レクサスRC 開発責任者に聞く(2/4)

ポルシェ911ターボとの出会い

真剣に、しかし自然体で語る草間チーフエンジニア

入社して7年が経ち、1990年から3年間、ヨーロッパに駐在しました。オフィスはベルギーのブリュッセル郊外にあり、実験部に駐在して、ミュシュランとスープラのタイヤ開発を担当しました。リファレンス・カーとしてスープラの競合車をレンタカーで借り、ヨーロッパの道やニュルブルクリンクのコースをさまざまなクルマで走りました。その中の一つがポルシェ911ターボです。

あるとき上司から「エンジンを載せ替えたばかりの911ターボを休日にならし運転をしてきてほしい」と頼まれました。最初こそエンジンを回しすぎないように注意しておとなしく運転していましたが、国境を越えてドイツのアウトバーンに入ると我慢できなくなり、ついついアクセルをベタ踏みに。最高速度260キロを体験しました。路面にぴたっと吸い付くようなその走りはまさに衝撃でした。結局、その後はならし運転のことなんてそっちのけで、2日間、最高速度での走りに夢中になりました。

ポルシェ911ターボで特に参考になったのは足回りとシート。そしてギアリングです。当時の911ターボはマニュアルミッションの5速。2000回転くらいからターボがきいて、使えるレンジがすごくワイドでした。また、トルクが太い。だからアップダウンが多くカーブが連続するニュルブルクリンクのコースを走るときもシフトチェンジが少なくて済み、とても走りやすい車でした。当時のスープラの試作車第1号車ではギアリングが異なり、シフトアップのタイミングが違う。スープラだと、ここでシフトアップしたいというタイミングがコーナーの途中で来てしまいます。普通の道ならまだしも、ニュルブルクリンクのコースだと合いません。このとき、ギアリングはものすごく重要なんだということを911ターボとニュルブルクリンクの道が僕に教えてくれました。

このポルシェ911ターボは、それ以来ずっと僕のクルマ開発に大きな影響を与えています。911ターボとの出会いによって、自分なりにクルマを評価するときの一つの基準、尺度ができました。また、駐在していた実験部にはサーキット走行を教えてくれる人がたくさんいました。そんな仲間と議論しながら、スキルを磨き、評価をして、スポーツカーの走りを学ぶことができました。ヨーロッパ駐在の3年間で体験し、作り上げた理想の走りがいまでもクルマづくりの土台になっています。

クーペの本質として磨き上げたデザインと走り

ひと目で魅了する官能のクーペスタイル
ワイド&ローのフロントビューと、豊かに張り出したホイールフレアにより強調されたタイヤの存在感が、極めて俊敏な運動性能を予感させる。

さて、RCです。このクルマの開発にあたり、最初に「クーペとは何か?」ということを改めて見つめ直しました。クーペの特徴を考えてみると、ドアが2枚しかなく、荷物もあまり載せられない。一般的にはあまり使い勝手のいいモデルとはいえません。しかし、それでもクーペは昔からクルマ好きにとって憧れのクルマとして愛され続けています。その理由はとてもシンプル。クーペは「かっこいい」からです。美しいスタイルのために、心躍る走りのために、快適性・利便性などは潔く削ぎ落とす。言葉や理屈を必要としないピュアなかっこよさ。それこそがクーペの魅力です。

ですから、RCが目指したのは「見るものを魅了し、誘惑する“Sexy”なデザイン」と「乗るものを情熱的にさせるAgile(俊敏)な走り」の両立です。これまで“Sexy”という言葉はいろいろな意味で誤解を招く危険な言葉なので、使用を避けて“エモーショナル”とか“エレガンス”という言葉で置き換えてきていましたが、今回は誤解を恐れずあえて禁断のキーワード“Sexy”を使っています。

ひと目見た瞬間に「何が何でも欲しい。絶対にこれに乗るんだ」と思っていただける官能的なスタイリング。そして、そのスタイリングのイメージにふさわしい情熱的な走り。エレガントでラグジュアリーなクルマでありながら、スポーティな走りが楽しめるクルマを作りたかったのです。

例えば、「今日はよく働いたなあ」と仕事に疲れた時、運転席に座るとほっとしてくつろげる。ゆったり気持ちよく運転して帰宅できる。また、「今日はちょっと走ってみたいなあ」というときもキビキビとした走りで応えてくれる。さらにはサーキットにクルマを持ち込んで本格的な走りさえ楽しめる。そんなクルマを目指しました。

MORIZO on the Road