とんでもなくリアハッピーな氷上EVカートを楽しむ…日本EVクラブの提案

氷上EVカートを楽しむ
EVの面白さはわかる人にはわかる。そしてこの楽しさは、内燃機関のクルマにも共通するもので、両立できるもの。……なのだが「EVなんて」と思っている人が少なくないのも事実だ。

たしかに日本の場合、大手メーカーがHVに注力しているので、業界もジャーナリストも、EV・PHEVをイロモノとして見ているような気がする。普及に時間がかかるのも事実だが、新しい技術や製品、価値を取り入れていかなければ、産業も社会も発展しない。EVを否定したところで、モビリティ革命が止まるわけでも、自動車が今より売れるようになるわけでもない。自動車業界に限らず、積極的に新しい市場を作っていかなければ、業界や経済の衰退は避けられない。

そういう大上段からの議論も野暮な話ではある。そこで、もっと気軽にモータースポーツや自動車を楽しんでもらおうと、日本EVクラブが企画、13日に開催したのが「氷上をEVカートで走る」というイベントだ。会場は横浜市にあるKOSE新横浜スケートセンター。一般的なスケートリンクにパイロンを立てた特設コースを走行する。大人用と子供用が各2台、合計4台のEVカート用意され、主催者のデモ走行のあと、報道陣や参加者の体験走行が行われた。

デモ走行では、御年79歳になるという元レーシングトセイバーで自動車評論家の津々見友彦氏とそのお孫さん(小学5年生)も参加した。お孫さんはカート初体験だそうだが、練習走行ですっかり気に入って、デモ走行でも軽快な走りを見せてくれた。

車両は一般的なエンジンカートのフレームに、燃料タンクの代わりにバッテリー、エンジンの部分にモーターを配置したカスタムカート。もともと構造がシンプルなカートなので、EV化もそれほど難しくない。モーターはブラシ付きの直流モーター。直流モーターなのでインバーターは必要なくECU風のコントローラー(弁当箱)が設置されるだけ。

大人用は最高出力4.8kWのモーターが1台。バッテリーは一般的な鉛蓄電池。12Vのものを直列につなぎ48Vで容量は1.62kWhとなっている。子供用は、小型のモーターを2個、左右の後輪を別々に駆動する。モーターの最高出力は2個で2kW。バッテリーはリーフのバッテリーの再利用で30V 1.5kWhとなっている。子供用は2モーターなので、細かいトルク制御が可能になっている。

氷上で走行するため、タイヤはスタッドレスだが、さらに専用のスパイクを打ち込んだスペシャルタイヤ。カート用のスタッドレスは国内では入手できないそうで、アメリカより取り寄せた。

試乗コースはスケートリンク全面を利用したパイロンコース。奥にS字、手前に360度ターンのパイロンを入れたシンプルなもの。スパイク付きのスタッドレスタイヤとはいえ、EVカートは非常に「リアハッピー」な挙動を示す。

グリップしない氷上ということで、アンダーステアが気になるが、EVカートの場合アクセルオンですぐにリアがブレークする。コーナリングに舵角はほとんど必要なく、アクセルで姿勢を制御する感覚だ。コーナーの侵入がオーバースピード気味と思ったら、軽くブレーキを当てるだけですぐにフロントがインを向いてくれる。その動きを予想して早めのステアリング操作と慎重なアクセル操作を心掛ける。

逆にアクセル操作を誤るとすぐにスピンする。360度ターンでは、ドリフトアングルを保って回転させるのは簡単ではないが、クルマを操る感覚が楽しい。

EVカートは騒音や振動が少ないのもうれしい。エンジンカート乗りには物足りないかもしれないが、長時間のドライブでも疲れないし、だれでも簡単に操作でき参加のハードルが下がる。幅広い愛好者を増やすには重要なポイントだ。また、電動車は押し掛けでエンジンを始動させる必要がない。レーシングカートは原則押し掛けだ。初心者や子どもの場合、スタートは大人が押してやるいわゆる「殿様スタート」が必須となるが、EVカートはスイッチを入れたらすぐに走り出せる。

排ガスもないので、インドアでも特別な換気システムなど必要ない。スケートリンク側が許可さえすれば全国どのスケートリンクでも走行可能だろう。スパイクタイヤでリンクがダメになるという心配もあるが、アイスホッケーやフィギュアスケートと比較して、極端に氷が削れることはないという。仮に、アクセルオンのポイントにギャップやわだちができたとしても、溶かして再び凍らせればいいだけだ。

低速ながら、アクセルやハンドル操作が慎重になり、タイヤのグリップを積極的に意識する運転は、実際の自動車の運転テクニック向上にも寄与する。昨今、ブレーキの踏み間違い事故が多発しているが、高齢者に限らず運転テクニックの向上には、カートのような極めて原始的な挙動をする車両がとても役に立つ。

日本EVクラブ代表理事舘内端氏によれば、氷上EVカートの競技を次の冬に開催する意向があるという。詳細は未定だが、都市部の屋内スケートリンクで簡単に開催でき、参加ハードルも低い氷上EVカートは、都市型の新しいスポーツ、趣味として期待できるからだ。競技の形式は、タイムトライアル、複数台同時スタートのパシュート形式などのバリエーションが考えられている。

フォーミュラEも始まり、WRCもEVクラスを検討しているという。オリンピックも長期的な競技人口や社会の変化に対応すべく、スケボーやサーフィン、ボルダリングなどカジュアルな競技を増やしている。モータースポーツ界隈も、ライセンス人口や若年層の減少が長い間の課題となっている。オートテストのような取り組みも行われているし、若者人気が無視できないとして、ドリフト競技もJAF公認になった実績もある。

氷上EVカートは、始まったばかりで草の根モータースポーツの“種”の状態かもしれないが、今後の展開に注目したい。

(レスポンス 中尾真二)

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