【海外試乗記】フォルクスワーゲン・ゴルフ1.5 eTSI(FF/7AT)/ゴルフ2.0 TDI(FF/7AT)

フォルクスワーゲン・ゴルフ1.5 eTSI(FF/7AT)/ゴルフ2.0 TDI(FF/7AT)
フォルクスワーゲン・ゴルフ1.5 eTSI(FF/7AT)/ゴルフ2.0 TDI(FF/7AT)

その日までは譲れない

フォルクスワーゲン(VW)の「ゴルフ」が8代目に生まれ変わった。車車間通信や対話型インフォテインメントシステムを採用するなど、今回のモデルチェンジをひと言で表すならば“デジタライゼーション”だ。ハッチバック車のベンチマークの、最新モデルの仕上がりやいかに!?

遅ればせながら改訂

2019年10月にドイツ・ウォルフスブルクで発表された8代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」(写真中央)。FFレイアウトのハッチバック車というパッケージングは歴代モデルと同じだ。
2019年10月にドイツ・ウォルフスブルクで発表された8代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」(写真中央)。FFレイアウトのハッチバック車というパッケージングは歴代モデルと同じだ。
基本車台は先代モデルと同じフォルクスワーゲン グループのエンジン横置きプラットフォーム「MQB」。上位グレードではフロントサブフレームをアルミ化するなどのブラッシュアップを図っている。
基本車台は先代モデルと同じフォルクスワーゲン グループのエンジン横置きプラットフォーム「MQB」。上位グレードではフロントサブフレームをアルミ化するなどのブラッシュアップを図っている。
フロントマスクはよりロー&ワイドなイメージに。全高は1456mmと、先代モデルよりも36mm低められている。
フロントマスクはよりロー&ワイドなイメージに。全高は1456mmと、先代モデルよりも36mm低められている。
リアスタイルはほとんど変わっていない。「く」の字型の太いCピラーの形など、ひと目で「ゴルフ」とわかる形状を保っている。
リアスタイルはほとんど変わっていない。「く」の字型の太いCピラーの形など、ひと目で「ゴルフ」とわかる形状を保っている。
1974年の発売以来、世界各国で累計3500万台以上が販売されたVWゴルフがモデルチェンジして8代目となった。2019年末に本国ドイツで発売され、日本導入は2020年末か2021年前半とアナウンスされていたが、COVID-19の影響でどうなるか先行き不透明になった。少なくとも2020年中の導入はなくなったとみるのが自然だろう。ただ、待っていればいずれ必ず入ってくる。相手はウイルス(の対策をする政治かもしれないが)。じっくり待つしかない。というわけで、昨2019年末にメディア向け国際試乗会で乗ったゴルフVIIIの印象を報告したい。

ゴルフといえば、CセグメントのFFハッチバックの基礎を固めたクルマであり、世界中の自動車メーカーからFF車のお手本として研究されてきた。VIIからVIIIへ。ゴルフのモデルチェンジは常に世界中のクルマ好きおよび自動車メーカーの関心事だ。FFハッチバックのベンチマークとして、他社にとっては新学期に新しい教科書が配られるようなもの。しかしその教科書をつくってきたVWが2015年にディーゼルスキャンダルを起こし、権威がかなり揺らいだ。そのせいで改訂のスケジュールが多少遅れたが、このほどようやく新しい教科書ができ上がったというわけだ。

新型は2012年に登場したゴルフVIIと同じエンジン横置き用モジュラープラットフォーム「MQB」を引き続き採用する。VIIは2017年に改良が加えられて「VII PA」、通称ゴルフ7.5へと進化したこともあって、登場から7年たった今でもハンドリングや乗り心地、効率のいずれをとってもライバルと戦える力を保っている。プラットフォームを引き続き採用といっても、何も変わっていないわけではない。上級グレードのフロントサブフレームをアルミ化するといったブラッシュアップが図られた。VII同様、廉価版のリアサスはトーションビームで、豪華版のそれはマルチリンクだ。

2019年10月にドイツ・ウォルフスブルクで発表された8代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」(写真中央)。FFレイアウトのハッチバック車というパッケージングは歴代モデルと同じだ。
2019年10月にドイツ・ウォルフスブルクで発表された8代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」(写真中央)。FFレイアウトのハッチバック車というパッケージングは歴代モデルと同じだ。
基本車台は先代モデルと同じフォルクスワーゲン グループのエンジン横置きプラットフォーム「MQB」。上位グレードではフロントサブフレームをアルミ化するなどのブラッシュアップを図っている。
基本車台は先代モデルと同じフォルクスワーゲン グループのエンジン横置きプラットフォーム「MQB」。上位グレードではフロントサブフレームをアルミ化するなどのブラッシュアップを図っている。
フロントマスクはよりロー&ワイドなイメージに。全高は1456mmと、先代モデルよりも36mm低められている。
フロントマスクはよりロー&ワイドなイメージに。全高は1456mmと、先代モデルよりも36mm低められている。
リアスタイルはほとんど変わっていない。「く」の字型の太いCピラーの形など、ひと目で「ゴルフ」とわかる形状を保っている。
リアスタイルはほとんど変わっていない。「く」の字型の太いCピラーの形など、ひと目で「ゴルフ」とわかる形状を保っている。

進むデジタル化

デジタル化が進んだことでダッシュボードは極めてシンプルな造形に。「ハロー、フォルクスワーゲン」の掛け声で起動する音声認識システムも備えている。
デジタル化が進んだことでダッシュボードは極めてシンプルな造形に。「ハロー、フォルクスワーゲン」の掛け声で起動する音声認識システムも備えている。
灯火類とデフロスターの操作系はメーターパネルの左側にレイアウトされる(左ハンドル車の場合)。ボタンではなくすべてタッチスイッチとなっている。
灯火類とデフロスターの操作系はメーターパネルの左側にレイアウトされる(左ハンドル車の場合)。ボタンではなくすべてタッチスイッチとなっている。
ダッシュボードの中央にもタッチスイッチが集約されたエリアが用意される。
ダッシュボードの中央にもタッチスイッチが集約されたエリアが用意される。
「CLIMA」と書かれたスイッチをタッチするとエアコンのセッティングモードが起動する。室温や風量などの基本的な設定は、スクリーンの下にあるタッチスライダーでコントロール可能。
「CLIMA」と書かれたスイッチをタッチするとエアコンのセッティングモードが起動する。室温や風量などの基本的な設定は、スクリーンの下にあるタッチスライダーでコントロール可能。
サイズはさほど変わっていない。全長が26mm伸び、全高が36mm低くなった。低くなって前面投影面積が減った。Cd値も0.3から0.275へと向上した。全体が低くなった分だけ重心が低そうに見える。とはいえスタイリングはいつものゴルフだ。太いCピラーが折れ曲がってボディーになじんでいく伝統も守られた。灯火類にLEDを多用するなど新しさを演出しているが、外観については“デザインし過ぎ”を我慢したベストセラーカーらしいモデルチェンジといえる。

モデルチェンジをひと言で表現するなら“デジタライゼーション”ということになる。運転席まわりの環境は一変した。センターパネルの物理的なスイッチが激減し、カーナビやオーディオ、エアコンなどは8.25インチのスクリーンをタッチして操作する。または「ハロー、フォルクスワーゲン」と呼びかけて音声認識システムを起動させ、会話するように各機能を呼び出すこともできる。AIアシスタント「アレクサ」も組み込まれるが、インポーターによれば言語対応の問題から日本仕様には装備されない可能性が高いという。さらに、現段階では組み込まれていないが、近い将来にはアップデートによってスマホで施錠/解錠ができるようになり、キーが不要になる。

eSIMが車載されており、常時クラウドとのデータ通信が可能なため、最新情報を入手して渋滞回避したり、ストリーミング音楽を楽しんだりできる。あらかじめIDをクラウド上に登録し、シートポジションなど好みの設定を登録しておけば、レンタカーなどで別のゴルフに乗った場合にその設定を再現できるなど、シェアリング社会を見越した機能も備わった。本国仕様にはVWが「Car2X」と呼ぶ車車間通信、路車間通信システムを活用し、例えば先行車のブレーキ操作に連動して自車のブレーキランプを点灯させ、後続車の追突を防ぐといった機能も備わるが、通信規格の都合上、日本仕様には少なくとも導入と同時には搭載されない。

デジタル化が進んだことでダッシュボードは極めてシンプルな造形に。「ハロー、フォルクスワーゲン」の掛け声で起動する音声認識システムも備えている。
デジタル化が進んだことでダッシュボードは極めてシンプルな造形に。「ハロー、フォルクスワーゲン」の掛け声で起動する音声認識システムも備えている。
灯火類とデフロスターの操作系はメーターパネルの左側にレイアウトされる(左ハンドル車の場合)。ボタンではなくすべてタッチスイッチとなっている。
灯火類とデフロスターの操作系はメーターパネルの左側にレイアウトされる(左ハンドル車の場合)。ボタンではなくすべてタッチスイッチとなっている。
ダッシュボードの中央にもタッチスイッチが集約されたエリアが用意される。
ダッシュボードの中央にもタッチスイッチが集約されたエリアが用意される。
「CLIMA」と書かれたスイッチをタッチするとエアコンのセッティングモードが起動する。室温や風量などの基本的な設定は、スクリーンの下にあるタッチスライダーでコントロール可能。
「CLIMA」と書かれたスイッチをタッチするとエアコンのセッティングモードが起動する。室温や風量などの基本的な設定は、スクリーンの下にあるタッチスライダーでコントロール可能。

ノーモア“不便なガイシャ”

1.5リッター直4ターボエンジン+48Vマイルドハイブリッドの「1.5 eTSI」では、純ガソリンモデルの「1.5 TSI」よりも10%ほど良好な燃費が得られるという。
1.5リッター直4ターボエンジン+48Vマイルドハイブリッドの「1.5 eTSI」では、純ガソリンモデルの「1.5 TSI」よりも10%ほど良好な燃費が得られるという。
テスト車にはマイクロフリースとファブリックのコンビ表皮のスポーツシートが装着されていた。
テスト車にはマイクロフリースとファブリックのコンビ表皮のスポーツシートが装着されていた。
全高が低くなっているが、ヘッドルームとショルダールームの広さは先代モデルとほとんど変わっていないとのこと。
全高が低くなっているが、ヘッドルームとショルダールームの広さは先代モデルとほとんど変わっていないとのこと。
日本導入予定の2モデルは、いずれも7段のデュアルクラッチ式ATが組み合わせられる。シフトセレクターは新たにバイワイヤ式が採用された。
日本導入予定の2モデルは、いずれも7段のデュアルクラッチ式ATが組み合わせられる。シフトセレクターは新たにバイワイヤ式が採用された。
近ごろは自動車の安全基準やエミッションをワールドハーモナイズド、すなわち国際協調することで、メーカーが仕向け地ごとに対応する労力を軽減しようとする動きが見られるが、通信規格についてもこの流れに沿っていかないと、輸入車の重要な機能が日本で使えないという悲しい出来事が増えていく。ワイパーの作動方向が逆だったりペダルレイアウトが最悪だったり、そもそも左ハンドルだったりと、昭和のガイシャ乗りは苦労を重ねてきたわけだが、その令和版が生じかねない。

試乗したのは、日本仕様として予定されている1.5リッター直4ガソリンターボに48V電源システムとマイルドハイブリッドが組み合わせられた「1.5 eTSI」と、2リッター直4ディーゼルターボの「2.0 TDI」の2モデル。いずれも7段デュアルクラッチトランスミッションとの組み合わせ。eTSIには最大トルク50N・mのスタータージェネレーターモーターが備わり、加速をほんのりアシストするほか、減速時には回生にいそしむ。モーターが備わることで、アイドリングストップからほぼ振動ゼロで再始動する。(本国には)マイルドハイブリッドではない仕様もあるが、最高出力や最大トルクなどのピーク性能は同じ。現行型の主力である1.4リッターガソリンターボよりも明確に力強いわけではないが、給油の頻度は減るはずだ。

ディーゼルエンジンは基本的に現行型と同じもの。低回転からトルクがもりもり立ち上がるのではなく、ディーゼルらしからぬスムーズさで高回転まで回り、それによって力を得るタイプだ。新型は排ガスに対してアドブルーを2度噴きかけるツインドージングシステムを採用し、排ガスをよりクリーンにしたという。

1.5リッター直4ターボエンジン+48Vマイルドハイブリッドの「1.5 eTSI」では、純ガソリンモデルの「1.5 TSI」よりも10%ほど良好な燃費が得られるという。
1.5リッター直4ターボエンジン+48Vマイルドハイブリッドの「1.5 eTSI」では、純ガソリンモデルの「1.5 TSI」よりも10%ほど良好な燃費が得られるという。
テスト車にはマイクロフリースとファブリックのコンビ表皮のスポーツシートが装着されていた。
テスト車にはマイクロフリースとファブリックのコンビ表皮のスポーツシートが装着されていた。
全高が低くなっているが、ヘッドルームとショルダールームの広さは先代モデルとほとんど変わっていないとのこと。
全高が低くなっているが、ヘッドルームとショルダールームの広さは先代モデルとほとんど変わっていないとのこと。
日本導入予定の2モデルは、いずれも7段のデュアルクラッチ式ATが組み合わせられる。シフトセレクターは新たにバイワイヤ式が採用された。
日本導入予定の2モデルは、いずれも7段のデュアルクラッチ式ATが組み合わせられる。シフトセレクターは新たにバイワイヤ式が採用された。

お手本としての意地

「2.0 TDI」の2リッターディーゼルターボエンジンは最高出力150PS、最大トルク360N・mを発生。アドブルーの噴射方式を改良して排ガスをよりクリーンにした一方で、最大トルクが20N・mアップした(最高出力は変わりなし)。
「2.0 TDI」の2リッターディーゼルターボエンジンは最高出力150PS、最大トルク360N・mを発生。アドブルーの噴射方式を改良して排ガスをよりクリーンにした一方で、最大トルクが20N・mアップした(最高出力は変わりなし)。
eSIMが搭載されており、いつでもクラウドから最新の情報をダウンロード可能。写真のようにアプリの追加購入もできる。
eSIMが搭載されており、いつでもクラウドから最新の情報をダウンロード可能。写真のようにアプリの追加購入もできる。
ラゲッジスペースの容量は380~1237リッター。先代モデルよりも最大時の容量が37リッター増えている(最小時の容量は同じ)。
ラゲッジスペースの容量は380~1237リッター。先代モデルよりも最大時の容量が37リッター増えている(最小時の容量は同じ)。
VIIとVIIIとではまるで違う! と叫んでしまうような激変ではなく、全方位的に少しずつよくなったモデルチェンジだ。依然ハッチバックのベンチマークたり得るとは思う。けれどもライバルの台頭によって、以前ほどずぬけた存在ではなくなったようにも感じる。「メルセデス・ベンツAクラス/Bクラス」や「BMW 1シリーズ/2シリーズ」「トヨタ・カローラ」「マツダ3」、そして「MINI」など、先にデビューしてなお新型ゴルフを上回る部分をもつ存在も少なくないが、ゴルフの上質で快適な乗り味からは長年お手本といわれてきた存在としての意地を感じたのも事実だ。今回見聞きしたデジタライゼーションのうちのどの程度が日本で使えるのか現時点ではわからないため、日本導入後でないと良しあしの判断は下せない。ゴルフファンにとってはしばらく待ち遠しい期間が続く。

ところでゴルフの幅広いラインナップから、純電気自動車(BEV)の「e-ゴルフ」が落ちた。代わりにBEV専用モデルの「ID.3」が発売される。「代わりに」というより、e-ゴルフがID.3としてゴルフファミリーから独立するといったほうが正しいかもしれない。かつてハイブリッド専用車の「トヨタ・プリウス」がカローラからベストセラーの座を奪ったように、いつかはID.3がゴルフに取って代わる日がくるのかもしれない。内燃機関を有するクルマが将来すべてBEVに切り替わるわけではないように、すべてのゴルフがID.3に取って代わられるわけではないだろうが、電力事情と政策次第で“主流”が切り替わる市場は意外に少なくないのではないだろうか。

(文=塩見 智/写真=フォルクスワーゲン/編集=藤沢 勝)

「2.0 TDI」の2リッターディーゼルターボエンジンは最高出力150PS、最大トルク360N・mを発生。アドブルーの噴射方式を改良して排ガスをよりクリーンにした一方で、最大トルクが20N・mアップした(最高出力は変わりなし)。
「2.0 TDI」の2リッターディーゼルターボエンジンは最高出力150PS、最大トルク360N・mを発生。アドブルーの噴射方式を改良して排ガスをよりクリーンにした一方で、最大トルクが20N・mアップした(最高出力は変わりなし)。
eSIMが搭載されており、いつでもクラウドから最新の情報をダウンロード可能。写真のようにアプリの追加購入もできる。
eSIMが搭載されており、いつでもクラウドから最新の情報をダウンロード可能。写真のようにアプリの追加購入もできる。
ラゲッジスペースの容量は380~1237リッター。先代モデルよりも最大時の容量が37リッター増えている(最小時の容量は同じ)。
ラゲッジスペースの容量は380~1237リッター。先代モデルよりも最大時の容量が37リッター増えている(最小時の容量は同じ)。

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