配分、パワートレインの特性といったクルマの成り立ちによる挙動や操縦性が現れやすいものだ。今回は『リーフ』や『ノートe-POWER』をはじめとする電動車に始まり、軽やミニバン、セダンにSUV、『GT-R』や『フェアレディZ』といったスポーツやスペシャリティ、『NV350キャラバン』のようなバンまで、全ラインナップでこそないが、あらゆるジャンルを代表するモデルの試乗車が用意された。

当然、異なるユーザー層に向けて様々な乗られ方・使われ方を想定し、それぞれの特色を打ち出す多様なクルマで、日産の目指す「インテリジェント モビリティ」という全体を構成する部分でもある。その全体像に向かって各車それぞれが、目指すべきドライバビリティとしてどのような要素を担っているのか、興味深いところだ。


◆NV350キャラバンで定常円旋回

この日、最初に巡ってきたのは「NV350キャラバン・トランスポーター4WD」での定常円旋回。いわゆるガテン系の支持が厚い「働くクルマ」ながら、遊び道具を積み込むレジャー用途も少なくない。パートタイム式の4WDなので、ステアリングコラム右のダッシュボード側スイッチひとつで、駆動方式とVDCの有無は切り替えられる。

まず4WDで旋回してみるが、ビタリと安定して円周を小さくするような動きにはならない。2WDに切り替えてもVDCオンなら相当に安定している。2WDかつVDCオフにすると、さすがにスリップアングルがついてくるが空荷で軽いはずのリアも急激に流れず、ロングホイールベースと元々の挙動のマイルドさのおかげだろう、スピンモードを起こすにはなかなか至らない。

広い荷室に積んだモノを揺さぶって不安定化させない、優しい挙動といえるだろう。ただし、掘れて轍で波打つ路面を拾うせいで、リアのリーフスプリングの上下動は強く感じられ、固定フックが頼りになることはいうまでもない。


◆リーフe+は「滑りづらい」

NV350のプリミティブながらも手の内に収まりやすい、練られた挙動体験とうって変わって、EVの底知れない洗練と可能性を感じさせたのは『リーフe+』だった。定常円旋回でリーフは徹底して弱アンダーステア。FFで雪上コーナリング中にアクセルを急に抜いたり踏んだりすれば、それなりに挙動が乱れるものだが、ほぼオンザレール感覚で内側に切れ込むでもなく減速するか、少しだけ外側にはらむ。滑る、という感覚や前触れがない、異次元の安定感なのだ。

通常のドライ路面でeペダル、つまりワンペダルドライブによる最大0.2Gの前のめり減速を経験していると、雪道ではアクセルオフでタイヤがロックしそうにも思える。MT車乗りなら想像しやすいと思うが、ウェット路面で低速ギアに入れた際にシフトロックする、それに似たイメージだ。

ところがリーフで実際に起きることは真逆で、eペダル時にアクセルオフして駆動側が減速すると、タイヤが滑り出す前にモーターは回生ブレーキの抵抗を緩めてくれる。回生の効率を最大化するのにタイヤがグリップを失って滑るほど無駄なことはないので、そうさせない制御になっているのだ。そもそも1/10000秒単位の電気的制御であるため、センサーで拾って機械的に制御する方式とは制御の細やかさごと、ケタが違う。


しかもモーターのトルク変動と同時に、電動ブースターを介して前後輪ブレーキも協調制御されるため、車体が前のめりにならず、スッと下に沈み込むような安定した制動感覚だ。この辺りがまさしく、ひと昔前と比べてクルマ側のインテリジェンスが段違いに上がっているところだ。

よってワンペダル操作では、駆動輪たる前輪は減速時も、タイヤグリップの範囲で圧雪もしくは凍結路面をきっちり掴んで安定し続ける。EVのメリットはCO2排出ゼロとか静粛性、距離辺りの走行コストの安さがよく指摘されるが、低μ路面でもとにかく「滑りづらい」事実は、寒冷地ユーザーだけでなく、天候に関わらず通勤など毎日のようにクルマに乗らざるを得ない一般ユーザーにも、もっとアドバンテージとして意識されるべきだろう。無論、より大きな減速Gの発生するブレーキ制動ではABSが作動するし、加速時にタイヤがスリップするほどアクセルを踏み込めばVDCの出番となる。


◆eペダルの雪道性能は

かくして「滑りづらい」リーフだが、絶対に「滑らない」わけでないことはパイロンスラローム時に経験した。eペダルでアクセルを浮かしてステアリングを切ればノーズはそれなりに忠実にインを向いてくれるが、パイロン進入時に速度がのり過ぎていれば一瞬、舵が失われてアンダーステアが顔を出す。バッテリーを積む分、BEVは重量の嵩むクルマで、緊急ブレーキアシストがあっても下り坂や凍結路面を警戒しなくていい訳でないことは確かだし、その辺りのインテリジェンスは変わらずドライバー側に求められるものだ。

減速スリップのほぼないワンペダルの安心感は、モーターから先の駆動系を共有するノートe-POWERやセレナe-POWERにも当然、共通する。今回はドライと融雪部分が混じる公道でノートe-POWERニスモSとセレナe-POWERにも乗った。両者ともモーターの回生減速時に、前後ブレーキが協調制御されない点はリーフと異なるが、均一な圧雪路ではなく条件がまちまちの路面でも、加減速や制動にムラはなかった。

前者はBモードを選択すると、ワンペダル減速を利してドライビングにメリハリをつけて、よりスポーティに楽しめる。また後者のセレナの方は、根元に向かって2分割スプリットされたAピラーによって開けた視界が、なかなか日本車離れしており、高い着座位置も手伝ってゆったりしたライド感だ。

ノートe-POWERニスモSの元気よさと、セレナe-POWERの静粛性に挟まれたせいか、同じく公道で試乗したX-トレイルは相対的に分が悪かった。タイヤに跳ね上げられた水が後車軸周りのフロアパンに当たる音が少し煩わしいのと、フラットな道での乗り心地にやや神経質な上下動を感じた。逆に荒れた舗装の上では、インテリジェントライドコントロールという車体の上下振動を予測してエンジントルクとブレーキを制御する機能のおかげか、細かな凹凸を蹴とばして左右に暴れる感覚がなかった。平坦路がX-トレイルにはイージー過ぎるかのようだった。


「滑らない」ことに特化した一台として忘れてならないのは、ノートe-POWERの4WDだろう。これは後車軸にも駆動モーターを備えたパートタイム4WDだが、駆動前輪側と機械的な繋がりは存在しない。同じバッテリーから給電され、前輪が滑りそう、または滑った時だけ、後輪を駆動するのだ。

その効きを実感できるのは、通常のFFが苦手とする凍結路面の登り坂発進。まず切り替えスイッチを2WD側にして、アクセルをジワリと踏んでみるが、フロント側の駆動輪の荷重が足りず空転が始まる。そこでブレーキを踏んで4WD側にスイッチを入れ、再びアクセルを踏むと、後輪側の駆動力によって押され、何事もなかったかのようにノートe-POWER 4WDは進み出した。このモードのままでも通常走行では前2輪駆動に戻るが、発進時に加えて、前輪が空転するのを検知したら4WD走行となる。つまり燃費を気にすることなく、雨雪の日には常時ONにすべき4WDモードなのだ。


◆デイズのハンドリングと軽自動車の限界

もうひとつこの日のサプライズは、雪上のパイロンスラローム試乗に供されていた『デイズ』だった。ステアリング操舵に対するフロント回りの剛性感が高くて、左右の切り返しでもリアがきっちり追従する。雪上でコントロールしやすい、満足のいくハンドリングを見せた。

ご存知の通り、デイズは三菱自動車とのOEMモデルで、足回りは日産独自のセッティングだが、フロントにリバウンドスプリングを入れ、つぶれ方の穏やかなウレタンバンプラバーをリアに、さらにエンジンマウントに振動を素早く収める流体マウントを採用するなどして、ロードホールディングと応答性を高めるチューンが効いているようだ。

一方で、ABS作動を試す雪上コースでの設定速度は60km/hだったのだが、直線路の雪が掘れて荒れている状況で、デイズはブレーキング直前の轍やバンプを拾い、制動中にわずかに斜めにふられてしまう傾向があった。これは同じコースの同じ路面で、リーフやスカイラインでは見られなかった現象なので、デイズの足回りがボディをフラットに保てないというより、軽自動車枠自体の限界と思えた。


軽はコミューターとして街乗りの速度なら十分でも、条件がある程度厳しくなるとヴィークル・ダイナミクス面では多かれ少なかれ、普通乗用車に比べてクリティカルな状況が起きうるということで、限られたホイールベースと狭いトレッドで、ルーフを高くしたハイトワゴンなら尚更だ。それでも多少の不安定さを許容できる程度に、デイズの操舵フィールはしっかりしていた。

かように日常的な生活車として乗られる日産の各モデルは、破綻やストレスのない安定方向に徹した「インテリジェントモビリティ」を提案している。とはいえ制御テクノロジーが黒子に徹する点は同じくながら、より積極的なスポーツ・ドライビングを究めるもうひとつの方向性をも、インテリジェント モビリティは併せもつ。後篇ではGT-RやフェアレディZ、スカイラインといったスポーツ&スペシャリティ・モデルの雪上試乗をお届けする。


南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

(レスポンス 南陽一浩)

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