パリダカで活躍のパジェロとスキーブームが生んだ、クロカン4WDブーム・・・1980~90年代に輝いた車&カルチャー
多くの若者がクルマに憧れた1980〜90年代。クルマは人や荷物を運ぶ道具としての役割だけでなく、若者たちのカルチャーを牽引する存在でした。そして、ドライブがデートの定番であり、クルマを持っていることがステータスでした。
だからこそ当時のクルマは、乗っていた人はもちろん、所有していなかった人、まだ運転免許すら持っていなかった人にも実体験として記憶に刻まれているのではないかと感じます。
そんな1980〜90年代の記憶に残るクルマたちを当時のカルチャーを添えながら振り返っていきましょう。
スキーブームとの相乗効果で、雪道に強いクロカンがブームに
クロスオーバータイプのSUVが世界的なブームになって久しいですね。1997年に初代トヨタ ハリアー(レクサス RX)が切り開いたラグジュアリーなクロスオーバーSUV市場。
その後、ドイツのプレミアムブランドが相次いでクロスオーバーSUVをデビューさせ、SUVブームが到来。現在では世界中の自動車メーカーがさまざまなクロスオーバーSUVを発売し、SUVはクルマ選びの王道になっています。
現在のSUVはオンロードでの乗り心地がよく、室内はモダンなイメージでデザインされているものが主流。燃費を向上させる技術も多く盛り込まれ、中には2WDしかないという車種もあります。
しかしSUVのルーツを辿れば軍用車、あるいは道なき道を果敢に走っていくためのアドベンチャーモデルになります。そこから乗用モデルとして開発されたクロカン4WDが登場しますが、これらは乗り心地など二の次で、荒れた場所でもきちんと前に進むことができることを最重視して開発されました。
初期の頃はクロカン4WDを選ぶのは趣味や仕事で悪路走破性が必要になる一部の人でした。ところがクロカン4WDが、1980年代後半から1990年代にかけて、日本で大ブームになります。そのきっかけを作ったのは三菱 パジェロでした。
ジープをノックダウン生産していた三菱が自社製クロカン4WDのパジェロを発売したのは1982年。しかし社内では開発時から「売れるわけがない」と言われていていたと言います。その読みは的中し、最初はほとんど注目されませんでした。
パジェロのオフロード性能はずば抜けていて、なんと1985年にはパリ・ダカールラリーで日本車初の総合優勝を果たしました。この快挙に世界中が驚きますが、日本ではまったく注目されません。それもそのはず。はるか彼方、アフリカの砂漠で行われているラリーのことを日本人は知らなかったのです。
世界一になったのに、なぜ話題にすらならないのか。それはドライバーが日本人ではないからに違いない。三菱は翌年から日本人ドライバーを出場させることにしました。そして抜擢されたのが、三菱の社員だった篠塚建次郎さんでした。
1987年、プロトタイプマシンのステアリングを握った篠塚さんは強豪を抑えて3位入賞を果たします。その模様を連日NHKが報じたことで、一気にパリダカ、そしてパジェロが知られるようになりました。
ある雑誌で筆者が篠塚さんにインタビューを行った際、篠塚さんは1987年のパリダカ前後で見える景色がまったく変わっと話していました。というのも、それまで月に数百台しか売れなかったパジェロが、最盛期には月に1万台以上もオーダーが入ったというのです。
1985年には関越自動車道が全線開通したことで東京から群馬〜新潟へのアクセスが容易になり、スキー人口が増加。そして1987年11月に公開された映画『私をスキーに連れてって』が大ヒットし、空前のスキーブームが訪れました。
週末になると関越自動車道はもちろん、アクセスする新目白通りもスキー場に向かうマイカーとスキーバスで大渋滞。関越自動車道に乗るために10km以上も車列ができるほどでした(ちなみにリフトは2時間待ち)。
スキーがこれだけ盛り上がると、雪道に強いクルマが求められるようになります。パリダカで3位入賞を果たしたパジェロが大ヒットしたのも必然と言えます。デビュー時は3ドアのみだったパジェロですが、1983年には5ドアのロングボディが追加されていました。これも仲間とみんなでスキーに行きたいという需要を満たすものでした。
1980年代といえばサーフィンブームが沸き起こり、“陸サーファー”まで登場しました。言うまでもなく陸サーファーはサーフィンをやらないのにサーフボードをクルマに積んでモテを狙った人たち。これと似たような現象がスキーでも現れます。週末の夜になるとルーフにスキー板を載せたパジェロが渋谷や六本木に現れ、ナンパに勤しむ姿をよく見かけたものです。
そう。現在だとスキーやスノーボード、あるいはサーフボードなどは痛むのを予防するために車内に積んだりルーフボックスの中にしまったりする人が圧倒的に多いもの。ところが当時はルーフキャリアに板を積むのがカッコよかったのですよね。カービングスキーが登場するはるか前の話。長くてカラフルなスキー板は重要なモテツールでした。
「あの人はロシニョールなんだ。チャラいよね」
「K2の板を使っているなんて、きっとスキーもうまいんだろうな」
ナンパされる側もクルマだけでなくスキー板もチェックしてその後の展開を考えていたようです。
パジェロは1991年1月に2代目へとフルモデルチェンジ。乗り心地がより乗用車ライクになり、初代以上のヒットモデルとなりました。
歴史あるキング・オブ・クロカン4WDも人気に
パジェロのヒットにより、他メーカーのクロカン4WD(当時はRV=レクリエーショナルヴィークルと呼ばれたりしましたね)も人気に火がつきます。より大型で高級感があるものに乗りたいという人が選んだのは1989年10月に登場した80系トヨタ ランドクルーザーでした。
1951年に登場したBJジープを祖に持つランドクルーザーは進化の過程でステーションワゴン系、ヘビーデューティー系、ライトデューティー系に分かれて、独自の進化を遂げました。
ランドクルーザー80はステーションワゴン系の系譜にあり、屈強な性能と快適性を備えた、文字通り“クロカン4WDの王様”です。多くの人がランクルに憧れましたが、高速道路やゲレンデに近い山道だけでなく、都市部の一般道も走ることを考えると大きすぎると感じる人も多くいました(とはいえ、1900mmという全幅は現在のクルマと比較するとそこまで幅広ではないのですが)。
そんな人たちは80系ではなくライトデューティー系のランドクルーザープラドに注目します。プラドは1990年4月に5ドアがラインナップに加わり、レジャー需要に対応しやすくなったのです。
若者たちも手に入れることができたサーフとテラノ
クロカン4WDが欲しいけれど、パジェロやランドクルーザーシリーズはデカいし高い……。そんな人たちから注目されたのが、トヨタ ハイラックスサーフや日産 テラノでした。
1983年10月に登場した初代ハイラックスサーフはベースとなったピックアップトラックのハイラックスの荷台にキャノピーを載せたようなデザインを採用。形状も3ドアのみの設定でした。1989年5月に登場した2代目は荷室が完全に一体化したデザインでシャープなイメージに変貌。走行中でも2WDと4WDが切り替え可能になるなど使い勝手も向上したことで、多くの人から選ばれるようになりました。
1986年8月に登場した初代テラノもピックアップトラックであるD21型ダットサントラックをベースに開発。当初は3ドアのみでしたが1989年10月には5ドアが追加されました。
どこか都会的なイメージもあったハイラックスサーフに対し、初代テラノは無骨な雰囲気が特徴。そのため乗っているオーナーにも硬派な印象があり、「この人は流行りに関係なく本気でスキーやキャンプをやっているのだな」と感じさせたものです。
1980年代後半〜90年代前半は景気がよかったこともあり、ハイラックスサーフやテラノだと社会人になりたての人やフリーターも手が出せたのも見逃せないポイント。フリーターだった筆者の友人も60回ローンでハイラックスサーフを購入していましたね。
この時代は若者でも給料をたくさんもらっていたというよりも、毎年昇給していくので長期ローンを組むことにそこまで抵抗がなかったのが大きかったと思います。現在、政府は賃上げ政策に取り組もうとしていますが、みんなが安心して買い物ができる時代を本気で復活させてほしいものです。
30年の時を経てクロカン4WD人気が再燃
このように日本人のレジャー志向の高まりとともに盛り上がったクロカン4WD。しかし1990年代中盤から沸き起こったミニバンブームに押されるようになり、その後はクロスオーバーSUVの登場により影を潜めてしまいます。
ランドクルーザーとランドクルーザープラドはずっと販売され続けているものの、テラノは2002年、ハイラックスサーフは2009年に日本での販売を終了。パジェロも販売台数が低迷して2019年に日本での販売が終了しました。
しかし、この時代のクロカン4WDは現在、アースカラーにオールペンしてラギッドテレーンタイヤなどでアウトドアテイストを高めるカスタムが流行中。多くの人が選んでいるクロスオーバーSUVとは違う楽しみ方をしたい若者やファミリーに選ばれています。30年の月日が流れ、適度に枯れてきたからこそ出てくる新たな魅力が生まれています。
最後にひとつ。
空前のスキーブームだった頃、雪の高速道路で多くのクルマが徐行運転している中、右車線をかっ飛ばすクロカン4WDが多くいました。「俺のクルマは4WDだもんね」と調子に乗っていたのかもしれません。ところがしばらくすると、轍などに足を取られたのか、滑って路肩の壁に当たってしまい、呆然としているオーナーの姿を見かけることがありました。
どれだけクルマの制御や運転支援機能、タイヤが進化しても、クルマが滑り出してしまうと立て直すのは容易ではありません。これは4WDでも同じ。これからウインタースポーツシーズンを迎えますが、くれぐれも無茶な運転はせず、安全運転を心がけてください。
(文:高橋 満<BRIDGE MAN> 写真:三菱自動車工業、トヨタ自動車、日産自動車)
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