【オートモーティブワールド2017】86 の造り方、売り方、伝え方…発想のヒントはiPhone

トヨタ86開発のヒントはiPhoneにあった?(画像はイメージ)
「景気や会社の都合でスポーツカーづくりをやめるのはよくない」---トヨタのスポーツ車両統括部ZRチーフエンジニアの多田哲哉部長は、『86』というクルマのつくり方、売り方、伝え方、共生の道などについて「オートモーティブワールド2017」特別講演の中で語った。

多田部長は、86が登場する5年前、2007年ごろのモノづくりの潮流について、ハイテク業界不振などの背景に触れた。

「2007~2008年当時、ハイテク電機業界の不振があった。日本のハイテク産業全体の調子が悪かった中で、アップルは絶好調だった。iPhoneの中身には、日本メーカーの部品も入っている。そこで、アップルの“スマイルカーブ”にみる戦略に注目した。アップルは、iPhoneの中身を他国につくらせて、その売り方や遊び型に資産を集中させていた」

「ところが、日本メーカーは全部自前という姿勢が続いていた。そこでわれわれも、車両の企画とスポーツカルチャーに集中し、真ん中となる開発・製造はスバルと共同で進めることでコストを下げた」

スバルと共同で開発・製造することで、世に問うことができた86/BRZ。このクルマをどう売るか、どう伝えるかという点でも、iPhoneの存在が大きかった。

「iPhoneは、iTunesやさまざまなアプリとつながることで盛り上がっていく。それと同じ。自動車メーカーは、お客さんがディーラーでクルマを買ってくれてはじめて利益が出るというビジネスモデルの中にある。でもいまは、クルマの販売台数が無限に増えるという幻想に終止符が打たれている。だから、われわれは、クルマを購入したときから、また新しい商売が始まることを考えた」

「これまでクルマのPRは、記者を集めて、性能や機能、走り、プライスを延々と説明するのが定番だったが、このハチロクは『スポーツカーはカルチャー』と位置づけ、そうした説明をいっさい行わなかった。いっしょに峠に行こう、写真を撮ろう、遊ぼうと。さらにサーキットで走ってみるとか、カスタマイズしようとか、次々とそうした場をつくっていった」

iPhoneにありとあらゆるサードパーティ製アイテムがあるのと同じく、86にもカスタム系パーツやアイテムが多く出回った。その理由のひとつにこのクルマの販売台数やユーザー像を挙げた。

「販売台数10万台が、サードパーティ参入のラインと言われるなか、86は20万台を突破し、いまもカスタマイズ商品が続々出ている。珍しい車種のひとつ。また、いま若い人が購入している。86は登場当時、かつてスポーツカーに憧れていたおじさんたちに売れたが、年を経るごとに20代の購入者が増えてきた。この動きはアメリカも同じだ」

(レスポンス 大野雅人)

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