現行車と変わらないくらい“普通に乗れる”ファミリーカー仕様の「観音開きのクラウン」
2005年にアメリカ留学をした際に、現地に住む老夫が乗っていた古いアメ車のカスタムカーを見かけたことが、自分も旧車に乗るようになったキッカケだという小林さん。
気になって近づいてみると、そのクルマは旧車にもかかわらず時の流れを感じさせないほどエンジンやブレーキ、そして見た目まで、すべてがピカピカで新しさを感じたという。
しっかり手を入れることで古いクルマになんの不安もなく乗れているという老夫がカッコよかった、と思い出しながら口元が緩んだ。
そう話す小林さんの愛車は1962年式のトヨペットクラウン 1900 デラックス。一体どんなカーライフを送っているかに迫ってみた。
帰国して愛車として選んだのは、シボレーC10など米国製の旧車たちだったという。影響され過ぎかな?と苦笑いしつつも、それでも止められないくらいのカッコよさがあったのだと力説してくれた。
「あの老夫が、帰国後も忘れられないくらいのインパクトがあったんですよ(笑)。あとで知ったのが、古いクルマをレストアしつつチューニングするスタイルを“レストロッド”と呼ぶということでした。あの老夫の愛車はまさにそんなクルマで、僕もそういうスタイルに憧れてアメリカの旧車に乗るようになったんです」
そうしてホットロッドを意識しつつレストアした愛車に乗る日々がしばらく続いたそうだが、大きいサイズのクルマに使いにくさを感じるようになるなど、徐々に日本の旧車に乗ってみようという思いが強くなっていったのだそうだ。
1955年に登場したトヨペットクラウンは、当時はまだ珍しかった純国産設計のセダンで、フロントサスペンションはこれまた当時は珍しかったダブルウィッシュボーン式の独立懸架、リアサスペンションも新技術を取り入れた3枚ばねのリーフスプリングリジットアクスルを採用した。
その走行性能や耐久性を証明するために参戦した1957年のオーストラリア1周ラリーでみごと完走し、トヨタのモータースポーツの歴史を開いたモデルとしても知られている。
外観はトレードマークといえる“観音開き”のドアをはじめ、クロームメッキを多用した煌びやかなフロントフェイス、フェンダーまわりのボリューム感溢れるデザインなどが特徴で、どこかアメ車を思わせる雰囲気があるという。
数ある国産旧車の中からトヨペットクラウンを選んだのは、この外観にひと目惚れしてしまったからだと目の奥をキラキラさせながら教えてくれた小林さん。
「小さいアメ車っぽくないですか?クラウンというクルマが好きというよりは、この外観が好きで購入したという感じなんです」
所有して10年経った今でも、ドキッと心が踊ることがあるのだという。
「羽のようなテールフィンを見ると、アメ車っぽいな~と感じるんですよね。あとは、黒色のボディーにキラキラ光るメッキも派手さがあって、それっぽいのかなと思います。僕は走行性能とかそういう部分じゃなく、この見た目に惚れてすぐに購入しましたから。見た瞬間、あっ!このクルマ良い!みたいな」
と、気楽なトークでクラウンについて話してくれていたのだが、横にいた奥様がすかさず「確かに、見に行ってくると言ってから購入するまでのスピードが早かったよね。いや、クラウンに限らず、気に入ったクルマはいつも判断が早すぎるんだよ(笑)。
何の相談も無しに、床に穴の空いたボロボロのクルマを買ってきたことがあったんですけど、あれは流石に驚きましたね~。まぁ、主人が楽しそうだから良いんですけど」と、苦言を呈しながらも優しい笑顔で教えてくれた。
外装はボディこそ再塗装を行なったものの、前オーナーさんが車庫保管をしてくれていたのでメッキ類もピカピカでほとんど手を加える必要はなかったそうだ。
いっぽうで“中身”に関しては、原型を留めていないと言ってもいいくらい変わっているという。
まず最初に行なったのは、タウンエースなどに搭載されていた3S-FE型エンジンへの載せ替えだ。高出力化はもちろん、燃費向上、移動中のエンジン音の大きさ減少など、実用性アップを狙ってのことだという。
加えてミッションも運転操作が少ないオートマに載せ替え、ファイナルギア比をハイギヤード化することで高速巡航もより快適におこなえるようになっている。燃費は、レギュラーガソリンを入れた時は10km/Lくらい、ハイオクだともう少し燃費が良くなるといった感じらしい。
また、ブレーキも制動力やパーキングブレーキなど普段使いに対応する性能を求めてドラムブレーキへと仕様変更。電動パワステまで導入しているというから徹底している。
小林さんがここまで“運転しやすい仕様”に拘ったのは「普段使いしたかったから」だと話してくれた。通勤やスーパーに行ったり、お子様の送迎やお出かけにもクラウンに乗って行きたいのだそうだ。
「この前は、家族全員で東京まで8時間くらいかけて遊びに行きましたよ。ほかにも、ロングランでしょっちゅうどこかに旅行に行っています。だからこそ快適に走れるようにしたくて。
例えば、駐車場に入れる時に毎回気を使うなんて嫌じゃないですか。日常的に使うからこそ、運転が苦と感じず楽になるようにしていったんです。もちろん、これは乗り心地にも言えることで、快適じゃないと家族がついてきてくれなくなっちゃうから(笑)」
必要不可欠だったのは、クーラーの装着だという。もともと設定が無かったため、ショップに頼んで新たに取り付けてもらったそうだ。これで夏休みも家族でお出かけに行けると、満足そうな顔で子供たちに目をやった。次に取りかかったのは、板バネからリンク式サスペンションに変えたことだ。
「板バネのときは、フワフワしているというか独特な乗り心地だったんですよ。曲がったときなんかは、グワンと横揺れしていたんですけど、リンク式にしてからは割と普通車っぽい乗り味になりましたね。子供達が後席でスースー寝ているから、多分大丈夫なんでしょう(笑)!
車高を落としているから、段差でガコンとなっちゃうこともあるけど、それはご愛嬌ということで♪」
外装とはうって変わってオリジナルの箇所がほぼないため、車両点検のためリフトアップした整備士がびっくりしていたというほど、60年も前のクルマとは思えないくらいキレイだという。
ガソリンスタンドや街中でも声をかけられることが多く、そういうのが嬉しくもあるのだそうだ。
また、クラウンきっかけで出来た友達も多く、走って楽しいだけではなく、ご縁も運んできてくれたとサイドミラーに手を置いた。
「消耗部品がなかなか見つからないとか大変さもありますが、このクラウンに乗っていると運転がますます楽しくなっちゃうんです。だから、どんどん走行距離を重ねていきたいと思います(笑)。貴重なクルマだから普段使いしたら勿体ないよ~なんて言われることもありますが、僕は動かしてなんぼだと思っているんです。骨董品にせず、しっかりクルマとしての役割を果たさせてあげないとなって」
この日のイベントではみごとに賞典もゲット!!
取材させていただいたのは11月だったが、きっとこの冬休みにも、クラウンに乗って家族旅行に出かけているに違いない。
取材協力:ジャストマイテイストミーティング
(文:矢田部明子 / 撮影:平野 陽)
[GAZOO編集部]
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