売上高30兆円になっても豊田社長が危機感をあおる理由

トヨタ自動車の会見の様子
トヨタ自動車が5月8日に発表した2019年3月期連結決算は、売上高が30兆2256億円(前期比2.9%増)と日本企業としては初めて30兆円を超えた。営業利益も2兆4675億円(同2.8%増)となり、過去最高だった2016年3月期(2兆8539億円)に次ぐ数字だった。

2020年3月期の業績予想についても、売上高30兆円(同0.7%減)、営業利益2兆5500億円(同3.3%増)と好業績が続く。しかし、豊田章男社長からは一切笑顔が見えなかった。逆に厳しい表情を浮かべるほどだった。そして、こんな言葉を発していた。

「原価を作り込む活動とか、トヨタらしさを取り戻す風土改革はまだまだ道半ばだと思う」「パラダイム的な変化に対しては、対応のスピードという点においてまだ大きな課題が見つかったのではないか」「トヨタらしさを取り戻すこと、そしてトヨタらしい企業風土、文化の再構築については私の代でやる覚悟だ」

このように豊田社長の口からは社内を引き締める言葉が続く。それはトヨタ自動車の伝統なのかもしれない。豊田章一郎社長(当時)は常に「勝って兜の緒を締めよ」と社内に向かって檄を飛ばしていた。

奥田碩社長(当時)は「自信がいつの間にか過信になり、それが慢心やおごりにつながり、会社がおかしくなってしまう。経営者は社員が慢心やおごりを持たないように常に危機感を持たせることが重要だ」と話してくれたことがあった。

また、渡辺捷昭社長(当時)は「いつの間にかトヨタも大きな会社になり、社員が傲慢になっていないか、おごりがあるんではないか気を配る必要がある」と話していた。

会社の危機の芽は順風満帆なときに生まれやすいとよく言われるが、トヨタの経営者は内なる危機に常に気を配っている。それは豊田社長も同様だった。トヨタにとって最も脅威になるものはなにかという質問に対して、豊田社長は「トヨタは大丈夫だと思うこと」と述べ、こう付け加えた。

「私はなぜそんなに危機感をあおるんですかと言われる。私は危機感をあおっているのではなく、価値観を向上したいと思っている発言がこれに結びついていると思う。『トヨタは大丈夫でしょう、社長何を心配しているんですか』というのが、私にとって一番危険な言動何ではないかと思っている。たとえ危機感をあおりすぎと言われようが、価値観を上げることはお客さま、パートナー、トヨタにとってもいいことだと思っているので、これは続けていきたい」

そんな経営者の言動が日本一の企業を長い間維持でき、売上高30兆円を達成させたと言っていいだろう。

(レスポンス 山田清志)

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