【現地取材】世界最大のスマートシティ展示会、10年の変化―スマートシティ最先端都市バルセロナ編⑥

スマートシティエキスポはバルセロナ新市街中心にある巨大な展示会場「Fira Barcelona Gran Via」で開催されるhttps://www.firabarcelona.com/en/
スマートシティエキスポはバルセロナ新市街中心にある巨大な展示会場「Fira Barcelona Gran Via」で開催される
https://www.firabarcelona.com/en/

社会インフラや治安維持、快適なモビリティと環境の両立を目指し運用される統合システム「センティーロ」、市内指定地域の全面車両通行止めなど大胆な交通規制をともなう「スペリージャ」に代表されるバルセロナ市のスマートシティプロジェクトは、渋滞の緩和、エネルギーの効率化など実社会への効果反映とともに、その技術と運用ノウハウが蓄積されていく。

スマートシティプロジェクトが開始されてから10年、2010年に「スマートシティエキスポ」という展示会が誕生。初回よりバルセロナ市も出展して取り組み内容を発表しているほか、多数の自治体・企業が参加。2019年は出展者1,000ブース、来場者数は2万4千人を数え、世界最大のスマートシティ展示会となっている。

今回は主催団体「Fira Barcelona」のディレクター ウーゴ・バレンティ氏へのインタビューを行い、展示会を通じて見たスマートシティの10年間を伺った。

スマートシティエキスポの立ち上げから関わっているディレクターのウーゴ氏にお話を伺った
スマートシティエキスポの立ち上げから関わっているディレクターのウーゴ氏にお話を伺った

世界に発信するスマートシティエキスポ

ウーゴ氏が所属するFira Barcelonaは、展示会場そのものの運営とイベント主催運営の両方を行う公営企業(カタルーニャ州政府・バルセロナ市・バルセロナ商工会議所が出資)。
巻頭写真で紹介した展示会場「Fira Barcelona Gran Via」は建築家 伊東豊雄氏が設計し2007年に開業。展示面積は20万㎡(東京ビックサイトの2倍強)と広大で、年間100件近い展示会/見本市を開催し、300万人以上が訪れる。

世界初の大規模スマートシティプロジェクトに取り組むバルセロナ市でスマートシティエキスポが行われることに不思議は無いが、「バルセロナ市にフォーカスを当て、市民のためにどのような活動ができるか」からスタートした展示内容は現在、スペイン国内や欧州に向けたものでは無く、完全に世界に向けた発信になっているという。

Fira Barcelona本社は旧展示場「Fira de Barcelona」内にあり、向かいには闘牛場を改装したショッピングモール「Arenas de Barcelona」が見える(なお、バルセロナでは2012年に闘牛が禁止されている)

スマートシティエキスポには国や自治体などの行政機関、企業・団体が参加し、入場者は行政関係者やビジネス関係者に限定される(一般人は入ることができない)。
2010のスタート当時は情報通信会社やソフトウェア会社の出展が多かったが、近年は自動車メーカーを含めたモビリティ関連企業の割合が増えている。

バルセロナの統合システム「センティーロ」も電気、水道、ゴミ処理、モビリティと様々な分野を取り扱うが、喫緊最大の課題となっている「大気汚染」を解決するためには、モビリティ分野の圧倒的改善が急務であることはこれまでの取材でもたびたび耳にした。

センティーロのモビリティ分野を担当する交通局は、関係各所と連携して課題解決を目指している

「バルセロナのセンティーロを他の国や都市にそのまま持って行っても、恐らく役に立たないでしょう。地域毎に最重要課題が異なるだけで無く、市民の考え方や文化も考えたシステムでなければ、受け入れられず効果も出しにくいと思います」とウーゴ氏は言う。
確かに、バルセロナ交通局が行っている「市内全ての車両ナンバープレートをカメラで読み取り自動的に取り締まる」システムを日本にそのまま導入できるかと言えば、相当難しいだろう。
スマートシティエキスポに世界の関係者が集まり情報交換することによって、「個別の課題を解決するヒント」が得られ、「自分たちが持つ課題に近い取り組み」を知ることができる。
地域毎の課題解決を進めることは、ひいては世界規模の気候変動の改善などにもつながる。その橋渡しをするスマートシティエキスポは非常に重要な展示会と言えよう。

スマートシティの成功には市民の参加と理解が不可欠

ウーゴ氏は「スマートシティ成功のためには市民の参加と理解が不可欠」と考える

スマートシティエキスポが10年で世界規模の情報交換会に成長した一方、Fira barcelonaではエキスポ開催1週間前に市民向けイベントも行っている。
その最大の目的は、スマートシティエキスポの意義と内容を市民にも広く知ってもらうことで、「一人一人が課題解決の主人公なんだという意識を持ってもらうこと」だという。
説明ツアーやVR(仮想現実)を利用したショーケースなども用意。一人でも多くの市民に参加してもらえるよう、全て無料で開催しているそうだ。

ホームページではスマートシティエキスポの理念などが詳しく解説されているhttp://www.smartcityexpo.com/
ホームページではスマートシティエキスポの理念などが詳しく解説されている
http://www.smartcityexpo.com/

Fira barcelonaウーゴ氏が考えるスマートシティの完成形

ウーゴ氏は「究極的には、世界中がベストな状態になることを目指しています。インテリジェンスシティ構築と普及を目指すことが、私の明確な目標です」と語る。

世界の国々にはものすごい格差があり、とても発展している国、人口爆発が起きている国、貧しい国、大気汚染、海面上昇、数えだしたらキリが無いほど。だからこそ、世界中の課題に対するソリューションを見つけて課題を解決するために、スマートシティエキスポが果たす役割にも期待が高まる。

「できるだけ公共交通機関を活用し、クルマは所有していません。でも、必要な時は父のクルマをよく借りるんですよ」と笑うウーゴ氏
「できるだけ公共交通機関を活用し、クルマは所有していません。でも、必要な時は父のクルマをよく借りるんですよ」と笑うウーゴ氏

スマートシティエキスポは、近年はバルセロナだけでなく、メキシコ、アルゼンチン、チリ、そして京都でも開催されており、Fira Barcelona社 / ウーゴ氏もコラボレーションしているそうだ。

センティーロシステムやスペリージャ規制は、それはバルセロナ市の地形、密集度、文化、全てが絡み合った上で成功しつつある取り組みであり、都市ごとの事情や課題に合わせてソリューションを最適化することが重要だとウーゴ氏が強調するのは、それだけ世界各国数多くのスマートシティプロジェクトを知っているからだろう。
次回は「縦と横」で走るバスシステムなどを紹介したい。

[ガズー編集部]