メルセデスの最新モデルを乗り倒すドライビングアカデミー…AMG Dirving Academy BASIC-TRAINING

AMG Driving Academy BASIC TRAINING
自動車メーカーがスポーツモデルやモンスターカーをラインナップするが、一般公道でそれらの性能を必要とするシチュエーションはまずない。……とはよく言われるが、近年の車両技術に進化はめざましく、平均的なモデルでもかなりの運動性能を持っている。ミドルクラス以上の車両なら、通常走行において、その限界を超えるような状況は少なくなってきている。

◆変わる安全運転テクニック

ABS、トラクションコントロール、スピン防止の姿勢制御。さらには衝突被害軽減ブレーキ、車線逸脱防止、自動運転支援、自動パーキングといった機能が、ドライバーが意識しない範囲でクルマの安全、安定性を常にコントロールしている。今のクルマは、自分で運転しているようで、じつはかなりの部分をECUなり電子制御に依存、つまりクルマに運転してもらっている部分が多いともいえる。

いまのクルマは、軽自動車だって人間一人の運動エネルギーをはるかに超える「仕事」をしている。操作や安全機能について、電子制御を前提するのはむしろ当然だ。安全な運転は使っている機械・機能によって変わる。

昔のクルマは、タイヤとステアリング機構にダメージを与えるので据え切りはNGとされた。コーナリングではソーイング(ハンドルを少しずつ動かし、グリップを確かめながら曲がるテクニック)、ブレーキはポンピング、ABSは制動距離が延びる。これらの常識はいまや非常識であり間違いテクニックだ(例外的な状況はあるが)。

こんな認識を改めてさせられ、自分の運転がいかに最新技術に頼っていたかを気づかせてくれたのが、「AMG Driving Academy BASIC-TRAINING」(ドライビングアカデミーだ。メーカーやディーラーが主催する、安全運転やサーキット走行のドライビングスクールイベントのひとつだが、AMGのそれは、いくつかの特徴がある。

◆AMGドライビングアカデミーの特徴

まず、富士スピードウェイの本コース、ドリフトコース、ショートコース、パーキングエリアを使った豊富なトレーニングメニューだ。とくにFIA公認サーキットの本コース、しかも世界屈指の高速サーキットでのサーキット走行が可能なのは、AMGならではだろう。並みのスポーツカーで、サーキット走行1日はタイヤ・ブレーキが持たない。

メニューも実践的だ。パニックブレーキを習得させるためのメニューはさまざまなイベントでも行われるが、AMGのドライビングアカデミーは、ABSを効かせながらの障害物回避、フル加速からABSで制限区域に停止させる練習、ウェット路面でドリフト姿勢を維持させる定常円の練習など、一般の道路や緊急時の事故回避に役立つものが多い。制御設定の違いも体験させてもらえるので、冒頭で述べた電子制御のありがたみ、自分の運転を顧みるよい機会にもなっている。

講師陣も全員が国際格式レース経験者、現役レーシングドライバーだ。BASICトレーニングでは、片岡龍也選手、瀬在仁志選手がインストラクターを担当した。ADVANCEDには、中谷明彦選手、高木虎之介選手が担当した。中谷選手はチーフインストラクターも務めた。

今回取材したドライビングアカデミーは「BASIC-TRAINING」という位置づけで、朝の9時から夕方の5時半くらいまで丸一日かけて行うものだ。これとは別にADVANCEDという1泊2日で行うよりハードなトレーニングもある。日本国内ではないが、冬場には雪道や凍結路面のアカデミー、レーシングドライバーを目指す人や上級者向けのアカデミーもあるという。

BASICのトレーニング内容を見てみよう。なお、以下の説明は、実際のトレーニングプログラムの順番とは異なる。

◆ABS作動させながらのレーンチェンジ

基本はまずブレーキ操作だ。ABSを前提としたパニックブレーキが踏めるようになること。そして、その状態で障害物回避ができるようになることを目指す。富士のショートコースのバックストレートに目印パイロンと障害物パイロンを立てて行う。スタートから80km/hまで加速し、目印パイロンでフルブレーキを行い、そのまま障害物をよけて停止するという練習を行う。

古い世代は、ブレーキをロックさせてもステアリングを操作するときは、ブレーキを緩めるように叩き込まれているが、いまのABSはそんな操作は必要ない。右足を全力で踏み抜いてもおもしろいように曲がる。パニックブレーキを踏んだことがない人も、数回の練習で強いブレーキを踏めるようになっていた。

◆ドラッグレース&ボックスストップ

パニックブレーキが踏めるようになったら、停止位置を制御できるようにするトレーニングだ。ショートコースのホームストレートを2台同時にスタートし、ゴール地点にパイロンで作られたボックスにぴったりクルマを停める練習を行う。車両はE63SとGT53を使う。タイムは計測しないので、あくまで停止位置にしっかり収めることを目指す。

ドラッグレース方式のスタートになるが、GT53はモーターアシストにより出足は先行するものの、ブレーキングポイントあたりでは総出力で勝るE63Sに抜かれるパターンとなる。ただし、加速勝負に集中しているとブレーキングが遅れてオーバーランしてしまう。手前すぎると、ブレーキの踏力を調整して制動距離を調整する必要もある。

日ごろそんな意識でブレーキを踏むことはないが、さきほどの障害物回避の練習と合わせて、緊急時にはこれだけ強く踏めるということ、このスピードで止まれること、止まれないことが体験できる。

◆ドリフト練習

ドリフトコースの練習は難度が高い。スピードは30km/hから40km/hくらいの設定で、散水したアスファルト路面で定常円を描くわけだが、トラクションコントロールやESP(ブレーキの独立制御による姿勢制御機構)をフルに効かせた状態では、アンダーのまま回る。制御がフルに入っているので設定速度でドリフト状態を作ることは難しい。

次にESPをスポーツハンドリングモード(ドリフト状態を作りやすくするモード)で走行する。スポーツハンドリングモードでは、設定速度でもリアがブレークしてくれるが、逆に制御が難しい。多くの参加者が、アクセルオフとステアリングの戻し操作が遅れ気味となりスピンを繰り返してしまう。これは、練習を重ねるしかないのだが、カウンターステアは滑り出してから当てるのでは遅い。滑り出しをある程度予想して素早い反応と、アクセスの微妙な操作が必要だ。

最後に、ESPをOFFにしてトラクションコントロールの介入段階を切り替えて定常円の練習を行う。トラクションコントロールの設定は5、7、9と3通りを試す。9は制御がほとんどないモードでいちばん制御が難しいが、慣れている人にとっては、ドリフトさせやすいモードかもしれない。車両はC63を使ったのだが、リアをブレークさせようとちょっとアクセルを開けるだけで簡単に滑り出す。ドリフトの維持どころか、カウンターを当ててもスピン(つまり遅い)する人が続出した。

◆パイロンコースでオートクロス

パーキングエリアでは、A45Sによるタイムトライアル(ジムカーナ)が行われた。スラロームとS字、そしてゴールは決められた停止位置(ボックス)での完全停止を3本ほど走行する。ESPはONの状態なので、スピン防止、トラクションコントロールなどが入っている状態だ。

コースは単純だが、S字をいかにロスなく走るかがタイムに影響していた。スタート直後のスラロームはESPの介入が入るので、多少オーバースピードで入ってもなんとかクリアできる。だが、続くS字ではトラクションコントロールが入るようだと、微妙にタイムロスになってしまう。S字はけっこうきつく、スラロームというよりヘアピンの連続という曲がり方になる。A45Sは回頭性がいいので、コーナーアプローチのスピードを殺さず、無駄のない走りがタイムにつながっていた。

◆最新AMG車両を富士で乗り倒す隊列走行

アカデミーのメインともいえるのが、サーキット本コースの走行だ。安全のため先導車ありの隊列走行だが、ホームストレートではきっちり220km/hまで出すので、ストレスがたまるような隊列走行にはならない。車両はS63、E63、GT53が用意された。

本コースの走行では、ABSのブレーキ練習やスピードコントロールが生きてくる。AMGの車両で富士のストレートを200km/h以上で走行するのは、それほど難しくない。しかし、第1コーナーや奥のダンロップブリッジでしっかり減速できる感覚があるのとないのとでは、大きな違いがある。ドリフトの練習でのアクセルワークは、シケインから最終コーナーまでの上りコーナーが連続する区間で、アンダーステアがでないようにする操作につながっている。

◆参加者の層も厚いアカデミー

取材の最後に、神奈川県から参加した若いご夫婦に話を聞いてみた。ご主人はE63Sのオーナー。アカデミーを受講した感想は、「最新のAMG車両に乗れるのがいいですね。何回も走ったり、違うモデルの乗り比べもできるので、特性の違いなどがわかってよかったと思います」とのことだ。

奥様は、見学のみの参加だったが感想を聞いたところ、「じつはAT車の運転が苦手で、今回は見学だけにしました。普段は父親から譲ってもらったRX-7(FD)に乗っています」と予想外の返事。FD乗りにとっては、定常円の練習にサイドブレーキを使えない車両は満足できないのかもしれない。車両やインストラクター陣だけでなく、参加者の層も厚いのもドライビングアカデミーの特徴だ。

繰り返しになるが、最新モデルの最新機能をサーキットでフルに試せるという機会はめったにない。国内メーカーもメディア向けだけではなく、ユーザー向けにこのような機会をもっと与えるべきではないだろうか。

(レスポンス 中尾真二)

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