20代のクルマ好き兄弟の感性を刺激した激レア旧車、三菱 RVRオープンギア

  • 三菱・RVRオープンギア

“ネオクラ”“ヤングタイマー”と呼ばれる、1980〜90年代中盤くらいまでの旧車がブームになって久しい。この人気を支えるのは50代の人たちだ。当時はまだ免許を取得したばかりの年齢で新車を買うことができなかったが、あれから数十年経ち子育ても一段落したことを機に、若い頃に憧れたクルマを楽しんでいる。

そして旧車の盛り上がりを支えるもう一つの世代が、20〜30代前半の若者たちだ。彼らはこれらのクルマがデビューした前後に生まれた世代で、新車の頃に街を走っていた光景をリアルには知らない。そんな彼らがなぜ旧車に惹かれるのか。

兄弟で旧車を楽しむ小野健太郎さん(29歳)と康太郎さん(26歳)に話を聞いた。

  • 三菱・RVRオープンギアオーナーの小野康太郎さん(左)と小野健太郎さん(右)

    小野康太郎さん(左)と小野健太郎さん(右)

康太郎「僕らはクルマ好きだった父親の影響が大きいですね。父はホンダ S800やミニのカントリーマンのような、古くて小さなクルマばかり乗っていました。クルマは狭くてエアコンが効かない。そういうものだと思っていました(笑)」

健太郎「僕はサッカーをやっていたので、遠征があると同じチームのお父さんが運転するミニバンに乗せてもらっていました。広いし、涼しいし、『うちもこういうのに乗ってくれればいいのに……』と思っていました。でも父が古いクルマを楽しんでいたことで、気づいたら僕たちも旧車好きになっていました」

現在の愛車は、健太郎さんが2代目 トヨタ セリカ 1600ST、康太郎さんが初代 ホンダ シティカブリオレだ。

健太郎「単に旧車に憧れていた頃と違い、自分で乗るようになってから、毎日が豊かになったことを実感しています。旧車つながりで友達も増えたし、何よりクルマに乗っている時間が好きになりました。旧車は運転が無機質じゃない感じがするとでも言うのかな」

2人は旧車のイベントにも積極的に顔を出している。そこには自分の父親と同世代になる60代の人たちも多いが、彼らとは決定的にクルマの楽しみ方が違うことを感じている。例えば2人の父親がS800に乗っていたように、年配の方々は“名車”と呼ばれるクルマ自体を楽しんでいるが、自分を含めた若い世代は、旧車がもたらしてくれる“暮らし”を楽しんでいる。例えるなら古着やヴィンテージ家具を手にする感覚に近いという。

健太郎「だから興味があるクルマも当時の大衆車や、いわゆる“不人気車”が多くて。それらのデザインほうが僕らの今のライフスタイルにぴったりハマるんですよ」

康太郎「あと、大衆車や不人気車のほうが探す楽しみが大きいですね。名車と呼ばれるクルマはものすごい価格で取引されていますが、逆に言えば専門店もあるのでお金さえ出せば手に入れることができます。でも僕らが好きなクルマはそもそも新車の販売台数が少ない上に、わざわざ旧車として残していこうと思う人もほとんどいなかったものばかり。当時は欲しいと思う人が少なかったかもしれないけれど、数十年経って僕らの感性でそのクルマを見てみると、ワクワクする暮らしが待っていそうだと感じられる。その感覚がおもしろくて」

  • 三菱・RVRオープンギア
  • 三菱・RVRオープンギアのリヤビュー

そんな小野兄弟に今回紹介してもらうのは、2人が仕事用に使っている初代 三菱 RVR。しかもRV車でありながら電動オープン機構を搭載した激レア車、RVR オープンギアだ。正直に話すと筆者自身、RVRのことは覚えているが、彼らに取材を依頼するまでオープンギアの存在は忘れていた。実車を見た時も懐かしさを感じるというよりも「そういえばこんなモデル、あったなあ」と思ったほど。それくらいレアなモデルだ。

康太郎さんはサイクルロードレースでオリンピック出場を目指し、高校卒業後にイタリアへと渡った。2019年に帰国し、その後現役を引退。第2の人生をどうしようかと考えていた頃、健太郎さんも転職しようとしていた。

それなら2人で好きなことをやろうと、ヴィンテージのロードバイクを今風にカスタムし、街乗りを楽しめる自転車として販売するようになった。ゆくゆくはロードバイクだけでなく、バイクやクルマも扱っていけたらと考えているそうだ。

2人は店舗を構えずに商いをしていて、お客さんが買ってくれた自転車を手元に届ける際にこのRVRを使っている。

  • 三菱・RVRオープンギアと自転車

康太郎「僕はオークションサイトで珍しいクルマを探すのが好きで、時間があると“90年代まで”で検索しておもしろいクルマを探しているんです」

健太郎「で、おもしろいのを見つけると僕のところに写真を送ってくるんですよ。ある日、康太郎がこのRVRを見つけて、2人で『すげえ!』となって。思わず手に入れてしまいました(笑)」

その後、2人で今の仕事を始めるようになり、自転車を積むのにちょうどいいと、仕事で使うようになったそうだ。

  • 自転車を積んでいる三菱・RVRオープンギア

康太郎「僕らがプライベートで乗っているクルマはMTだしエアコンも効かないから、RVRはすごく快適です。夏はついついRVRで出かけちゃいますね」

健太郎「もう30年も前のクルマなので、電動オープンルーフから雨漏りします。でも一度ルーフを開けてから戻してあげるとウェザーストリップがしっかり密着して、しばらくは雨漏りしなくなるんですよ。クルマの機構はある程度使ってあげることが大切なのだなと思いました」

  • 三菱・RVRオープンギアのリヤゲート

人気のある旧車なら、もしトラブルがあったとしても純正部品が見つかるかもしれないし、社外パーツやリプロパーツがある可能性もある。しかし、小野兄弟が好きなクルマだと、比較的新しいものでもパーツ探しが困難になる。だからこそ、調子が悪い部分も含めて楽しむ必要がある。

たとえばこのRVRはバックドアのダンパーがヘタっているがパーツが見つからないため、ドアを開ける時は突っ張り棒で支えている。でも2人はこの姿を見て「愛嬌があっていいでしょう」と笑う。

康太郎「僕らはたまに自転車関連のポップアップイベントにも参加していますが、このRVRを珍しがって僕らのブースに来てくれる人も多いんですよ」

健太郎「2人で銀座を走っていて信号待ちしていたら、隣にルーフを開けたポルシェ 911タルガが止まったんですよ。そうしたら911の窓が開いて、ドライバーの方が『俺、新卒の時にオープンギアに憧れていたんだ。でも金がなくて買えなかった』と話しかけられました。いやいや、911に乗っているなら余裕で買えますよって思いました(笑)」

康太郎「日曜日の朝は東京の外苑前にスーパーカーのオーナーが集まったりしていますが、RVRで外苑前に行くと『君たちのクルマが一番いい!』って言われたりしますね」

  • 三菱・RVRオープンギアのオープントップ
  • 三菱・RVRオープンギアの運転席
  • 三菱・RVRオープンギアのフルフラットシート
  • 三菱・RVRオープンギアのカタログ

おもしろエピソードに事欠かず、2人とも気に入って乗っているRVRオープンギアだが、最近は乗り替えを考えることもあるそうだ。というのもコンパクトなRVRだとオーダーを受けた自転車を何台も積むことができないため、仕事に支障が出てしまうことがあるのだという。

もし調子が悪い部分も含めて面白がって乗ってくれる人、そしてできれば近所に住んでいてたまにクルマの様子を見に行かせてもらえる人がいたら譲りたいと思っているが、なかなか見つからないようだ。ちなみにRVRを手放したら、次はどんなクルマを仕事用に使うのだろう。

  • 三菱・RVRオープンギアオーナーの小野康太郎さん

康太郎「マツダのボンゴフレンディがいいなと思っています。あれくらいのサイズがあれば複数台の自転車を積むことができるし、ポップアップルーフがついているのもおもしろい」

健太郎「僕は初代ホンダ ステップワゴンに興味があります。初代には2列目シートが回転するやつがあるんですよ。それが楽しそうだなと思って。100系など昔のハイエースも考えましたが、ちょっとメジャーすぎるかな」

康太郎「今は人気が出て乗っている人が増えたからね。それなら日産のホーミーとか、いっそのこといすゞ エルフのダブルキャブとかにしてもいいかも」

  • 三菱・RVRオープンギアオーナーの小野健太郎さん

RVRオープンギアほどではないが、新たな候補として出てくるクルマも今となってはレアなモデルなので、街で目立ちそうだ。しかし90年代の大衆車を追いかけ続けていると、今後は今以上に入手困難になりそうだが……。そんな心配を口にしたら、2人は笑顔でこう教えてくれた。

健太郎「実は最近、2000年代前半のクルマがかわいく感じてきました。僕は初代 日産 エクストレイルや初代 スバル フォレスターがいいなと思っています」

康太郎「僕の中では丸目の2代目 日産 キューブ前期型やY34型の日産 セドリックが熱いです」

  • 三菱・RVRオープンギアの前で笑顔を見せる小野康太郎さんと小野健太郎さん

なるほど。これまで気に留めなかったクルマも年月が経ち適度に枯れてくると、小野兄弟を始めとする旧車好きの若者たちの感性に合致するようになるのだろう。そこには彼らのさまざまな経験も影響を与えているはずだ。これからも「こうじゃなきゃダメだ!」という既成概念にとらわれることなく、自由にクルマを楽しんでほしい。

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(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人 編集/vehiclenaviMAGAZINE編集部)

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