EJ20よ感動をありがとう…『WRX STI EJ20ファイナルエディション』にスバリスト片岡英明が試乗

スバルWRX STI EJ20ファイナルエディション
1989年にデビューし、令和の時代まで第一線で活躍を続けたスバルの1994cc・EJ20型水平対向4気筒DOHCインタークーラー付きターボには深い思い入れがある。このエンジンを積むスバル車を愛車にして、少なくとも30万kmは走った。雑誌などの撮影で乗ったEJ20型DOHCターボを含めれば、走った距離は40万kmを超えているはずだ。だから、今でも親しみと愛着を抱いている。


◆ラリーと共に歩んだEJ20

数あるEJ20型DOHCターボ搭載車のなかで、もっとも強烈な印象を残したのは、WRC(世界ラリー選手権)の競技用ベースマシンとして94年1月に登場した『WRX STI』だろう。そのベースとなった『インプレッサWRX』は92年10月に誕生した。このBタイプを、スバルのモータースポーツ部門を統括しているSTI(スバル・テクニカ・インターナショナル)が究極のチューニングを行って限定発売したのである。これがWRX STI(2005年までの表記はSti)だ。

メーカー公認のチューニングカーであるWRX STIの最初の作品、バージョン1はセダンに加え、ワゴンもある。WRCで3年連続してチャンピオンになったから、98年にはワイドボディのクーペに2212ccのEJ22改型エンジンを積むWRカーレプリカ「22B」まで送り出した。400台の限定販売だったが、アッと言う間に完売となっている。


WRX STIは97年秋に受注生産から正式なカタログモデルに昇格した。その正統は少量生産の特別仕様車、限定モデルだ。そのほとんどが驚異的な人気を誇り、たちまち完売となる。この熱狂ぶりは20年後の今もまったく変わっていない。だから中古車市場でも高値で取り引きされている。

EJ20型DOHCターボを積む歴代のWRX STIは、2リットルクラス最強のスポーツモデルだ。最大のライバルとして立ちふさがったのは、4G63型DOHCターボを積む三菱『ランサー エボリューション』である。両車は15年にわたってパワーとトルク、そして4WDシステムを競い合った。WRX STIの武器は94年11月に発売したWRXタイプRA STIがセンターデフに組み込んだDCCDである。センターデフに電磁クラッチ式LSDを組み合わせ、ロック率をフリーからロックまでマニュアル制御できるようにした。これはマルチモードDCCDに進化し、最新のWRX STIにも搭載されている。


2000年10月、インプレッサは2代目となり、WRX STIはワイドボディをまとった。EJ20型水平対向4気筒DOHCターボは可変吸気システムを採用し、2002年秋に登場したC型からは排気系を等長等爆とした。実用域のトルクが増えるとともに高回転の伸びとエンジン音も変わっている。

2007年にインプレッサは3代目となり、WRX STIは5ドアハッチバックだけとなった。EJ20型エンジンにデュアルAVCSを採用し、マルチモードDCCSやマルチモードVDC、Sドライブなども装備する。セダンのWRX STIを復活させるのは10年だ。

現行4代目は、14年夏に登場する。「WRX STI」はインプレッサから独立し、さらに走りの楽しさを広げた。ハイライトは、マルチモードDCCSとマルチモードVDCに加え、アクティブトルクベクタリングを採用したことだ。この時から5年、EJ20型DOHCターボを積むWRX STIの生産終了が伝えられた。そして有終の美を飾るために特別仕様車として「EJ20ファイナルエディション」が送り出されたのである。


◆熟成の域に達したファイナルエディション

試乗したのはスバル WRX STI EJ20ファイナルエディションのフルパッケージだ。ウルトラスエードを使った本革巻きステアリングやカーボン調の加飾パネルなどに加え、フロントにはシルバーで縁取ったレカロ製のバケットシートを2脚並べた。しかも運転席は10ウェイパワーシートだから、ベストなドライビングポジションを取ることができる。レッドのスターターボタンと真っ赤なシフトノブを採用しているのもうれしい演出だ。

パワーユニットは熟成の域に達したEJ20型水平対向4気筒DOHCで、これにツインスクロールターボを装着している。ファイナルエディションのエンジンは、ピストンやコンロッドなどの摺動パーツは重量公差を大幅に低減し、クランクシャフトも回転バランスを最適化するなど、レーシングエンジンのようにバランス取りを行った。フライホイールやクラッチカバーも絶妙にチューニングし、これをベテランの職人が丁寧に組み上げているのだから悪かろうはずはない。


モータースポーツの世界で鍛え抜かれ、熟成の域に達したEJ20型ターボは刺激的なパワーフィールだ。アクセルを踏み込むと淀みなく回転が上がり、応答レスポンスも驚くほどシャープだった。EJ20型DOHCターボは3000回転以下のトルクが細いと言われる。だが、その思いを裏切るくらい力強いトルクを感じさせた。だが、本領を発揮するのはタコメーターの針が4000回転を超えてからだ。レッドゾーンの8000回転まで軽やかに回り、エキサイティングな加速を見せつける。

S#モードをチョイスしての強烈な加速はドラマチックだ。回していくとベテラン職人の心意気が感じられる。排気サウンドも耳に心地よい。クロスレシオの6速MTは、変速ゲートの選択に慣れを必要とするが、剛性感たっぷりだ。クラッチ踏力もさほど重くないので積極的に変速を楽しむことができた。


サスペンションは、フロントがストラット、リアはダブルウイッシュボーンだ。フロントには名門ビルシュタイン製の倒立式ダンパーを採用している。AWDシステムはスバル独自のシンメトリカルAWDで、自慢の電子制御マルチモードDCCDを組み合わせた。撮影した日はあいにくの雨だったが、俊敏な差動制限の応答性を実現している。アクセルを閉じてコーナーに入ってもアンダーステアを意識させない。コーナーの入り口から軽やかにクルマが向きを変え、リアの巻き込みも上手に抑え込んでいる。


◆ずっと乗っていたい、と思わせるほど魅力的

ハンドリングは驚くほど素直だ。狙ったラインに無理なく乗せることができることに加え、アクセル操作によってコントロールできる範囲も広いから運転がうまくなったように感じられた。ステアリングを切ると鼻先が狙った方向に気持ちよく向きを変え、意のままの走りを楽しむことができる。

もうひとつ驚かされたのが装着されていた245/35 R19サイズのヨコハマゴム製のアドバンスポーツV105の実力だ。スバルのAWDシステムと鍛造のBBS製アロイホイールとの相性がいいハイパフォーマンスタイヤで、雨の中でもオン・ザ・レールの気持ちいい走りを存分に楽しめた。滑りやすい路面でも意のままに操ることができ、インフォメーションも的確だから安心感も高い。

操舵フィールはちょっと重いし、アイサイトも搭載されていないなど、時代に合わない弱点もある。が、ずっと乗っていたい、と思わせるほど魅力的なコンプリートカーだった。幸運にも、このファイナルエディションを手に入れることができた人がうらやましい。名機、EJ20型水平対向4気筒DOHC、数多くの感動をありがとう。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

片岡英明│モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

(レスポンス 片岡英明)

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