水素活用が進む福岡市で、産官学+SUGIZOさんが水素社会に向けた活動を講演・・・寺田昌弘連載コラム

国内で特に再生可能エネルギー(再エネ)を積極的に取り入れている九州電力グループ。その九州電力グループは、すでに水力発電128.7万kW、地熱発電55.3万kW、バイオマス発電40.6万kW、風力発電20.7万kW、太陽光発電9.4万kW(2022年2月末現在)の約255万kWを再エネで発電しています。

2030年の再エネ開発目標を500万kWに設定しており、これは九州の世帯数の約7割、430万世帯分に相当します。先進的な技術と現実的な行動で、九州電力は国内でもカーボンニュートラルに向けたトップランナー的存在となっています。

例えば福岡県福岡市では、下水処理で発生したガスを使って発電する施設や下水処理場で処理された水の流れを利用してエネルギーを生む水力発電を考えていたりしています。

また使用時に、CO2を出さない水素に着目し、下水から水素を製造してFCEVに供給する世界初の水素ステーションを運営。2022年にはトヨタと連携協定を締結し、移動式の発電・給電システムの「Moving e」を導入するだけでなく、給食配送車やごみ収集車、さらには救急車にもFCEVを導入し、実証・運行しています。

その水素利活用で注目される福岡で水素エネルギーとモビリティのフォーラム「水素エネルギー×モビリティサミット」がありました。

産官学+ユーザーによる水素サミット

  • 福岡トヨタ本社で開催

「THE CROWN福岡天神 presents水素エネルギー×モビリティサミット」でのパネリストは、九州大学副学長で水素エネルギー国際センター長の佐々木一成教授、福岡市副市長の中村英一さん、トヨタ・ミライ、クラウンなどのチーフエンジニアの清水竜太郎さん、トヨタ自動車九州 環境プラント部 部長の弥永明彦さん、主催の福岡トヨタ 代表取締役の金子直幹さん、そしてLUNA SEAやTHE LAST ROCKSTARSなどで活躍されているギタリスト/ヴァイオリニストのSUGIZOさんの6名。

コーディネーターは産官学をつなぎ、多角的にコンサルティングをする日本総研のプリンシパルの東博暢さんです。

産官学、そしてユーザーのトップランナーがそれぞれの分野での水素との向き合い方、カーボンニュートラル実現の世界をどのように目指しているかお話いただきましたので、ご紹介します。

  • 右からトヨタ自動車九州・弥永明彦部長。九州大学・佐々木一成副学長/教授。SUGIZOさん。福岡トヨタ・金子直幹社長。福岡市・中村英一副市長、トヨタ自動車・清水竜太郎CE。日本総研・東博暢プリンシパル。MCの福岡トヨタ社員

1.九州大学 佐々木教授

エネルギーのメガトレンドは脱炭素に向かい、風力・太陽光など電力が再生エネルギーに向かい、クルマや製鉄など非電力分野も電化や省エネ、水素、バイオ燃料、CCUS(※)をすすめてカーボンニュートラルを目指す必要があると話す佐々木教授。
(※Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageの略でCO2の回収・貯留・有効利用のこと)

そこには燃料電池が有効でクルマやトラック、鉄道の動力として実証・実装が進んでいます。将来的には再エネ由来の水素製造、貯蔵が不可欠で、アンモニアやバイオ燃料など用途に合わせて、燃料、動力源の選択肢を広く持っておくことが重要だ、と語られていました。

  • 佐々木教授が描く脱炭素・水素社会実現加速(例)

2.福岡市 中村副市長

中村副市長は工業都市ではない福岡市でどのようにカーボンニュートラルを目指すかを考えたときに、市民に身近な「まち」に水素を実装していくことを決めたそうです。

「福岡市水素リーダー都市プロジェクト」として下水から水素を製造したり、公的導入だけでなく市民や事業者にもFCEVなどの支援を行ったりし、水素を「作る」「使う」という需要と供給を市民に近いところで拡大しています。

「Moving e」は、イベントの電源車として使用したり、水素啓発教室、防災啓発などを行ったりすることで、すでに6,000名を超える方々に水素を身近に体感してもらっています。

平時にも活躍し、有事の際には電源車として活躍する水素利活用が全国から注目されています。また50haの敷地で水素ステーションから水素パイプラインを通し、新たな水素タウン構想も推し進めているそうです。

3.トヨタ自動車 清水チーフエンジニア

モビリティの立場から清水CEは、HEV、PHEV、水素を使うFCEV、水素エンジン車、BEVなど使用する“地域の事情に合わせた”マルチパスでのモビリティラインナップが必要であることを前提に、FCEVについてお話しされました。

1992年からトヨタのFCEVの開発がスタートし、2002年には日米で限定発売、2014年には世界初の量産車となるミライを発売。

30年以上の開発で多くの走行エビデンスを持ち、ミライの技術が商用トラックに活かされ、その台数を増やすことで水素消費を拡大。ミライやクラウンFCEVでモビリティの可能性、ドライビングプレジャーを拡大していきます。

またコアとなるFCシステムはすでに船舶や鉄道、トレーラーヘッド、フォークリフト、定置型発電と15ヶ国、100社以上に提供し水素利活用の幅を広げています。水素をキーにした仲間づくりをトヨタは拡げています。

4.トヨタ自動車九州 弥永部長

弥永部長は、工場でのカーボンニュートラル方策の3本柱として、「省エネ」と太陽光の余剰電力活用や水素直接燃焼による「再エネ」「ガスCO2フリー化」を掲げています。

再エネの余剰電力は水電解装置を使用することで水素を製造し、FCフォークリフトやFCEVへの使用、定置型FCシステムで電気を照明などに、熱は温浴施設などへ利用することを提案しています。

また水素混焼ボイラーでCO2低減をしたり、自社の太陽光、大林組による地熱、福岡市の下水バイオガス、北九州市の風力、太陽光、ゴミ発電由来の電気で水素を製造し、グリーン水素として九州開催のレースに水素を供給したりしながら、「地産地消水素」の提供を行っています。

5.福岡トヨタ 金子社長

金子社長は、ミライやクラウンFCEVのすばらしさをお客様に伝えることで、県内で乗られるお客様を増やし、万一の際は各地で電源車として活躍していただけるよう啓蒙活動に勤めていきたいとのこと。

地元でFCEVが根付くためにも、第一回より協賛している福岡マラソンの先導車にミライを提供し、ミライとともに福岡マラソンが世界的に認知されるよう挑んでいます

6.SUGIZOさん

SUGIZOさんはエンターテイメント分野でのカーボンニュートラルを目指し、2017年より自身のギターなど楽器電源は、FCEVから供給することをはじめました。自身の実践をもとにアイルランドのロックバンド「U2」来日ライヴもFCEVから楽器電源を供給しています。

LUNA SEA、THE LAST ROCKSTARSなど自身がステージに立つときは、愛車のミライなどFCEVから電源供給を行い、私も愛車のミライを持ち込んでサポートしています。

もうひとつ重要なことが分かりました。FCEVでの電源供給はCO2を減らすだけでなく「音がよくなる」ということです。

遠くから運ばれてくる電気にはノイズが乗ったり、ほかの機器との関係で電圧が多少変動したりします。ライヴ会場裏に停めたFCEVからの電源供給は距離も近く、電気がフレッシュで音質が良いとのことです。

私もいくつもの会場でライヴを聴きましたが、確かに音がはっきりして伸びがあるのがわかりました。現在は楽器のみですが、これから照明やスピーカーなどにも少しずつ試しながら、エンターテイメント分野でカーボンニュートラルライヴに挑み続けるとのことです。

  • 2017年武道館にて、SUGIZOさんがFCEVから供給される楽器電源を利用したライヴを初開催。このとき実現に向けて佐々木教授がサポートしてくださった

<最後に>水力・地熱・風力・太陽光とほかの地方がうらやむほど九州の地の利を活かした再エネとともに、グリーン水素を製造し、使用する人や物を増やしてカーボンニュートラルを目指す福岡。

何より産官学、そしてユーザーが一体となって未来へ挑戦しているのがすばらしい!それを教えてくれた水素サミット、最高でした。ラーメン、明太子だけでなく水素がどこよりも名物になる日がすぐそこに来ている予感がしました。

写真:文/寺田昌弘

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


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