【試乗記】ホンダS660モデューロX(MR/6MT)

ホンダS660モデューロX(MR/6MT)
ホンダS660モデューロX(MR/6MT)

いいクルマ感 増し増し

ホンダの軽スポーツカー「S660」に純正オプションをたっぷりと組み込んだ、コンプリートカー「S660モデューロX」に試乗。自らS660を所有していた清水草一が、その乗り味の特徴をリポートする。

びっくりするほど使えない

コンプリートカー「ホンダS660モデューロX」は、2018年5月にデビュー。同年7月に販売がスタートした。
コンプリートカー「ホンダS660モデューロX」は、2018年5月にデビュー。同年7月に販売がスタートした。
インテリアは、ボルドーレッドとブラックの2トーンカラーで仕立てられる。
インテリアは、ボルドーレッドとブラックの2トーンカラーで仕立てられる。
「Moduro X」のロゴが入ったメーターパネル。ボタン操作で、画面の色調を白から赤(写真)に変えることができる。
「Moduro X」のロゴが入ったメーターパネル。ボタン操作で、画面の色調を白から赤(写真)に変えることができる。
「S660」の空力性能を煮詰め直した「S660モデューロX」。あらゆる速度域で高い接地性が得られるよう、さまざまなエアロパーツが装着されている。
「S660」の空力性能を煮詰め直した「S660モデューロX」。あらゆる速度域で高い接地性が得られるよう、さまざまなエアロパーツが装着されている。
「S660モデューロX」は台数限定の特別仕様車ではなく、カタログモデルとして販売されている。
「S660モデューロX」は台数限定の特別仕様車ではなく、カタログモデルとして販売されている。
私はS660の元オーナーです。発表会で感動してそのままディーラーに出向き、注文したのです。ただ、わずか半年で手放してしまいました。

S660の最大の美点は、ホンモノのスーパーカーをもしのぐコーナリング速度の高さや、“チビ・ランボルギーニ”的なスタイリッシュさ、小さなリアウィンドウがしっかり電動で開閉できるなどの芸の細かさ(=開発者の愛)等々ですが、実際オーナーになってみると、使い道がありませんでした。

もともとS660は、実用性はほぼ無視した軽のスーパーカーなので、使い道がないのは当然といえば当然なのですが、私はS660を買う以前から、長年フェラーリを所有していて、非日常的なスポーツカーはほかにもう1台あったので、使い道がないクルマが2台になるのは、家計への負担が重すぎたのです。タハ~。

実はS660は、ふだんの近所の移動に使うつもりだったのですが、ホンモノのスーパーカー同様、着座位置があまりにも低いため、乗り降りが大変で、プラス、コンビニでの買い物ですら荷物の置き場に困りました。よって、日がたつにつれて、ふだん乗ることはなくなりました。

では休日にドライブを楽しむかというと、S660の走りの魅力は、なんといってもコーナリング速度の高さです。つまりコーナーを攻めないと面白くない。でもコーナーを本気で攻めるなんて、公道ではなかなかできるもんじゃない。

S660最大の弱点は、エンジンが軽自動車そのもので、パワーもフィーリングも、スーパーカーとしては面白みに欠けることです。つまり、たまに軽くドライブしても、なんだかあんまり面白くない。ふだん乗りにはキツイ、たまのドライブも、流す程度じゃ燃えない。いいのは本気でサーキットを攻めるとか、そういう時しかない。

エンジンをROMチューンして刺激的にすればイケるだろうとも思っていましたが、実はS660のエンジンには、パワーアップの余裕がほとんどないとのことで、ROMチューンもあまり効果がないと聞いて、半年で手放してしまったのです。

コンプリートカー「ホンダS660モデューロX」は、2018年5月にデビュー。同年7月に販売がスタートした。
コンプリートカー「ホンダS660モデューロX」は、2018年5月にデビュー。同年7月に販売がスタートした。
インテリアは、ボルドーレッドとブラックの2トーンカラーで仕立てられる。
インテリアは、ボルドーレッドとブラックの2トーンカラーで仕立てられる。
「Moduro X」のロゴが入ったメーターパネル。ボタン操作で、画面の色調を白から赤(写真)に変えることができる。
「Moduro X」のロゴが入ったメーターパネル。ボタン操作で、画面の色調を白から赤(写真)に変えることができる。
「S660」の空力性能を煮詰め直した「S660モデューロX」。あらゆる速度域で高い接地性が得られるよう、さまざまなエアロパーツが装着されている。
「S660」の空力性能を煮詰め直した「S660モデューロX」。あらゆる速度域で高い接地性が得られるよう、さまざまなエアロパーツが装着されている。
「S660モデューロX」は台数限定の特別仕様車ではなく、カタログモデルとして販売されている。
「S660モデューロX」は台数限定の特別仕様車ではなく、カタログモデルとして販売されている。

変えればいいってもんじゃない

「S660モデューロX」は、「S660」の製造ラインで純正オプションを組み込む生産手法により、比較的安価に量産することが可能となっている。
「S660モデューロX」は、「S660」の製造ラインで純正オプションを組み込む生産手法により、比較的安価に量産することが可能となっている。
フロントまわりは、グリル一体型の専用バンパーやLEDフォグライトが特徴。
フロントまわりは、グリル一体型の専用バンパーやLEDフォグライトが特徴。
電動式のリアスポイラーには、リアのスタビリティーを一段と向上させるガーニーフラップが添えられる。
電動式のリアスポイラーには、リアのスタビリティーを一段と向上させるガーニーフラップが添えられる。
マフラーエンドはセンターの1本出し。その上方に専用のロアバンパーが装着される。
マフラーエンドはセンターの1本出し。その上方に専用のロアバンパーが装着される。

ということで、ノーマルS660に足りないものは、日常的な走りの楽しさであることは、よく理解しています。

「あの低い着座位置やオープンカーというだけでも、非日常的で楽しいじゃない!」そうおっしゃる方も、もちろん多数いらっしゃるでしょうが、強い刺激に慣れてしまっている私には、それでは物足りませんでした。申し訳ありません。

で、ここからようやく、S660モデューロXの話に入ります。メーカーがディーラーで販売してくれるコンプリートチューニングカーです。このクルマについては、すでにいろいろなところで報道されているので、説明はごく簡単にしておきますが、チューニングの内容は、

  • エアロ(エクステリア)
  • インテリア
  • 足まわり

この3つです。残念ながら、最も望まれるエンジンのチューニングは、やはり行われていません。マフラーもノーマルのままです。

まずエアロについて。見た目は「それなりにアグレッシブ」というところでしょう。特にフロントのエアダム部は、かなりグワッと攻撃的になっていますが、もとのクルマのサイズの小ささもあって、周囲にプレッシャーを与えるほどのものではありません。ただ個人的には、ノーマルの方が、デザイン的な完成度はずっと高いと思いました。そんなにハデではないけれど、どこか取って付けた感はあるし、少し子供っぽく見えます。

リアは、アクティブスポイラーに黒いガーニーフラップが付いたことと、ロアバンパーが追加されている程度。視覚的には、「ちょこっといじってる」くらいで、上品にまとまっています。

「S660モデューロX」は、「S660」の製造ラインで純正オプションを組み込む生産手法により、比較的安価に量産することが可能となっている。
「S660モデューロX」は、「S660」の製造ラインで純正オプションを組み込む生産手法により、比較的安価に量産することが可能となっている。
フロントまわりは、グリル一体型の専用バンパーやLEDフォグライトが特徴。
フロントまわりは、グリル一体型の専用バンパーやLEDフォグライトが特徴。
電動式のリアスポイラーには、リアのスタビリティーを一段と向上させるガーニーフラップが添えられる。
電動式のリアスポイラーには、リアのスタビリティーを一段と向上させるガーニーフラップが添えられる。
マフラーエンドはセンターの1本出し。その上方に専用のロアバンパーが装着される。
マフラーエンドはセンターの1本出し。その上方に専用のロアバンパーが装着される。

違いのわかる足さばき

本革とラックススエードで仕立てられた専用スポーツシート。ヘッドレストには「Modulo X」ロゴが添えられる。
本革とラックススエードで仕立てられた専用スポーツシート。ヘッドレストには「Modulo X」ロゴが添えられる。
2トーンカラーのステアリングホイール。スポーク上に、カーオーディオやクルーズコントロールの操作スイッチがレイアウトされる。
2トーンカラーのステアリングホイール。スポーク上に、カーオーディオやクルーズコントロールの操作スイッチがレイアウトされる。
「S660モデューロX」には、5段階減衰力調整機構付きの専用サスペンションが装着されている。
「S660モデューロX」には、5段階減衰力調整機構付きの専用サスペンションが装着されている。
ステルスブラック塗装が施されたアルミホイール。サイズはフロントが15インチで、リアは16インチの異径となる。
ステルスブラック塗装が施されたアルミホイール。サイズはフロントが15インチで、リアは16インチの異径となる。
インテリアで目立つのは、専用スポーツレザーシートです。色はボルドーレッド×ブラックで、モデューロのロゴ入りです。その他ステアリングやサイドブレーキ、ダッシュボードなどにもボルドーレッドが多用されていて、各所にモデューロのロゴも。全体的にノーマルに比べると、かなりハデでゴージャスになっています。

しかしこれも個人的には、趣味がいまひとつだなぁと感じました。赤を使えばいいってもんじゃない、とでも申しましょうか。ボルドーレッドの色調そのものもイマイチだし、私はノーマルの方が好きです。エクステリアもノーマルの方がいいので、内外装とも、私の趣味ではありませんでした。重ね重ねスミマセン。

では、走りはどうか。

変更されているのは「専用サスペンション」と「ブレーキディスク(ドリルドタイプ)」「スポーツブレーキパッド」のみ。アルミホイールも専用だけど、そちらはルックスが目的で、走りにはほぼ関係ないです。

ゆっくり走っていると、フィーリングはノーマルとほとんど違わないんですが、60km/hくらいから、足まわりのしっとり感がはっきり感じられます。微細な入力はカットされて、大きなうねりはすばやく収束する。フラット感の高い、とても高級な足さばきです。

本革とラックススエードで仕立てられた専用スポーツシート。ヘッドレストには「Modulo X」ロゴが添えられる。
本革とラックススエードで仕立てられた専用スポーツシート。ヘッドレストには「Modulo X」ロゴが添えられる。
2トーンカラーのステアリングホイール。スポーク上に、カーオーディオやクルーズコントロールの操作スイッチがレイアウトされる。
2トーンカラーのステアリングホイール。スポーク上に、カーオーディオやクルーズコントロールの操作スイッチがレイアウトされる。
「S660モデューロX」には、5段階減衰力調整機構付きの専用サスペンションが装着されている。
「S660モデューロX」には、5段階減衰力調整機構付きの専用サスペンションが装着されている。
ステルスブラック塗装が施されたアルミホイール。サイズはフロントが15インチで、リアは16インチの異径となる。
ステルスブラック塗装が施されたアルミホイール。サイズはフロントが15インチで、リアは16インチの異径となる。

いくらでも振り回せる

ブレーキ系もノーマルからアップグレード。放熱性に優れるドリルドタイプのブレーキディスクとスポーツブレーキパッドが組み込まれている。
ブレーキ系もノーマルからアップグレード。放熱性に優れるドリルドタイプのブレーキディスクとスポーツブレーキパッドが組み込まれている。
今回はチタン製シフトノブ(写真)が装着される6段MT車に試乗した。ほかにCVT車も用意される。
今回はチタン製シフトノブ(写真)が装着される6段MT車に試乗した。ほかにCVT車も用意される。
ボディーカラーは「S660モデューロX」専用色の「アラバスターシルバーメタリック」を含む全4色が設定される。
ボディーカラーは「S660モデューロX」専用色の「アラバスターシルバーメタリック」を含む全4色が設定される。
キャビン後方に横置きされる0.66リッター直3ターボエンジン。「S660モデューロX」用のチューニングは、一切施されていない。
キャビン後方に横置きされる0.66リッター直3ターボエンジン。「S660モデューロX」用のチューニングは、一切施されていない。
今回は、高速道路を主体におよそ260kmの距離を試乗。燃費は満タン法で14.1km/リッター、車載の燃費計で15.3km/リッターを記録した。
今回は、高速道路を主体におよそ260kmの距離を試乗。燃費は満タン法で14.1km/リッター、車載の燃費計で15.3km/リッターを記録した。
ノーマルのS660も、決して乗り心地が悪いクルマじゃないですが、この値段でこの軽さでこのコーナリング性能ならこれで十分だな、というレベルでした。ところがモデューロXは、明らかに乗り味が高級になっている。

実はこの乗り味、特に高速道路でのフラット感に関しては、エアロによる効果もかなりの部分を占めているらしいけれど、私はただ「乗り心地がしなやかだ!」と感心するのみでした。

コーナリングでも基本的には同じ。しなやかな分、安定感が高く感じます。限界が上がったせいなのか? 上りのタイトコーナーでは、アウト側のタイヤがつんのめるようなピッチングが感じられましたが、スタビリティーがとても高いので、何が起きても大丈夫、いくらでも振り回せるゼ! という安心感があります。

S660モデューロX最大の美点は、この乗り心地の高級感と、安定感の高さでしょう。60km/hくらいから上で、常に「オレ、いいクルマに乗ってるなぁ」と思えるので、日常的な運転の楽しみは、確実に増えるはずです。内外装の趣味が合えば、285万円という価格も、お買い得だと言えます。

最後に、エンジンについて触れておきましょう。

実は試乗車で一番感心したのは、エンジンフィールの滑らかさでした。私が所有していた個体はもちろんのこと、ほかのS660(ホンダの広報車)と比べても、明らかにエンジンがシュオーンと気持ちよく回るのです。私の感覚では、これはピストン+コンロッドやバルブの重量バランス取りをした、レーシングチューンです。

しかし、モデューロXは、パワートレインは一切いじっていないはず。つまりこのフィールは、この個体特有のものでしょうが、 とにかくこれは気持ちイイ! パワーアップが無理でも、こういうファインチューンはアリだったんだなぁ。もちろんエンジン部品のバランス取りは、実際やろうと思ったら、とても手間がかかるけど。

(文=清水草一/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)

ブレーキ系もノーマルからアップグレード。放熱性に優れるドリルドタイプのブレーキディスクとスポーツブレーキパッドが組み込まれている。
ブレーキ系もノーマルからアップグレード。放熱性に優れるドリルドタイプのブレーキディスクとスポーツブレーキパッドが組み込まれている。
今回はチタン製シフトノブ(写真)が装着される6段MT車に試乗した。ほかにCVT車も用意される。
今回はチタン製シフトノブ(写真)が装着される6段MT車に試乗した。ほかにCVT車も用意される。
ボディーカラーは「S660モデューロX」専用色の「アラバスターシルバーメタリック」を含む全4色が設定される。
ボディーカラーは「S660モデューロX」専用色の「アラバスターシルバーメタリック」を含む全4色が設定される。
キャビン後方に横置きされる0.66リッター直3ターボエンジン。「S660モデューロX」用のチューニングは、一切施されていない。
キャビン後方に横置きされる0.66リッター直3ターボエンジン。「S660モデューロX」用のチューニングは、一切施されていない。
今回は、高速道路を主体におよそ260kmの距離を試乗。燃費は満タン法で14.1km/リッター、車載の燃費計で15.3km/リッターを記録した。
今回は、高速道路を主体におよそ260kmの距離を試乗。燃費は満タン法で14.1km/リッター、車載の燃費計で15.3km/リッターを記録した。

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